未来展望
朝日に釣られて目を開ける。なんか胸の上が重い。
「アイシス……?」
僕の胸の上、褐色の肌と黒髪が揺れてる。あと猫の耳。隣ではスビアが僕の右腕に抱きついている。柔らかい物を感じるんだ。
「あ……」
昨日の事思い出した。そうだ、昨日めちゃくちゃ盛り上がったんだ。僕らが17歳の思春期真っ盛りってのと、獣人の汗に強壮効果があるみたいななので、めちゃくちゃ盛り上がったんだ。なんだろうな、身体がちょっと痛いよ。
二人を起こさないようにそっと起きる。やっぱ可愛いんだよな、寝顔まで。こんな愛らしい女性二人を僕は抱い……抱かられたのか。なんだかグッとくるものがある。
「くそ、可愛いな、本当に」
二人の頭を順に撫でた。もし僕に左手があれば同時に二人を撫でれたし、もっと強く抱きしめる事が出来たのに。初めてだ、左腕を無くして後悔したの。
身体に染みついた甘い匂いをタオルで拭き取ってから着替えをする。ドアを開けて出て行く直前、スビアが目で行ってらっしゃいって言ってくれた。好きだな、こういう日常が。
執務室、一人なのでご飯は食べれないから朝を抜いた。
「陛下、ご招集との事ですがどのようなご用件で?」
目の前に立つ男、長い金髪と深い碧眼の男。イズィバーラである。陸軍大臣として徴用して一年。やっとこいつの人柄がわかってきた。こいつは天然の人たらしだ。男の僕でも少しグッとくる程の。ロベルピエルとは違ったタイプのカリスマなんだ。
「読ませて貰ったよ、モグラと鉄塊と鴉」
2ヶ月前くらいに彼が発表した著作である。物語物なんだけど、その内容は火器がこのまま発展した後の戦争を一人称視点で描写したみたいな。簡単に言うとSFである。
「モグラ戦に鉄塊、鴉、おそらく現実に起こり得る戦争だと私は考えている」
八尺瓊勾弾によって魔法が駆逐された戦争、両陣営がお互いにモグラのように穴を掘って睨み合い、その穴を鉄の塊や空飛ぶ鉄の鴉で踏み潰す、そう言う内容である。つまり塹壕戦と戦車と航空戦力だ。
「おそらく予言書となるだろう。そこでだ」
「陸戦研究室にて新世界戦争をシュミレートして欲しい」
イズィバーラは有能である。だから変な所に突っ走らないようにめちゃくちゃ仕事を忙しくて変な所に突っ走る余裕を無くす。あんまやりたくないけどね、こういうの。
「むろん、無理だと言うのなら断ってくれて構わない。こと戦争に関しては私よりも断然君の方が詳しいだろうから」
断れる訳ない。いかにイズィバーラが農村出身の礼儀知らずだとしてもファラオの命令に、しかも好意的な形で下さらた命令に逆らうなどあってはならないのだ。それほどまでにファラオという威光は眩く、重い。
「いえ、やらせてください。おそらくそれはこの国に今後必要となる物です。必ず」
「感謝する、イズィバーラ中将。冀わくば、貴官の躍進に栄光あれ」
「メンフィスとファラオに栄光あれ」
イズィバーラとの用事を終え、次に執務室に入ってくるのはアヴダヴである。
「失礼致します、陛下」
美しい敬礼、ピンと足を伸ばした。でも知ってる、なんで彼がこんなに敬礼に拘っているのか。
「変わらないな、君は」
アヴダヴ、ここ一年で彼とも結構仲良くなった。歳が近いし変な所で似てるから気が合うんだ。
「あんたがデカくなり過ぎたんです」
実際、身長はめちゃ伸びた。12cmも。おかげで185cm。転生前とやっと並んだ感じになって懐かしい気分になってる。
「良いものを食べさせて貰ってるからね。それでだ、アヴダヴ。何か目新しいものは?」
アヴダヴにはイズィバーラを探らせていた。イズィバーラを豊穣省第三保管庫放火事件とそのリークの犯人と仮定して。
「特に何も」
「そうか……」
状況、証言、その全てがイズィバーラが犯人であると言っているが、確たる証拠は掴めない。何も。そんな状況が半年続いている。
「ここまで証拠が出ないと考えると、火災は自然発生で面白半分で漏らした馬鹿者が居てちょうどよくそいつを利用する形で山岳派の奴らとかが悪いと風聴しているのか」
あるいはラムセスやらロベルピエルとかの文官の方がイズィバーラのせいにしようとしているのか。
でもこれはあり得ない。だってイズィバーラをせいにしてイズィバーラを辞めさせたとして、それで何になる?軍部大臣現役師弟制度がある限りイズィバーラを辞めさせてもイズィバーラと似たような奴が陸軍大臣になるだけだ。
「考えたくはありませんね」
「あぁ、考えたくはない」
イズィバーラがやった、イズィバーラが悪い、それで簡単に終わってくれれば問題が問題のままなんだけれど、もしそうでなければ問題が新たな問題を産んでぐちゃぐちゃになる。
「怖いんだよな、世捨て人」
セトがそうであったように世界に絶望した人というのはリミッターがないから怖いんだ。動きが速くて過激でそれはとても怖いよ。イズィバーラよりもずっと。
「さて!アヴダヴ。一応イズィバーラへの探りは続けといてくれ。後ろを見なくて良いってのは安心するんだ」
「えぇ、仰せのままに、陛下」




