おめでとう
「もうガキみたいに癇癪で戦うのはやめます。僕は貴方の四肢を剥いででも止めて見せる。あの二人が僕に大事なんだ」
突如アペプの右手に現れる黒い大剣。超大型マンゴーデスワーム、ゴッドイーターの時に見た武器。
「甘過ぎるぜ、ティラミス。そこで殺すとは言えないのはな」
黒い剣から青い光が噴出する。天叢雲剣、あるいはオーバードバスタードソード。あれに拮抗する武器を作らないと、太く強いレーザーの大太刀を。
「言えませんよ。だって僕はもうあんたに怒ってはいない」
右手に高密度の火属性。前よりもずっと迸る炎の嵐の剣。
「だからぶち殺してやるなんて言えません」
アペプ、決していい人とは言えない。でも僕にとっては兄なのかもしれない。だってアペプはきちんとアイシスを思っている、兄として。だから僕にあんな面倒な事をしてくれたんだ。
「あぁそうだな、正しいなその感性は。だって実際そうだからな」
一瞬、左の後ろ側が光った。振り向きながら光の方向に魔力を集中させてバリアを張った。
「なっ!?」
光の筋、銃弾。それは魔力のバリアを破って、僕の左の脇腹に突き刺さる。熱、その後の痛み。だがなんだこれは、銃弾程度の物体が僕のバリアを壊すなんて。
「俺はお前の目の前でホエル王を殺した。だが属地主義に従えばお前が俺を現行犯逮捕する事は出来ないよな」
身体が急に重くなる。これは重しをかけられたとか、そんなではない。純粋に言う事を聞かなくなっている。右手の剣が離散して形を維持できない。
「姉さんいつもありがとな!」
間抜けな声、僕の焦りとはほぼ遠い程に。
「さて、今お前が撃たれたのは麻酔弾。これは八尺瓊勾弾と言ってな。簡単に言うと時代を終わらせる弾丸だ。てか身をもって理解してんだろ」
痛い程わかってる、言葉そのまま。この特殊な弾はバリアを貫通する。なら戦場から華々しい魔法戦は消えて、硝煙と塹壕の戦いになる。そうなれば戦争は貴族の特権ではなくなり、貴族の時代が終わる。多数の凡人による時代が来るのだ。まさしう時代を終わらせる弾丸だろう。
「だから暴れようって、そう言うわけですか。最後に」
「そうさ。魔法最後の時代、俺は思考停止する凡人共に愚劣の極みという物がどいう物なのか、それを教えてやるのさ」
魔力を練ろうとする。でも形にする事すらままならない。瞼が落ちて行く。
「あ、言っとくか、一応。おれがシュメルに行っちまったら言えないだろうからな」
眠りに落ちる直前、アペプの満面の笑みが見えた。
「結婚おめでとう、我が愚弟。あいつにも至らぬ所があるだろうが、どうか大目に見てやってくれ」
純粋な感謝なのか、あるいは何か別の意図があるのか。でももうそんな事を考えられるほど頭は回っていない。
「ありがとう……ございます」
目の前が真っ暗になる。身体から力抜けて行く。僕は眠りに落ちた。




