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幼年期の事を

 


 

 刀をアペプの喉元に向ける。もう自分でも何がなんだがわからない。錯乱してると言われればそうなのかもしれない。王としてメンフィスを守りたい気持ち、スビアとアイシスにちゃんとしたものをあげたいという気持ち。二者択一、二律背反。絶対に叶わない物、それを自覚させられてガキみたいに癇癪を起こしてる。


 「来いよ」


 脚に力、地面を抉りながら前進。狙い済ました大上段の一閃。

 アペプは手を合わせ、白羽取りした。その手にはまるで細い蜘蛛の糸のようなものが震えている。


 「アラクネ、新改(アラタアラタメ)


 チェンソーのように刃を振るわせて糸を断ち切る。糸の奥へ、奥へ。


 「なっ……」


 この糸、入る度に分厚くなってく。そして断ち切った所が治っていくんだ。抜けない、動かせない。


 「ふん、馬鹿が


 鋭い蹴り、左の脇腹に。痛い、鈍く。


 「そっちでしょうが!」


 左脇腹、爆発する黒い霧の棘。左側が弱点なら左側に罠だって仕込む、当然だろ。


 「お上品な戦い方をするようになったな、あの時の気迫はどこ言った?」


 足から血を流しながらも彼は笑ってる。純然に戦いを楽しんでいるのだ。


 「あんたと違って、僕は戦いだけをやってる訳にはいかないんですよ!」


 刃、震える。更に強く輝きを放って。


 「戦いだけをやってる方が楽だろ」


 アペプは白羽取りした両手で刃を潰す。レーザーの刀が折れた。


 「効くぜ、光の正拳(ハールティアス)は」


 アペプの右手が光ってる、強く輝いている。膨大な風属性を閉じ込めた拳が刀の火属性を飲み込んで輝いている、果てしなく。


 「モロに入れッ!」


 練り込む正拳突き、鈍器で殴られるような。でもきっと、真髄はそこじゃない。


 「まずい!」


 全ての魔力を腹に込める。魔力を使って守らなければ腹が吹き飛ぶ、でも込めた魔力は突き刺さる拳の纏う嵐のような風属性がそれを引き剥がし、己の力のしている。

 計算され尽くされた、殺すための、詰ませるための魔法である。


 「輝けェーッ!!」


 眩い光が腹の中に。広がっていく、光。飲み込まれる身体。熱い、身体が焼き尽くされる。

 轟音、衝撃。全身をハンマーで殴られるような。


 「ぐっ、くそ……」


 砂埃を風が飛ばした時、腹の部分の服が破け、膝をついて血を吐いた。


 「思うんだよな、俺。およそ必殺技とされる魔法、達人であれば皆それを当然のようにいなしてしまう。だから達人同士の戦いでは必殺技のような大規模な攻撃をしない。でもこれじゃ美しくないよな。だから使う意味を作った」


 突如、身体が重くなる。青い光の鎖が全身に巻き付いている。


 「おはよう、輝ける冬虫夏草(リュミエール・コルディセプス)


 重い、でも重いだけだ。こんなもの、焼き尽くしてしまえ。


 「こんなの、燃えろ」


 有り余る火属性の力で焼き尽くす、魔力ごと。


 「最初の雷の分、必殺技の分。これでやっと半分か。並んだな、魔力」


 だから何だ、それでもまだ僕は戦わなくちゃならない。


 「つまり勝ちってことさ。ただ、このまま勝っても面白くないな」


 ぱんぱん、二回の拍手。アペプの背後に筋肉質な黒い馬が現れる。巨大で、全てを踏み潰せてしまいそうな程の力強い馬だった。


 「アヌンナキ=ウトゥ。その魂の意味は正義と道徳と真理。俺さ、お前を裁くのはな」


 アペプの手に天秤が輝く。何だ、視線が外せない。視線を外そうと思っても首も目も身体も動けない。


 「罪ある者、その罪を告白するがいい」


 天秤の光、全てが白く染まる。


 「は?」


 光の後、僕はある場所に居た。一人部屋、机と椅子、ベットと本棚がある部屋。この部屋は僕が転生前に居た部屋だ。


 「なるほどな。ガキにしては達観してんなと思ったが、こう言うカラクリか」


 隣に立つアペプ、手には天秤。しかし身体が透けている。僕の身体も同様に。


 「お前の罪、お前が罪だと思っているものの一つさ」


 部屋に入ってくる男の子。端正な顔をした男の子。黒髪の。

 彼は本棚の一番左にある本を手に取った。その本の表紙、黒くなっている。タバコの灰皿代わりにされて。

 あぁ、そうだ。これは稽古中に読んで起られた本。


 「稽古中に本を読んだ。くだらね。次の罪に行こう」


 背景が溶ける。水に落ちる砂糖みたいに。そして白く変わる。

 畳の部屋。掛け軸が掛かり、綺麗に整えられた。中心には二人。さっきの男の子。そして彼の親である大男。目鼻立ちのしっかりとした初老の大男。されど瞳は少年のように輝いている。

 大男は男の子を思い切り殴り、男の子は蹲る。そして男の子に向かって叫んだ。


 「何故あの場面、声を大きくした。あの場面は母を失った主人公が静かに泣く場面だ。主人公は産まれてからずっと大人びた子だ、プロットでもそう定義されている。なのに何故、あんな泣きじゃくるガキを演じた」


 「だって、だっていくらあの冷静な主人公でも年相応くらいに泣く事だってあると思ったから……」


 大男の蹴り。男の子を吹き飛ばした。


 「俺と違う解釈をするな。いいか、お前の解釈は正しいかもしれないが、それは求められてない。求められてない演技をしても金にならない。俺の言う通りにしろ」


 アペプはその光景をつまらなさそうに眺める。そして同じセリフを吐いた。


 「くだらねぇな、お前」


 再び景色は溶けて行く。

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