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ロベルピエルについて





 メンフィス神学校、特徴的な赤の講堂の立つ大学。一応私も進学自体は決まってたんだけどね。


 「安田講堂……?」


 困惑した顔でシュンが呟いている。


 「なにそれ」


 多分、シュンの産まれた世界、いや時代の建物なんだろうな。もしかしてアトランティスにもこれと似た建物あったりしてね。


 「僕が行こうとしてた大学の建物。でもスビア地下図書館って言ってたよな。あれって完成してなかった筈なんだけど。まぁ良いや楽しみ増えた」


 「ならよかったんじゃない?」


 講堂を仰ぐ石造りの正門。輸入された杉の木が高く立ち並び講堂を隠そうとしているが、それでも色褪せない赤煉瓦が強く印象に残る。


 「あれ、道分かってんの?」


 私に合わせて歩いてくれているけど、彼は曲がるべき場所できちんと曲がった。つまり知ってるんだ、図書館までの道。そう思うとまんまなんだな、彼の言う大学と。


 「おお、流石に内装は似てるけど大分違うんだな」


 前来た時と同じ、赤い絨毯の敷かれた大理石の図書館。高級感あふれる宮殿のような作り。大理石の柱や建築模様、外はゴシック中はネオバロックの建築様式である。好きなんだよね、建築って。計算された美しさ、造られた美は知性と感性を刺激してくれる。


 「シュンは好きなの?こういうの」


 「王宮生活とあと育ちのせいで見慣れちまったからあんまりかな。こう、こじんまりとしてた方が僕は好きだ」


 しばらく歩き、昇降機に乗って地下へ。地下室は地下特有の閉塞感とか息苦しさを感じさせない意図があるのか、木造で暖色の灯りがついていた。ただ、このビーとなり続ける松明、いや、マンジェットにもあったものだから電灯って呼べば良いんだろうか、それは集中を阻害しないか?とも思った。


 「あ、シュン君!アイシスちゃんも!どうしたの?」


 趣味の古本の翻訳をやっているスビア。多分足音で分かったんだろうな。でも彼女の隣に居る男性、あれって確か……


 「おぉ!皇帝陛下、まさかこのような所でお会いになれるとは」


 跪く赤髪の男。背は高い、目鼻立ちはしっかりしてて瞳は翠色。ただなんか、少し女性のような印象も感じる美しい男だ。


 「あぁ、ロベルピエルか。私もこのような所で貴公と会えるとは思わなかった。その、だからなんだ、楽にしてくれ」


 「そんな畏れ多い!偉大なる陛下を前にして楽にする事など出来ませぬ」


 何言ってんだ、そう思った。だってこの人ブルトンクラブ党の党首でしょ。ファラオも貴族も廃して完全平等を謳う、メンフィス随一の過激派なんだ。そんな人がどうしてファラオの前で畏まるの。


 「普段の態度でよいと、私はそう言ってる。畏まられるの苦手なんだ、本当に」


 「普段の、ですか。それは私が議会で見せるような態度を偉大なる小ホルスにせよとそう仰られるのですか?」


 神妙な顔をする男。なんで神妙な顔をしてる?だってこれって、シュンの意図とはちょっと違うけれど、意味合い的にはいつもあんな態度してるんだから真正面からに対してもいつもの態度を通してよ、一貫性ないよね?って取れる言葉だ。だから普通はこう、申し訳なさそうな顔をする所でしょ。


 「別に私は悪口を言われた程度で打首にする人間ではないよ」


 「よく存じております。貴方はこの時代最高のファラオに成られると、私はそう強く確信しておりますから」


 どういうこと?私達三人は訝しんだ。貴方はファラオが疎ましてくてブルトンクラブ党を作ったんじゃないの?


 「私を疎ましく思っていたんじゃなかったのか?」


 「まさか。あの暴虐たるセトを下し、その責任を取るように王冠を被り、アトランティスとの核戦争問題も解決した。そのような賢君を讃えずして、愛せずしてはいられますまい。男ならば、尚更でしょう」


 「しかし、同時にファラオという存在はその存在そのものが悪であります。ファラオがファラオたる根拠が神聖さでしかなく、今を生きる我々によって決められた者ではないのですから」


 私は自分を蔑如する。私はファラオとシュンという存在を分けて考えていた、そう思い込んでいただけなんだ。つまり私の中では不可分なんだな、シュンとファラオの存在って。


 「ですからファラオは廃します。たとえ貴方が稀代の名君足り得たとしても、貴方には王たる資格が無い。貴方は貴方の統べる人々に選ばれた訳ではないのですから」


 シュンは一瞬下を見た後、真っ直ぐロベルピエルの翠の瞳を覗いた。


 「ならばそうされよ。ただし、そうだな、お願いだから私の命や私の妻たる人の命、産まれるだろう子供の命までは取らないでくれ」


 シュンはそういう人だ。情けなくて強くて弱い人。だからこういうセリフを言う。それが人を笑わせてしまう事もあるけれど、でもロベルピエルは笑わなかった。


 「無論です。人が死ぬのは悲しいことですからね」


 シュンに差し出される手。ゴツゴツとしたロベルピエルの手。本来あり得ない事だ、ファラオに握手を乞うなんて。だって握手とは対等であると示す為に行う事で、ファラオに対等の立場を求めるなどあってはならない不遜な事なのだ。


 「同感だ」


 二人が握手の余韻を深く噛み締めている中、私の耳に遠くの音が聞こえた。足音、一人の足音。少し早い足音、焦っている?


 「陛下!陛下!!」


 老人の声。しかし力強い声。家宰ラムセスは年端もなく息を切らして走ってここまでやってきた。


 「豊穣省の第三保管庫にて火災が!34のうち26の倉庫に火の手が周り内25が全焼しました!」


 「は?はぁ!?」


 豊穣省は食糧備蓄を三つの保管庫に分けている。その三つのうちの一つで火災が起き、25の倉庫を燃やした。つまり、保管していた4分の1の食糧が燃えたのである。

 これは大変な事になる。政治に疎い私やスビアでもそれは感じた。ただ、その事の重大さを最も理解していた家宰ラムセスやシュンが言いようのない顔をしている。それはどうしようもなく私達にこの事態がどれほど大きいものなのかを自覚させたのである。


 



 

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