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人殺し




 「いい演目だった、さすが姉さんだ」


 壇上に上がるアペプ、僕はただ這いつくばってゲロだして眺める事しかできてない。


 「最悪の台本でしたよ。でも面白いものが見れましたから」


 手を握る二人、熱いキス。何であんなに悪い人たちなのにあんなに幸せそうなんだ。


 「さて、お前からアイシスに伝えて欲しいんだが、俺はマサツグと結婚する。今からパッと飛んでってシュメルにハネムーンなんだが……うん、言っとこうか、言っとかねぇと面白くない」


 笑う二人、僕を笑う二人。何でみんな僕を笑ってるんだ、僕はあんなに頑張ったじゃないか。


 「シュメルはアトランティスと違ってセイレキの遺産が多くてな。そん中に太陽砲ってのがあるんだが、俺はこれを使って馬鹿共を抹殺しようと思ってて」


 「な、何でそんな事をするんです?」


 「馬鹿は死んでも治らねぇ。だから死なす、そんだけだ」


 「毛頭わからない、貴方の言っている意味」


 右手で顎を触り、左手でマサツグさんの頭を撫でてる。


 「意味、か。そうだな、お前は本の内容を一冊丸々憶えることってできるか?」


 ゲロを吐き切って、今度は帰って冷静になる。そんな冷たい頭で話を聞いても、アペプの言ってることは意味がわからない。


 「昔は図書館なんてなくて、紙そのものが高価だから本を暗記するってのも少なくなかったそうだ。つまり、だな。便利になるにつれて知を外部に委託してるって訳さ。俺はこの構造が嫌いだ。だからそうなる前にぶち壊す。自分のとっての価値すら外部に委託するのはつまらん事だからな」


 まるっきり何を言ってるかわからない。全然わからない。


 「何でそれをする必要があるんです?価値ってそんなに大事ですか」


 「息をする事を生きていると言う事は寂しいだろう。お前のようにな。だからそんな奴らが生きれない厳しい世界にする」


 見下す目。意味不明な言葉の数々。あぁ、今理解した。こいつは僕には理解できない人間だって事を。セトはまだ理解できるが、こいつだけは相容れない、絶対に。


 「あんたの言ってる事、もう理解しようとすら思わない。だからこれだけ教えてください、貴方の行為によってどれほどの被害が訪れるんですか。メンフィスが、アイシスやスビアが死んでしまうなんて事、ないですよね?」


 右手を口で押さえ、笑いを溢す。アペプ。嘲笑う、僕を。


 「くっ、ははっ。お前今俺の妹よりも先にメンフィスを出したよな。つまりだぜ、お前の中の優先順位はお前の良心でその次がメンフィス、最後に俺の妹さ。あぁ、くっだらねぇ。くだらねぇよ、まじで」


 「答えになってない、答えてくださいよ、僕の質問」


 「そうだな……メンフィスを破壊するってこともあり得るだろうな」


 メンフィスを破壊……そうなれば僕はファラオから解放されてアイシスもスビアも貴族の娘、王族の嫁としての生き方から解放される。徳しかない、でもメンフィスが壊れれば何人も死ぬ。


 「てかそうなったらお前にとって得だろ。だってお前にできないことを俺がしてやるって話だし。どうだ?いっそのこと、俺を見逃してあいつらとよろしくしたらどうだ?」


 駄目だ、僕は。どうしようもないな。僕は選ぶことすらできない。


 「レーザー、ダイトウ」


 右手に火属性の大太刀、その切先を夫婦に向けた。


 「まじかお前。お前、気持ち悪いな。俺が見てきた限り最悪の人間だぞ」


 アペプの顔の前に立つ一本指。空気の属性の集合。


 「吹けよ、春嵐」


 暴風が吹く、劇場の設備を吹き飛ばし、僕の身体も飛ぶ。目を開けた時、僕は劇場の外にいた。ビル群が燃えている。大砲の音が聞こえる。空が赤い。


 「いいか、教えてやる。お前は選択しない事を選択した。自分の心を傷付けたくないからって。選択権を俺に委ねた。自分の命を捨ててな。そんな奴が俺の妹やあのセトの娘を幸せにする?笑わせるなよ、そんな奴にあいつをやれるものか」


 大太刀を変形させる。鋭く、薄く、高密度に。より鋭く洗礼された武器に変えて行く。


 「日本刀ね、そいつはただ殺すために最適化された武器だ。じゃあ、お望み通り殺してやるよ」

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