冒険者、かな
三日間、彼女と過ごして彼女、スビア・ヌビスのことは大体はわかった。彼女はアウシルさんを殺したセトの娘さんで、強権的なセトのやり方を嫌っている。だからセトと双璧を成していた神官であるアウシルさんを生き返らせたいって話だ。
で、そんなことよりも今重要なのはこっち。
「え、スビア貴方……家出する時にそんな端金しかない状態で家出したの?」
二つのベットと机だけがある部屋、僕らは今後のことについて話し合ってた。
「仕方ないでしょ、私だって急いでたの」
問題はそう、金銭だ。今の持ち金は全員で出し合って宿30日分程、遺体探し所ではなく仲良く三人と一匹で野垂れ死ぬ未来が見えている。
「はぁ……こんなんじゃ皆で働くしかないんだけど、普通の仕事じゃ旅の資金なんて稼げない。だから……賭博でもする?」
スビアは立ち上がった。
「ダメよ!賭博はダメ!お金持ってこなかった私が悪いけど……」
スビアは良い人だと思う。だってお金を持ってこなかったスビアが悪いなんてそんな訳がない。だって僕らも金持ってないし。誰も悪くないこの状況で、姉貴根性なのかあるいは根が善人だからなのか、自分が悪いと言った。本当に良い人だ。
「だから私は提案するわ。冒険者やらない?」
冒険者、荒くれ者や夢見る貧民を利用して地図を広げる職業。でも今は名前だけが残り、広く依頼をこなす便利屋って感じになってる。肝心なのは冒険者が稼げるのか?って所だけど、危険なことをすれば稼げる。例えばそう、魔力の生物濃縮で強力になってしまった魔物の討伐とかね。
「……スビア、それ良いね。私賛成かも。下流の方って強力な魔物多いしね、それなら稼げる」
アンニール川の生態はかくも僕らに都合のいいもので、王都のある中流の方は一本の川で下流に向かうにつれてデルタ型に川が分かれていくから、下流に連れて緑が多くなって生物種の数が増えていく。すると必然的に下流になればなるほど、生物濃縮の回数も多くなるから強力な魔物も増えていく。
簡単に言うと、僕らが下るに連れ、敵が段々と強くなっていくという訳で、いきなり強い敵にあって討伐できませんってことが少ないのだ。まるでゲームみたいだ。
まぁ一番の利点は移動し続けられるって所だろう。だってよく考えずとも僕らは兵士倒した犯罪者だし。よって移動しながら金稼げる冒険者が一番適任かもしれない。
「何より私は力が強いしシュンは目からビームが出せる、カペラさんは基本的になんでも知ってるし、スビアも……縫い物が上手かな。うん、冒険者で魔物討伐が一番手っ取り早く稼げるよ」
スビアはアイシスの両肩を掴んで彼女を揺らす。
「なんか私だけしょぼくな……ってシュン君は目からビームだせんの!?」
「ん、出せるよ。でも目が痛くなるからあまり乱発はしたくないかな」
実際、左目を瞑って右目だけで見ると少しボヤける。昨日の夜の方が酷かったから段々と治ってはいるけれど、正直使っても一日一回くらいしか使いたくない。目が見えなくなるなんて嫌なんだ。
「その点は私に任せて!」
カペラさんは僕の頭上に赤い玉を乗っけて喋っている。
「アウシル程じゃないしろ、魔法の方は得意だからね。この子に魔法を教えつつサポートするよ」
アイシスは立ち上がり、耳をピンと立てた。
「んじゃ早速ギルド行こうか。持ち金の半分使って登録するよ!」
三人と一匹、直ぐに宿を出て荷物を持ってギルドに向かう。街並みにはとてつもなく平凡なもので特に語るまでもないが、途中コブラに噛まれかけた。
ギルド館に入って早々、なんというか帰りたくなった。
昼間っから大声出して抱いた女の自慢してるような荒くれ者しかいない。
「またガキが来たぜェ!辞めとけ冒険者になるなんて!女のしかも子供なんて、偽依頼で奴隷堕ちすんのがオチだからなぁ!」
酒を高く掲げて頬を赤くする筋骨隆々のハゲ大男。転生前の兄貴みたいであまり好きではないけれど、今の言葉だって彼なりの警告なんだろう。僕も子供が冒険者なんてやるのは間違ってると思う。
「騙されませんよ僕たちは。あと騙されたらボコします、僕が、それかこの子が」
正直、奴隷商とかその辺の人たちがアイシスに勝てるとは思えない。だってアイシスは20m超えてたマンゴーデスワームをボコボコにしてたしね。まぁでも、マンゴーデスワームがマンゴーデスワームって呼ばれて食卓に登場するくらいには養殖できる種なのだから、アイシス並みに強い人もゴロゴロいるって事になるのかも?そうなったらちょっと怖いな。
「子供が冒険者やってるって事実がみんなをイカれさせんだ、ガキ。それがわかってたらこんな所にゃこねぇだろうが」
僕らは酒飲みの宴を無視して受付の方に向かう。受付にはなんと言うか、綺麗なお姉さんがいた。でも今はそんなの関係ないな、この看板にある登録費用の部分とその下に小さく書いてあった、タグの購入は別費って所が今関係ある所だ。
「すいません、登録したいんですけれど」
アイシスは先陣を切って受付嬢に話しかけた。
「登録ですね、三人ですか?」
「いえ、二人です。私は銀タグを持っているので」
注意事項を読んでる。冒険者は上から金タグ、銀タグ、鉄タグ、銅タグで階級分けされるらしい。でも読んでる感じ、金タグだから強いって訳では無さそうかな?でも金タグは高いから、めちゃくちゃ金を持ってる冒険者=金タグ限定の強い魔物を討伐する依頼を受けてる冒険者って事になる。強いからこそ金タグを買えるって事で……なんでこんなめんどくさい仕組みしてるんだ?
「了解しました、ではタグについての説明は必要でしょうか?」
「いいよ、私が説明する」
アイシスは胸のポケットから銀色のタグを取り出した。名前入りの銀のタグ、しかし特異なのは下のタグが少し欠けているって所だった。
「この名前入りのタグが冒険者の証明なんだけれど、もしも冒険者が依頼に失敗されて救命された場合、タグの4分の1を救命者に渡さなくちゃならない」
なるほど、だからタグが分かれてるのか。要はタグってのは階級であると同時に保険なんだ。銅タグよりも金タグの方がそのものの価値が高いから救命されやすい、みたいな。んで4回全部使ったら買い直しって事で、金があれば金タグとか銀タグが始められるけど金が無いなら銅タグからやり直しって事ね。
「んでタグによって受けれる依頼は制限されてるんだけど、パーティーって形で依頼を受ける場合、一番上のタグが参照されるから、二人が銅タグで一人だけ銀タグでも銀タグの依頼を受けれる」
彼女の説明の後、半分の所持金を支払い二人分の登録と銅タグの購入を済ませた。これで懐は本当に冷たくなっていて、結構マズいんじゃないかってのが肌感でわかる。だってこの金が無くなったら野垂れ死ぬか奴隷になるか盗賊になるかしかない訳で。
「さて、登録が済んだ所で依頼をやろうか」
アイシスは掲示板に張り出されているパピルス紙を一枚取った。
「これね、ペガサスライムの討伐。鉄タグの依頼だよ」
三日後、僕らの冒険者としての初めてのクエストが始まる。




