holiday 第百六十九話 アゲハの羽
母「トラ。一体どういうことなの?」
彼の脳裏にゆっくりと様々な記憶譚が突き刺ささってゆく。
母「私の言いつけも守らず生きていけると思ってるの?」
母「産んだ恩も忘れるカスめ」。
棘だらけの糸に血が滲んでも延々と登らさせる過酷な日々。彼はそれでも己を殺し掴み登り続けていた。
登り続けるしかなかったのだ。
彼にとってはそれは地獄に垂れる蜘蛛の糸も同然だと思ったのだ。
ある日の晩。
母「もういい。どこかへ行って死んで頂戴」。
彼はその糸さえも冷たい鋏であっさりと切られたのだ。
(動ける時は動かされ、結果が出ないと棄てられる)。
(親であろうとなかろうと自分を見向きもせず、俺が明日を生きれる策は今日の結果のみ)。
(失敗するゴミは死ぬしかねぇよな)。
彼は暗い道路を全速力で走る。
自身を照らしてくれるのは車のランプのみ
そう思っていた。
その車は直前で止まり中から人が出てきた。
その時その人が頬を引っ叩いていたのだが暗くて見えず誰なのかが分からなかったのだが
今ならわかる。それはフレックサーだったことを。
林広くして鳥兆し。
ホープ・ファミリーという場所は世の中いろんな人がいるんだとまじまじと見せられてあの時は眩しかった。
彼はマンションでの会話を思い出した。
「嫌になったら逃げてもいい。これは突き放してる訳じゃない。親友の本当にしたい事を優先する」
「OK。それが間違いちゃうなら俺たちを助けてくれ」。
彼らはどこまでも互いを尊重し
どこまでも互い信頼し、
どこまでも互いが互いのことを見ていた。
誰がどんな糸を選ぼうと糸から落ちようと不満一つなくどこまでも登ってくれる。
トラは心の底から想う決断に従おうと心に誓ったのだ。
トラ(俺のしたいことはこうやって仲間を見殺しにすることなのか?)
その時にはすでにトラの足は動いていた。
トラ(違うだろーが!!)
ギルドの前にトラが立ちはだかる。
ギルドはお構いなく拳を振りかぶった。
トラがカイの方を向き、微笑む。
そこにはすでに震えなどは消え去り、あるのはトラだった。
カイ「ト....ラ.....」
トラ「ありがとう」。
トラの顔には拳が触れていた。
その拳は容赦なくトラの体を巻き込む。
肌がガラスの如く割れ、顕となった筋肉も弾ける音を鳴らして潰れていく。
骨すらも拳からヒビが脈々と広がり粉々に砕かれる。
血肉に骨。頭部を形成するあらゆるパーツが粘土細工が破れるように床へ撒かれ落ちていく。
トラの体は空気の抵抗を受け入れずに壁へと叩きつけられる。
その体は壁へと追いやられた腕が風船の如く破裂し血が体を染まる。
トラの体は物理法則に従って泣き崩れた。
花は永遠と咲くこと罷り通らぬ




