脱兎
ラムセスと晩酌をした後、自分の部屋に帰る。
「ただいま」
ベットに広がる本と紙。これは本の翻訳だろうか。そういやアイシスはアトランティスでアトランティス語出来るようになって、アルファベットも教えてもらうって話をしてたからそれはこの一環なんだろうな。
やっぱ二人とも頭良いんだ。僕はたまたま日本語と英語を知っていただけで、二人はアヌンナキの文字たると言葉たるアルファベットとアメリカ英語をアトランティス語に翻訳してその後シュメル語、メンフィス語に翻訳してる。それはとても凄い事だよ、本当に。
「あ、シュン君も手伝ってよ」
こんな二人を今日僕は抱こうとしてるのか。なんか、その怖気ついたな、また。こんな美しいものを僕が汚していいのか、そういう気持ちなんだ。
「ここのセリフ、僕の感覚ではちょっと違うかも」
一度読んだ事がある内容でも、訳者でこんな違いが出るんだな。だってこの本の主人公、元の原題の子よりも冷たく感じる。
「そうなんだ、そういう奴なんだ、ってよりもそうかそうか、つまり君はそういう奴なんだなって方が僕の解釈に一致するかも」
多分、この箇所略したのアイシスだろうな。だってそのセリフ、あまりにアイシスが言いそう過ぎるんだ。そっか、貴方はそういう人なんだ、みたいな感じにさ。
「シュン、それじゃちょっと冗長じゃない?」
「ここは冗長気味の方が呆れてるってのが伝わるかなって」
「大事な物壊されてるのに呆れられるってあまりにも人として出来すぎてない?」
非の打ち所がない青年。本文にはそう書いてあるんだから人として出来すぎてるというのは正しい解釈だろ。
「主観が過ぎるよ。本文以上の解釈は……」
あれ、僕も昔こんな言葉言われたっけな。これ言われた時、どう思ったっけ。ちょっと悲しかったんだよな。
「でもその解釈もありかもな。なぁ、なんでそう解釈したんだ?」
「子供なのに完璧過ぎるのは怖いかなって」
実際、彼は不気味な子供だし、そこが悪徳であるとはっきり明言されている。ならここは不気味な子供として変えるべきではないけれど、あくまで主人公視点から見たら大人びて不気味であるだけで、周りの大人から見たら彼もまた大人ぶっただけの子供なのかもしれない。そういうのもまたありなんだろうな。
耳の痛い話だ。僕もファラオとして自分自身は精一杯やるてると思っているけれど、ラムセスとかロベルピエルとかから見たら僕は稚拙な男なのかもしれないなって。
「初版はそっちで出版してみようか」
「いいの?」
「人気でなかったら第二版で修正すれば良い。売り上げよりも流通を確認したいんだ」
メンフィスに出版社は何社かあるが、その全てが民間企業だ。だから規模が小さくて王都圏にしか流通しない。よって官営の大規模な出版社を立ち上げてメンフィス中に広く情報の渡るようにしたいと、そういう話である。
「ねぇシュン君こっちは?」
「こっち……あぁこれは良いかもな。メンフィスの人にとっては」
一粒の麦地に落ちて死なば多く実りをもたらすだろう。
原文よりも大分短いけれど、一頭の龍地に落ちて死なば多く実りをもたらすだろうという言葉がメンフィスにある以上、こっちの方が馴染みがあるのかも。しかし前文の方を短縮しても良いのか?悩ましい所だ。
「原文ママの方を先に入れて、その後に一頭の龍の言葉を入れよう。うん、それが良いかな」
「んじゃそんな感じに修正しとくね」
走るペンの音、ベットの上で。それからしばらく経って二人は片付けをしたので僕も手伝う。片付けと言っても簡単な物で、適当に紙を纏めて机の上に置いとくとそんな簡単な物だった。
ただ僕はこんな簡単な片付けでも少し気が乗ってなかった。浮ついてたんだ。
「なぁ寝る前に少し話があるんだ」
蝋燭がベットの横、一つだけ灯ってる。少し薄暗い中、3人でベットに座る。アイシスを左に、スビアを右に置いて。
「全て、僕の力の及ばぬせいだ。メンフィスはもう、僕個人でどうにかなる物ではなくなってしまった」
右の頬が引っ張られる。下を向いて少しずつ話そうとしていたので少しびっくりした。
「シュン君、もっと簡単に言ってね」
「もう無理になった。結婚を道具として使わなくてはならない」
今度は左の頬がつねられる。左目の関係で見えてなかったのでこっちもちょっとびっくりする、
「馬鹿、もっとあるでしょ」
「出来ない事言ってごめんなさい。出来なかった、僕には。二人にきちんとした物をあげる事が」
両肩に力、気づいた頃には僕はベットに寝てて、僕の上に二人が居た。
「こうなるとは思ってたけどね、シュン君って凄い人だけど万能じゃないし」
「恨まないよ、私もスビアも」
僕は屈服した。二人に。
甘い匂い、甘い香り。僕は食べられた、ぱっくりと。
2章完結ですこれにて。多分三章の方が面白いです




