メンフィスという国について
アトランティスでの事を終え、ファラオ一行はメンフィスに帰還する。これはその間の物語である。
「なぁ、アヴダヴ」
深夜、アヴダヴ=ナーセルは薄暗く人気のない小さな酒場にて友人と語り合っていた。
「わかってる。例の鉄道の事だろ」
アヴダヴ=ナーセル、青い目と黒髪、極一般的な顔立ちの彼は今やメンフィス一の大学となったメンフィス陸軍大学の主席合格者であり、約束された出世街道に乗る男である。
「あぁ。シュメル方面軍の奴ら、やりやがった。おれにはそうとしか見えない」
彼の友人は文官である。あの秀才と名高いラムセス傘下の議員の秘書をやっている。だからこそ、先のシュメル国境部で起こった鉄道爆破の事件に睨みを利かせている。この国のバランスは悪い、あらゆる所で。特にシビリアンコントロールに関しては切り立つ崖で片足立ちをしているような状態である。
「だろうな。あそこは改造派の巣窟だからな」
またメンフィスがそうであるように、メンフィス陸軍という巨大な組織もバランスの悪い組織だ。魔法のアドバンテージが失われる前に国家を改造し乱世に耐え得る国に造り替える事を目指す改造派とファラオ親政と貴族の廃止、地方分権、ユーロへの北進を目指す山岳派による軍部内対立が起きている。
「改造論によれば自給自足の達成は必須だ。その為には肥沃な三ヶ月地帯へ東進する必要がある。自作自演って線は間違ってないかもしれない。あくまで私の予測だが」
「ならシュメル方面軍はこのまま事件を拡大させるんじゃないか。俺はそう思うぞ」
「分からない。ただこの事件はファラオの不在に際して行われた事件だからしばらくは安泰だろうな。だが、改造派の心理が今年のアンニールの不作を芯とした物だったとした場合、近い内に動きが必ずあるだろう。特にシュメル方面軍は飼い犬の手を噛むような狂犬だからな」
シュメル方面軍、先のシュメルとの戦争で得たスエズ租借地とシュメル鉄道の防衛を任されている。また改造論派の最も過激なグループであり、スエズ派と名乗り改造論を実践している。つまりメンフィスという国家の歪さそのものであり、国家内に小さな国家があると形容できるような状態である。
「しっかし、どうなるもんかね。ファラオさえ居てくれればシュメル方面軍も動き辛かっただろうに」
「どうだろうな。当代のファラオは人徳こそあるが、決定力に欠ける。あの若者が二重王冠を被ってからここ一年、大きな政策は一つも打てていない」
当代のファラオ、小ホルスは現状維持を是とした保守中道である。それは政府中枢から見ても軍から見ても、民衆から見てもそうである。だがアヴダヴはそうは見なかった。アヴダヴはファラオをある種の偽善者として見ている。何故ならファラオの保守的な政策もその殆どが保守派な面から見ても良くも悪くも無い平凡な策であり、あのセトを殺害してファラオとなった男としてはらしくないのだ。つまりアヴダヴから見た小ホルスは自分の選択の責任を背負うのを恐れている小心者に映る。
「アヴダヴは嫌いだったな、あのファラオ」
「あぁ、小ホルスはファラオとして相応しくない。あの男はあまりにも年相応過ぎる」
この言葉は羨望でもあった。幼い妹を残して親が早逝し大人に成らざるを得なかったアヴダにとって。
「よく言うよ、ほぼ同い年の癖に」
ファラオはちょうど成人で16歳。アヴダヴは去年陸軍士官学校を飛び級卒業したので18歳である。10代の2歳差という事でアヴダヴからすれば大きな差のような思ていたが、ことその友人23歳からして見れば全く同じガキである。
「私は彼のように青くはない。それにほら、私の年齢が君から見て如何に低かろうと、あの男が青臭い子供である事には変わらないよ」
こうは言ってるが、友人は彼を全く大人として見ていない。何故ならアヴダヴには人間的な主体というものが殆ど見えないのである。アヴダヴは自分が何を好いているのか知らない。だから趣味も無ければ好きな女のタイプというのもない。だから外から見た彼は人間身の全くない、まるで人形のような男に映る。あるいはまだ父親の言う事を聞く子供のように。
「そう言うセリフを言うのは酒を飲めるようになってから言えよ。それか女でも抱いてみたらどうだ」
彼には好きなものがない、だがその反面確固として嫌いと言えるものはある。その一つが酒であった。だから彼の目の前にあるコップの中身はオレンジジュースだし、今夜彼はオレンジジュースを15杯飲んでいた。
「酒は嫌いだ。お前が私の分も飲めばいい。それで解決だろう?」
酒は嫌い、何故なら判断を鈍らせるただの麻薬だから。
「女はどうなんだよ、モテるだろお前」
女は好きない、と言うよりも他人の液体と自分の液体が混じるのが嫌い。汚いから。
「興味無いよ」
「つまんねぇ奴だな、相変わらず」
「つまらなくて悪かったな」
アヴダズ=ナーセルはつまらない男である。自分よりも他人との和を重んじる。理由は本人が優しいからとかではなく、本人が自分に興味が無いから。そういう男なのだ、この男は。
3章はメンフィスとシュメルの話なんですけど、その前にメンフィスという国と外から見たファラオシュン君についてしばらく書いていきます。
メンフィス超大国だけど色々な国のダメなとこを合体させた国って感じです。近代史好きな人は元ネタなんだろなーって見てってください




