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トキヒメとシュン




 アトランティスとの交渉が締結した。メンフィスとしては結構な条件を提示したが、アトランティスのトキヒメはアトランティスの保有する核戦力を盾にしてその条件を突っぱね、農業技術の食糧の供与という比較的緩い条件で交渉は成立する。

 ただギクニさんとの交渉はかなりの物となった。メンフィスはハーバーボッシュ法と八尺瓊勾弾の設計図を手に入れたのである。

 それから2日後、もう片付けられたトキヒメの部屋にて僕は彼女と話している。


 「まさかここまでやり込まれるとは思ってなかった」


 「まぁ、メンフィスの事情、特にアンニール川って川の性質についてはこちらも知ってますから」


 核戦力を盾にした交渉。それはこちらも同じことをした。イカロスランチャーという破壊兵器によって。でもこちらには弱点があったんだ、大きな弱点が。アンニール川が氾濫しなかった事による食糧不足という弱点が。そしてトキヒメは見事にその弱点を突いて交渉を有利に進めたのである。


 「国家元首としてのお話には飽きました。ちょっと私的な話をしませんか?これからどうしたいとか、そんな話を」


 「構わないけれど、何か話す事でもあるのか?」


 「寂しい事をおっしゃりますね。ほら、あるでしょう?あの二人とこれからどうするんです?」


 「そりゃもちろん頑張るよ。あの二人の為に」


 箸にも棒にも掛からない言葉。トキヒメは明らかにその言葉に不満を感じていた。


 「じゃあもし無理だってなったらどうするんです?」


 アイシスとスビアだけを想うのなら、無理だとなれば僕はメンフィスを諦めるべきである。でも僕にはそれはできない。かと言って僕にあの二人を諦める事なんて出来ない。案外僕も寂しがり屋で独占欲のある人間なんだから。だから僕はもしも無理となったらこう言うだろうな。


 「ごめんなさいって謝って、無理にでも二人にメンフィスの女になって貰う」


 トキヒメ、なんかうわぁって顔してる。そんな僕やばい事言っただろうか……いや、言ったな。だってこの言葉は僕の為に一緒に地獄に堕ちてくれって、そんな言葉だ。


 「最っ底ですね。それって恋人としてどうなんです?」


 「最低だと思ってる。でもそうなった時、僕はそうとしかあれないからそうせざるを得ない」


 「なんというか、ファラオ様って本当に人としてはちゃんとなさってらっしゃいますけど、男としては本当に良くないですよね」


 それはそう、めちゃくちゃに自覚してる。僕は男して点でダメな男だと思う。愛する人間よりも数百万人の見ず知らずの他人を優先してるし、もしアイシスやスビアの間に子供を作ったとして、僕はその子供よりも数百万人の見ず知らずの他人を優先してしまうかもしれない。それは男としても親としても駄目だろ。


 「僕も男らしく、世界を敵に回しても君らを守るって言ってやれる人間になりたかったかもな」


 「でもそれじゃファラオは務まらないでしょう」


 彼女は突然、僕の胸板を小さな手で撫でた。その様子はまるで神事をするようであり、特別な意味はなんら感じない。


 「今から言う言葉は何ら政治的な意味の無い言葉です。ですから明日にでも忘れて下さい」


 動くタコの触手、強い瞳、優しい手。神秘的な雰囲気を纏う彼女、どこか見惚れてしまいそうである。


 「どうか貴方の運命に寄る辺がありますように」


 「ありがとう、アトランティスに栄光あれ、君の中の素晴らしい物に栄光あれ」


 駄目だな。トキヒメは一人の人間として僕を案じてくれた。なのに僕はこんなセリフしか返せない。

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