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ペガサスライム





 大砂漠を緑のローブで練り歩く。暑い、暑すぎる。あまりにも暑いんだ。空は青いだけで雲はなく、地面は砂、砂、砂、遠くは海のように砂が波打って見える。広大な砂の大地、アンニール流域から少し離れただけでこれなんだ。


 「ねぇアイシス、こんな所に生き物、しかも魔物がいるのかしら」


 ローブ隠れているスビアの顔。顎の下から汗が滴っている。


 「馬鹿だねスビア。ペガサス種は天敵の数ないアンニール流域を離れた場所にあるオアシス周辺にしか生息できない。逃げる時、翼を使って飛行するんだけどエネルギー消費が馬鹿みたいだし、何よりグリフォン種に捕まっちゃうからグリフォン種のいない場所じゃないと。故にこの辺にしか生息しない種を模倣するスライムはこの辺にしかいないよ」


 なんだその、トビウオみたいな。ペガサスって馬に翼の生えた神秘的な生命じゃなかったっけか。てか早口だな。


 「うわ凄い早口ね、案外魔物とか好きなの?」


 「……別に。ボコボコにする為に勉強してた」


 多分、好きなんだろうな。神官の、しかもファラオに一番近くて後継者が死なば次のファラオなんて言われてた人の娘じゃなきゃ、ちょっとお転婆な魔物博士になってたのかもしれない。


 「アイシスちゃん、反応あったよ。西方200」


 カペラさんは僕のローブから顔を出してアイシスに伝える。カペラさんの能力は本当に便利なもので、自分の周辺1キロくらいにあるものはなんでも把握できるらしい。


 「あそこに伏せよう。あの地形なら見えるはず」


 山のようになっている砂の斜面を登る。途中転びそうになるが、スビアが手を差し伸べてくれた。


 「伏せて、静かに。ゆっくり伏せてね」


 全員で地面に伏せる。まるで鉄板を下にしているような感覚に襲われる。本当に暑いんだ。


 「あれ見て、あれがペガサスライム」


 100mほど、遠くに見える青白い液体でできた孤高のペガサス。まさしくペガサスとスライムの融合、いやペガサスを模倣するペガサスライムだろう。それで……あれを討伐するんだよな?所詮スライムだしミニチュア・ソルでもぶん投げれば倒せそうだけど。


 「動かないで、絶対。あのスライムはポリマースライム。単体のスライムであるモノマースライムが三十体以上集まってあの形を作ってる。そこら辺のマンゴーデスワームとかより確実に強いし、何よりかなり高度な知能を持ってる」


 スライムは単細胞生物だから高度な知能なんてないはずだけど、なるほど、単細胞生物のスライムが集まりまくって多細胞生物となって一部のスライムが知能の役割を果たしてるのか?僕は魔物博士じゃ無いから知らないけど、なんと言うか、難しい生態をしている。


 「それでどう倒すのよ、あれ」


 「ほら、スビアこれで見て」


 アイシスは自分の持っていた望遠鏡をスビアに渡す。


 「ん……なんかお腹の、心臓があるあたり、ちょっと赤い気がするわ」


 「そう、そこだよスビア。スライムは核を破壊すれば死ぬ。それはポリマースライムとて例外じゃない。あの赤い核は複数のスライムの核を融合したものだよ。脳みそが30個あったら困るからね」


 なるほど、核を破壊すればいいのか。ん、なら僕の右目の力で一撃じゃないか?


 「スビア貸してくれ、望遠鏡を右目で覗いて核を一撃で壊す」


 「お、それいいねシュン。貸してやんなスビア」


 渡される望遠鏡、その時、偶然にも望遠鏡のレンズと太陽が一直線になった。日光がレンズによって凝縮され、やや地面が暖まる。


 「あ!スビア!!駄目!一直線だと!」


 アイシスが叫んでいる。ペガサスライムは消えている。


 「奴は熱と振動で見ているんだッ!だから今すぐそれを捨てて!」


 スビアが望遠鏡から手を離す、それと同時に地面から巨大な槍が、スライムでできた槍が現れた。それは望遠鏡を貫いて天に向かって飛んでいき、天空で再びペガサスの形となった。後に残ったのは砂煙と震えるスビアだけだった。


 「凄い!流石はスライム、ペガサスよりも格段に高いから滞空だけじゃなくて飛行もできる!」


 今にも泣きそうな伏せ耳のスビアとは対照的にアイシスは目を輝かせて耳をピンと立たせて魔物を見ていた。割と死ぬかもしれない見たいな状況だったのに……根っからの魔物好きだったのかこの人。


 「違うだろアイシス、今はどうするか、それを教えてくれ、カペラさんでもいいから」


 いつのまにかスビアのローブの中に居たカペラさんは語った。


 「いやシュン、アイシスちゃんは正しいよ。あのスライムの探知できるのは熱と地面からの振動だけ、それで今はスライムが飛んでて感知できるのは熱だけで、地面よりも私達の方が少し冷たいからああやって叫んで表面の温度を上げてるんだよ。呪い程度だけどね」


 「でもカペラさん、それじゃ……いずれ死なない?だって夜になったら僕らの方が暖かいじゃないですか」


 なら夜にならないうちに倒さないと。右目の力を使うか?でもああも旋回されていては核にビームは当たらない。ならミニチュア・ソル?でもあれは手に生成するから生成途中で手に槍が飛んできて、槍を避けれてもミニチュア・ソルの爆風で死ぬ。


 「何してんだ?アイシス」


 ふとアイシスの方を見てみると、アイシスは伏せたまま、人差し指を口に入れながら手で銃の形を作っている。


 「ヌン!」


 彼女はすぐに口の中に入れていた指を取り出して外に向けて水の魔法を撃った。ヌン、基本的な水魔法であり、彼女のやるそれはただの水鉄砲であった。

 なるほど、口の中で飛ばす用の水を生成すれば熱探知に引っかからないのか。でも水鉄砲を誰もいない方向に撃ってどうなる?


 「砂舞うよ!」


 水鉄砲で地面が少し冷えたんだろう、スライムは水鉄砲の着弾地点に向かって槍となって突っ込んできた。そしてそれが何の意味がない事を知るとスライムは再びペガサスとなって空を飛び旋回する。


 「ん、よしよし。水を使って地面の温度変化させれば突っ込んでくれるのね」


 アイシスは満足気にそう語っているけれど、それになんの意味がある。だって地面を水で冷やしてスライムの突っ込んでくる事を指定できたってこっちが攻撃できなきゃ意味がないじゃないか。

 いや、本当に意味がないのか?


 「ありがとう、アイシス。僕思いついたぞ」

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