第一章 第六話 「人間界へ」
「魔王の生き残り」オルティマはいよいよ人間界へ!
たくさんの冒険が始まる??
転生してからいつの間にか、3年という月日が流れた。
ゴブリン達はいつも通り働き、オルティマの成長に尽くしていた。
しかし、オルティマのレベルはまだ1だった。
というのも、よくよく考えてみると魔王である私が、魔界にいる魔物を倒したら仲間割れになってしまう。
「どうちゅるか……」
走れるようになり、たくさん喋れるようにもなった今なら、何か手段はあるだろう。
「それなら人間界へ行くしかないよ」と簪の姿のスラッちが話しかけてきた。
「でも、人間界へ行くのはあぶないから、だめって長老が言ってたんだよ?」
「大丈夫だよ!人間界へ行くゴブリン達にこっそりついていけば問題ないでしょ」
スラッちは安易に考えているが、まさか人間を倒して経験値を得ようとしているのではないだろうか。
しかし経験値を得るにはそれしかない。
「あ、いい方法があるよ!」
_______
オルティマ達は早速、ゴブリン達の遠征に向かう道具の中に隠れ、息をじっと潜めた。
そして_____
「いよいよだね……」
人間界へ行くには、いつも洞窟の最奥にある不思議な扉から行っていた。
その場所だけ空間がよじれているそうで、
この魔界と人間界の洞窟を繋いでいる。
「おい!この荷物はなんだ?」
「!?」
一人のゴブリンがオルティマの隠れている、どう見ても膨らんだ異様な袋に気づいた。
オルティマは息をぐっと堪えた。
「しらね。食料じゃね?」
「あーね」
なんて無関心な会話だろうと、オルティマは心の中で思った。
「じゃーいくぜー!」
ゴブリンが荷車を押し、扉の中へ入っていく。
(さぁ人間界へ!)
オルティマを乗せた荷車は、扉を越えてついに人間界へと入っていった。
______
正面からものすごい風圧が来る。
まともに目も開けられない。
「なに……これ……苦しい」
「オルティマ......どうなったの......」
まるでバイクで猛スピードを出して、口を開けた時の感覚に似ている。
普通のスライムの姿に戻っているスラッちも苦しそうだ。
地に足はついておらず、全身びしょ濡れになって浮いている。
(まさかっ)
体を無理矢理、強風とは反対の方へ向け、目を開けると辺りは霧に包まれていた。
(雲の中か!)
空間のよじれにバグでも起きたのか、ゴブリンたちの荷車から放り出され、気づけば雲の中にいた。
雲を突き抜け、どんどん白い雲が遠くなっていく。
「私達、落下してる!?」
「えぇええええ!」
スラッちも目が飛び出すようなリアクションだ。
下を振り向くと、果てしない緑の草原が広がっており、遠くの方では人間が住んでいそうな村が見える。
「このままじゃ、落下して死んじゃう!」
背中に生えた羽根も、小さいせいであまり意味はない。
何かいい方法はないだろうか。
あと数秒であっという間に地に落ちてしまう。
「僕に任せて!ちょっと力を借りるよ!」
スラッちが魔力を吸収した瞬間、その体が信じられない速度で膨れ上がっていく。
「私のMPは1しかないよ!?」
「え!?」
スラッちが吸収したその魔力は、とてつもない密度に凝縮された魔力で、並の魔物が扱うと災害級に被害が出てしまうのだ。
(そうか!あの時、初めて魔王覇気を使った時も、魔界全域にまで広がっていったのは)
「あわわわわ!」
スラッちの柔らかい体はみるみる巨大化していき、まるで山のように膨れ上がった。
「よしっ!これなら!」
ボヨーン
落下の衝撃が、スライムボディにより吸収され、スラっちがクッションの役割になったおかげで、無事に助かることができた。
「あーなんとか助かったー。もう元に戻っていいよ!」
「わかった!」
オルティマの声を聞いたスラっちは、山のように巨大だった体が徐々に縮んで、元の簪の姿へと戻った。
他のゴブリン達はどうなったのだろうか。
「それじゃー人間界を見て回ろうか!」っというスラっちの意見に同意したいが、オルティマの魔力は残っておらず、疲れ果てていた。
「とりあえず、あの村まで行って休憩したいよ」
「そうだね!」
オルティマの言葉にスラっちも賛同し、オルティマは簪を髪に刺して、歩き出した。
_______
道中、村の方角から3人の人間が武器をもって歩いてきた。
ついにこの世界の人間を、初めて見る。
3人は、冒険者という名にふさわしき格好をしており、赤髪の男剣士、黒ローブの女魔法使い、そして軽装の女弓使いだ。
「まって!敵よ!」
魔法使いの女性がオルティマに気づいた。
「どこだ!」
他2人の人間は武器を構えたが、魔法使いの女性がオルティマのオーラを感じ取り、恐怖で震え出した。
「な、なんなの……このオーラは……」
他の二人には、魔力を感じ取る力はなく、
オルティマの姿を見て、肩の力が抜ける。
「なんだよ、ただの子供じゃないか」っと安堵する男性剣士の言葉に対して、女性の弓使いも何か違和感に気づく。
「でもなんでこんなところに小さい子供が?それに……」
3人はオルティマの角や羽を見て、悪魔ではないかと推測した。
今は魔力が回復していないオルティマは、警戒させないように挨拶した。
「こんにちは……」
「こ、こんにちは」
3人の冒険者は、オルティマの言葉に思わず、挨拶を返した。
前世で引きこもりニートだった男が、現実で最後に人とまともに会話したのはいつぶりだろうか。
それに……
(なんで魔法使いみたいな人、そんなにびびってるんだ?)とオルティマは心の中で思った。
(たぶんオルティマの魔王としてのオーラが溢れでてるのかも)っとスラっちが心の中に語りかけてきた。
(私、最大魔力1しかないのに?)
(でもほら?密度は計り知れないから)
スラっちと心の中で対話していると突然、剣士の冒険者が優しく話しかけてきた。
「なぁ、お嬢さんはこんなところでなにをしているんだい?」
我は魔王だ!っと名乗りたいが、今は疲れ切っているし大事になったら大変だ。
自らの軽率な行動で魔界のみんなにも迷惑をかけるのは良くない。
「迷っちゃって……」
嘘をついた。
前世の頃から嘘は苦手だった。
しかし自分を守るためには嘘をつくしか道はない。
昔からそうだった、嘘をついてもすぐにバレるだろう。
しかし_____
「そうか!迷っちゃったんだな。もう大丈夫だ」
赤髪の男剣士が、オルティマを抱き抱えた。
「よし!ひとまず村へ戻るか!」
「ちょっとまって!その子供、絶対嘘ついてるよ!悪魔に違いないって」
黒ローブの女魔法使いが、静止するように呼びかけた。
「だからって放っておけないだろ! 悪魔だったとしても、こんな小さな子供なんだぞ!」
なんてイケメンな性格をしているんだろうとオルティマは感激した。
見た目も20代後半と若く見え、まるで冒険ファンタジーの主人公のようだ。
女魔法使いは、あまり納得してないようだ。
「もう、どうなっても知らないからね!」っと捨て台詞を吐き、先頭を進んでいった。
顔はなかなかの美人だった。
スタイルも抜群だろう。
あまり喋っていない軽装の女弓使いも、よく見たら耳が長く、露出が多い。
(え!?ちょっとまって耳が長いってことはエルフか!?)
魔界にはこんな美人さん達はいない。
この人間界はまるで天国ではないだろうか。
想像に胸を膨らませ、オルティマはこれからどうなるのか楽しみで仕方なかった。
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