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シュン=セテプ・エン・ラー・アヌンナキについて





 マンジェットはメンフィスに着いた。と言っても、あの砂漠のドックに着いただけであり、王都メンフィスに帰ったという訳ではない。ファラオ勝利の凱旋の言う演出をする為に未だあそこへは帰れないのである。


 「家宰殿、報告を頼む」


 艦橋の戦闘指揮室、シュン君は艦長席でふんぞり返りながら家宰ラムセスら数人の報告を聞く。


 「まずアトランティス出発前からの食糧問題についてからお話させていただきます」


 跪く彼ら、尊大に見下ろすシュン君。シュン、私の好きな人は良くやってる人だと思う。異常なくらいに。


 「結論から話すと国庫の備蓄の八割を放出しても食糧は足りず、アトランティスからの食糧がなければ最悪の事態でしたよ」


 普通、左手と左目を失ったらもう頑張ったよなって思うもんだ。でも彼は違かった。彼は左手と左目を失って尚、自分の選んだ世界、お父様の選ばなかった世界とメンフィスに責任を果たそうとしている。これは多分、責任感があるからとかそういうのじゃない。彼には出来てしまったんだ、ファラオという役が。


 「最悪の事態か。では状況としては最悪一歩手前って認識で正しいのか」


 隣で黙って見つめるアイシス。ファラオになった最初の頃はアイシスももっと心配そうな顔してたけど、すぐにこんな感じの仏頂面になったんだったね。シュン君は本当にファラオに向いてたんだ。


 「えぇ、報告によると株価の低下は3%に抑えられております。危険な領域に入りつつはありますが、まだ軌道修正が可能です」


 ただ、シュン君は今みたいに立派に話しているけど、その内心は穏やかではない。だってファラオとはいえ16歳の男の子なんだ。


 「そうか。じゃあ軍の件はどうなってる。私の不在ってだけでバランスが崩れるようならば今後に響くけれど」


 「シュメル方面軍が少しきな臭いですがそれ以外は拮抗状態を保っております。海軍も陸軍も、改造派も山岳派も。シュメル方面軍以外の全ての勢力が」


 「喜ばしい事だ。少なくとも、今は」


 「えぇ、仰られるお通りです。大変になりますよ、メンフィスに戻ってからは」


 「承知の上だ。あまりそのような言い方はするべきではないけれど、私にとっては休暇だったよ、この旅は」


 ラムセスはただ彼の言葉を黙って聞いていた。噛み砕くように。

 しばらくしてラムセスさん一行は去り、艦橋には私とシュン君だけが残された。アイシスはアイシスでラムセスさんとお話があるらしい。


 「ねぇシュン君」


 艦長席の椅子に深く座る彼。私はその膝に向き合う形で乗っかった。


 「これから大変になる。5%、僅かとはいえ5%だ。食糧配給が少しでも滞れば投資家達は大量投機をするだろうな。そうすれば未曾有の大恐慌だよ」


 また王様仕草だ。せっかくこの私がこうやって甘えてるのに。


 「王様みたいな事言わないでよ」


 「ファラオだぞ、僕は」


 シュン君はファラオでこの国の独裁者だ。だとしても彼が16歳の普通の男の子である事は変わらない。実際、私のお風呂入った時にきちんとあれはああなってた。男の子らしく。でもああなってたのにファラオとしてアトランティスの国力を計算してたんだ。つまり彼は自分の性的な欲求とかひっくるめて、自分の欲望を全て抑圧してファラオをやってるんだ。こんなの、普通出来ることではないでしょ、16歳の男の子に。

 彼が望もうと望むまいと、彼は生まれながらして王の器で偶像なんだろうな。


 「そうだね、貴方はいつだってファラオだ」


 シュン君はファラオ。アイシスはそれを嫌だって言っていたけれど、私にはその感覚はわからない。だってもはやシュン君がファラオである事はシュン君という人間を形造る一つのピースになってるじゃないか。そうであるのなら私はそのピースも愛してあげたいと思う。それが私の愛し方だから。


 「でもそれはそれとして、今は会議をしてる時間でも政策を考えてる時間でもないでしょ。なら目の前に居る私に構うべきよね」


 彼の口元が緩んだ。気づいた頃には唇に僅かな暖かさが残ってた。


 「今はこれで勘弁してくれ。色々と考えなくちゃいけない。最悪の場合を」


 いつの間にかキスされてた。あれこの人こんな手慣れてたってけか。何だろう、何か吹っ切れたんだろうか。


 「やだ。今はその時間じゃないから」


 耳、多分垂れてるんだろうな。私の。だって嬉しいんだ、私は獣人の女でこの人は男で、それで私は安心してる。愛して愛されてるという感覚が堪らなく心地いいだ、私にとって、彼にとって。

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