第一章 第九話 「悪魔王メレス」
第九話公開!第一章もついに大詰め!
最後の結末を見届けよう!
魔界の空を、圧倒的なスピードで駆け抜けていく。
悪魔王メレスの背から生えた翼が、大きく羽ばたかせる。
「あぁ……愛しのオルティマ様!今すぐこのメレスが助けに参ります!」
あっという間に、ゴブリンの巣窟へと到着すると、ゴブリン長老が出向いてくれた。
「おぉ、メレス様!なんとお早い到着」
「話はいい!すぐに人間界へと向かう!魔晶石の用意を!」
「なんと……オルティマ様は人間界へ!?」
人間界へ無事に行くにはこの魔晶石が必要だ。
でないと空間の歪みにより、ランダムに転移してしまう。
(もしかするとオルティマ様は、それを知らずに……)
「用意できました。オルティマ様をよろしくお願いします」
「あぁ、任せろ」
洞窟の最奥にある不思議な扉、人間界と魔界を繋ぐその扉をこじ開け、悪魔王メレスはついに人間界へと出向く。
______
人間界で魔物が多く生息している山脈、かつて魔王の一人が命を落とした場所、ネルオール山脈の奥深くで扉が開かれた。
「久方の人間界だな」
悪魔王メレスは目を閉じ、転移スキルを発動する。
「ヘルズ・ゲート」
地獄の門を通じた移動手段、たった一歩歩くだけで、目的地に到達してしまうが、人間界でしか使えない。
戦闘にも応用可能でメレスにとっては便利な技だが、魔力の消費が大きい。
「着いたか……」
目を開けると、王都アルカディアの上空にいた。
するとアルカディア城の屋上から一人の男性が舞い上がってきた。
悪魔王メレスと同じ目線に並び立つと、不敵な笑みを浮かべる。
「よぉ、久々だな。メレス……いや、今は悪魔王メレスだったか」
黒髪に赤い瞳、真っ白なローブを羽織り、胸には魔晶石が埋められた特殊な鎧、腰にはこの世界でたった一人だけ手にすることを許された光の帝剣、見間違えるはずもない。
「勇者アルマ・ジ・オルタレス……まだ生きていたんだな」
悪魔王メレスはかつてないほどの警戒をしながら、勇者と言葉を交わす。
「そっちこそ老いぼれたな、メレス。かつての大戦で俺に翼を捥がれかけた恐怖を、もう忘れたのか!!」
アルマは光の帝剣の柄に手をかける。
その身から放たれるプレッシャーは、かつて魔界を絶望に陥れたあの頃と何一つ変わっていなかった。
だが、今のメレスに退く選択肢はない。
「恐怖など、とうに捨て去った!!」
悪魔王メレスが正面から、勇者アルマへ飛びかかった。
メレスの攻撃は、武道の達人のように幾つもの残像を残しながら、アルマの急所へ容赦なく叩き込んでいく。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
しかし__
キィィィィィィィン!!
アルマの抜刀した一撃で、メレスの両腕が切断されてしまった。
「ぐっ!?」
だがこのメレスにとっては、腕を切られた程度では致命傷にはならない。
ズズッ!!
魔力を一瞬込めるだけで元通りに再生した。
「へぇ、あの頃の魔王達に匹敵するんじゃないか、そのキモさッ!!」
勇者アルマが光の帝剣を突き出すと、剣の先から果てしない光のエネルギー弾が解き放たれた。
「ジャッジメント・ノヴァ!!」
悪魔王メレスを中心に、逃げ場を無くすように光の柱がいくつも立ち上がり、次の瞬間、その内側の空間ごと太陽の表面のように大爆発を起こした。
勇者アルマの奥義だ。
悪魔王メレスは覚悟を決める。
(くっ……ここまでだな)
天を貫く光の柱が王都の上空で、凄まじい熱量と共に大爆発を起こす。
その神々しくも禍々しい太陽のような光は、王都アルカディアの全域を昼間のように真っ白に染め上げた。
「さらばだ、悪魔王メレスよ」
勇者アルマは剣を腰の鞘に収め、アルカディア城の自室へと戻って行った。
ドドドドズズズズ!!
地響きのような振動が、大監獄タルタロスにまで伝わってきた。
その激しい揺れに、意識を失っていたオルティマは目を覚ました。
(うぅ、外で何か起こってるのか??)
辺りに人の気配はないが、檻の中、手足は鎖に繋がれて身動きができない。
すると突然、目の前に地獄の門が出現する。
(こ、これは一体......)
地獄の門から傷だらけの悪魔王メレスが現れた。
「えぇぇぇええ!メレチュ!?なんで??」
オルティマは驚きと嬉しさで胸がいっぱいだった。
「オルティマ様、時間がありません。すぐにここから脱出しましょう」
メレスはオルティマの手足に繋がれた鎖を破壊すると、もう一度ヘルズ・ゲートを発動させる。
悪魔王メレスの作戦はここまで完璧だった。
(勇者には絶対に勝てないとわかっていた。だからやつの魔力を減らし時間稼ぎする必要があった)
勇者は回復するまでもう追ってはこないだろう。
しかし魔力が残っていないのは、悪魔王メレスも同じだった。
(残りの魔力を使って、ヘルズ・ゲートでネルオール山脈の扉まで行ければいいが……)
オルティマを抱き抱え、ヘルズ・ゲートを超える。
「メレチュ……ごめんなさい」
「心配ありませんよ……オルティマ様」
ヘルズ・ゲートを越えると、50mほど先に
人間界と魔界を繋ぐ扉が見えた。
「よかった……あと少しで帰れますよオルティマ様……」
「うん!」
魔力の使いすぎで疲れ果てているメレスは、徐々に足も重くなっていく。
「メレチュ!!ちっかりちて!!あと少し!」
オルティマの声が、だんだん遠くなっていく気がする。
やはり、勇者アルマの最後のあの攻撃は、魔力そのものを徐々に削りとっていくのだろう。
ヘルズ・ゲートで交わしたつもりが、空間そのものを断ち切っており、肩から血が流れている。
すると突然、空から一人の男が舞い降りた。
ドスン!
激しい風圧と共に、メレスと魔界の扉を遮るように着地したその男は、純白のマントをなびかせ、腰の美しい剣の柄に手をかけていた。
冷徹で冷酷な表情。大監獄でオルティマを恐怖に陥れた、剣聖ゼクトリアだった。
「……やはりな。お前たちがここを目指すことは、アルマ様の洞察スキルで全て織り込み済みだ」
剣聖ゼクトリア・ジ・バーンは、あざ笑うように不敵な笑みを浮かべ、腰の剣をゆっくりと引き抜く。
キュィィィィイイイイイイン!!
あの時と同じ謎の光が、ネルオール山脈の暗闇を白く照らし出していく。
「オルティマ様……これを」
悪魔王メレスから託されたのは、人間界と魔界を行き来するための魔晶石だった。
「メレチュ!なにを!!」
魔力は底を突き、一歩も動かすことすら限界に近い悪魔王メレスだが、その背中はとても大きく見えた。
「メレチュ……」
「オルティマ様……愛しています」
剣聖ゼクトリアの光輝く何万もの刃が、メレスとオルティマを埋めつくように降り注いだ。
メレスは最後の力を振り絞り、オルティマを魔界の扉へと突き飛ばした。
「メレスゥゥゥゥウウウウ!!!」
オルティマは手を伸ばすが、それは届かなかった。
視界は涙と、ゼクトリアの放つ圧倒的な光に照らされていく。
小さな体が魔界の扉へと吸い込まれ、メレスは無数の光の刃に貫かれながらも、満足そうに微笑む最後の姿が目に入った。
「あとは頼みます、オルティマ様」
それはメレスの最後の言葉だった。
眩い光が弾け、次の瞬間、オルティマの体は魔界の冷たい地べたへと転がり落ちていた。
「うぅ……」
目の前の扉は静かに閉じられ、ネルオール山脈の音はもう聞こえない。
小さな手に握られた、メレスの遺品となってしまった魔晶石だ。
「メレチュ……」
前世で45歳のおじさんだったオルティマの胸に渦巻いているのは、ゲームでは味わったことのない人間への「怒り」と仲間を守れなかった「悔しさ」だった。
(絶対に……許せない……)
メレスが死んだことにより、オルティマの魔力の回復を阻害する効果が消え、スラっちも同じ効果を受けていたのか、喋れるようになった。
「おはよーオルティマー」
「スラっち……決めたよ……わたち」
「ん?……」
「人間を滅ぼす……」
その目には、これまで見せていた子供のような愛らしさは完全に消え去り、底知れない冷酷な闇に変わっていた。
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