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大冒険 アウシルは未だ死なず






 「捕えろ!!」


 抱えていた人間をゆっくりと砂の上に置いて、彼らは僕らに向かってきた。


 「シュン、右のが弱そう!右やって!私は左やる!」


 銀の剣を抜いてこちらに走ってくる兵士。僕はどうするべき?右目の力は使いたくない、覚えてる魔法はミニチュア・ソルとビル・ヌンだけ、片方は殺しちゃうしもう片方は攻撃すらできない。

 僕の思考を読み取ったのか、右目に止まってるカペラさんは助言をしてくれた。


 「水の属性、乾と暖の性質を加えて!ねちょねちょの水、粘土みたいな!呪文はモチパテス!」


 乾と暖の性質を属性!?知らないよそんなの、でもねちょねちょの水、粘土みたいなのをイメージしてるみる……


 「粘土!餅パテ!?餅なの、お餅なのね!モチパテス!!」


 左手に粘土のような物を生成する。


 「小僧ォ!覚悟ォ!!」


 兵士の大上段、銀の剣が輝いている。一本の線となって空に見える。

 死にたくない!その一瞬で身を翻しながら左避ける、そしてその粘土のような物を鎧の腰と胸の繋ぎ目に押し付けた。


 「可動が、クソ!」


 兵士の腰が回っていない。もう固まってくれたのか、こういう魔法なのね。


 「卑怯者ォ!卑怯者はァ!死ねェい!」


 「横に腰を曲げれないのなら!その隙を突かせてもう!」


 飛び込むように敵の後ろに回る、敵は腰を動かせないので、自然と反応が遅れた。僕はその隙に首と脇の部分に生成した粘土のような物をつける。

 鎧の可動域と生身の可動域が合わず、兵士は勢いよく転倒した。すかさず更に追加で粘土のようなものを投げた。それらはすぐに硬化し、兵士はもう動けなくなった。


 「降参してください!僕は人殺しになんてなりたくありませんよ」


 「わかった、降参だ降参!」


 腰の力抜け、その場に倒れる。左の方ではもうアイシスが兵士を鎧の上からボコボコにしており、兵士は血を吐いて倒れていた。やはり僕はああはなれない。マインドが転生前の平和な世界のものだから、命のやり取りの場であっても死にたくないし死なせたくないと思っている。

 いや、これは驕りだ。僕は無意識にこの世界の人々を遅れた時代の遅れた人々と見下してないか。目の前のこの人もこれから出会う人もきっと僕と同じように、殆どは死なせたくないし死にたくないと思っているはずだ。


 「ちっ、小僧め」


 「小僧で悪いですか」


 これ以上はもう何も言うことはない。今はあそこで倒れてる人を救出するべきだろう。何よりこれからの方針も考えるべきだ。


 「くっついてるから貴方の考えてることわかるよ、あの人を起こすんだね?」


 カペラさんの目の前にあの赤い宝石が火が起こるように出現する。だがその宝石は前よりも色褪せており、何処か茶色っぽかった。これでは本当にフンコロガシのようだ。

 彼女はそれに乗り、あの倒れてる人のところへ向かっていく。


 「痛っ……」


 彼女が離れた瞬間に忘れていた痛みが蘇る。ズキズキとして、眼球が破裂しそうな感覚だ。でも、全然耐えれる。カペラさんは凄いや。

 右目を手で押さえながら歩く。近づいてわかったが、倒れていたのは女だった。金髪の女性、僕より二回りくらい年上の。しかも犬のような耳もついてる。


 「あ!この人知ってるよ!私」


 アイシスの耳がピクピクと動く。嬉しいんだろうか?いや、耳を捻っている。これは警戒だからあんまり好きじゃない人なのかも。


 「ん……あ、アイシス」


 「久しぶりね、スビア。それでなんで貴方がここに、わっ!」


 アヌビスはアイシスに抱きついた。それと同時にアイシスの耳は垂れ下がる。それにしてもスビアという名前、一度しか聴いてないのに何処かで……


 「私のお父様が貴方のお父様を殺したの!」


 アウシルさんが……死んだ!?冷や汗が止まらない、嘘の可能性だってあるってわかってるのに、なんで僕は確信してんだ。


 「あり得ないよスビア。セト叔父様がいくら強くてもお父様は最強なんだから」


 アウシルさんは最強だ、多分この世界の誰よりも強い。しかもあの人は今のファラオの側近で、大きな派閥を持っていた。正々堂々でも卑怯な手を持ってしても殺せないはずなんだ。


 「これを見て、アイシスちゃん」


 その時、カペラさんはさっきの褪せた赤の宝玉を彼女の前に見せた。


 「アイシスちゃんもわかってるだろうけど、この宝石は契約者の命の一端を代償に光ってる。それで今この色って事は……」


 アイシスは全てを理解したのだろう、彼女の耳は大きく垂れ下がり、口は半開きになってる。


 「……そう、そうなのね。なら、そういうことか、貴方が来たのは」


 「うん、死を越える秘術を使ってアウシル様を復活させるわ、そうすればお父様はきっと止まってくれるはずだから。だから今はまだ折れない欲しいの、アイシス」


 アイシスの耳がピンと立つ。死を越える秘術を知っているからこそ、父親の死をすぐに受け止めれたのかも知れない。事実、僕とてそうだ。アウシルさんの死んだ喪失感を、アウシルさんを生き返らせるという使命感で上書きしている。最悪だと、自覚しているけど。


 「わかってる。それで遺体は?」


 スビアは艶やかな金髪を結ってお団子にする。なんというか、キリッとした鼻立ちと碧眼が凛として美しい。アイシス程ではないしろ、こんな美しい人が存在していいのかと思ってしまう。特にその、陶器のような白い肌がアイシスの焼けた肌と対比になっていて面白い。


 「バラバラにされてアンニール川に流されたわ。だから下流の方に情報を集めながら進めば見つかる筈。神格の遺体は腐らないし多く魔力を帯びているから」


 「んじゃ決まりだね、お父様の遺体を集めよう。それでシュンにも来て欲しいんだけど、そのためには死を越える秘術について知らないと。私はフェアにやりたいからさ、せめて貴方には」


 アイシスは両手で皿を作り、そこに砂を入れた。


 「シュン、私の手が身体でこの砂が魂だとする。お父様が開発した死を越える秘術はミイラって形でこの身体を生前の肉体に作り替える方法なの」


 両手で作った皿の底に穴を開けて、砂を少しずつ落としていく。


 「生きた肉体が現世にあるのなら、冥府から魂が引っ張り出される。でも肉体に少しでも穴があるとこんな感じで魂が抜けてってしまう」


 完全に砂がなくなった両手、アイシスは手を叩いて砂粒を落とした。


 「だから死を越える秘術を完璧な形で扱うにはお父様の遺体を全て収集しなくちゃならない。それでも貴方は来てくれる?」


 僕の転生した使命、打ち倒す者さんいわく神のアレを探す事。そんなの意味わからないと思っていて、やる気なんて無かったけれど、でもこの使命がアウシルさんを生き返らせる事に繋がるのならそれをしよう。だから僕の答えは決まっている。


 「勿論だよ。僕の気持ちとしても僕の立場としても、僕は君を手伝いたい。そしてアウシルさんを生き返らせたい」


 「んじゃ決まりだね。カペラさんここから一番近い街はどこ?」


 宝石に乗るカペラさん、いつものように下の腕で腕を組んで上の腕で方位を示した。


 「こっちの方向に半日だね」


 「そう。じゃあ取り敢えず、長旅になりそうだから自己紹介からしようか」

冒頭約1万字で冒険をする理由作りって感じです。と言う訳でここで評価して下さると助かります

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