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中庭にて



 中庭に出て、アペプ兄さんと向き合う。


 「なぁ、シュン。なんでグロッキーしなかったんだ?さっき。目の前で人が死んだんだぞ」


 「あんたが殺したんだろうが」


 アペプの顔、徐々に変わる。頬に力を入れて、口から出る何かを抑えているようだった。


 「くっ……ははっ。くっははっ!!そうか、そうか!俺が殺したか。そうだよな、殺したの俺だよな。そうそう、そうなんだよ。殺したのは俺なんだ」


 ひとしきり笑う不気味な男。笑いすぎて目に光。涙が出るほど笑ってんだ。


 「お前さ、お前。人が死んで欲しくないって、本当に思ってんのか?」


 「そりゃ、そうでしょ。死ぬのは怖いことだ」


 「嘘つけ、お前はホエル王が死んだ事について残念としか思ってねぇよ。いいか?お前はさ、死んでほしくないんじゃない、ただ殺したくないだけだ」


 まさか、そんなこと……


 「自分の心しか頭にない、だろ?という訳で、これを証明する為に俺は一つ妙案を思い付いた」


 アペプは外套を脱ぎ捨てて胸の前で十字を描いた。それと同時に彼の魔力が満ち満ちる。暗澹とした、ドロドロの黒い、悪意のような力が。


 「今から俺はアトランティスに居るやつ全員殺す。これを止めたいなら、お前は俺を殺さなくちゃならない。自分が殺人を犯すよりも他人が死ぬことの方が嫌って言うんなら、当然俺の事を殺せるよな?」


 封印布を脱ぎ捨てる。同時に煮えたぎった熱い魔力が左目から流れ込む。熱い、熱いんだ。

 でも、このおかげで今の僕の魔力量は何倍にもなってる。つまり僕は今、最強の存在になった。これなら、アペプ兄さんといえど止められる。


 「うお、すげえ魔力。びっくりだなぁ」


 バチバチ、どこかで雷が鳴ってる。アペプの持つ属性は水と空気。雷属性は火属性が無いと作れないはず。じゃあこれはなんだ?


 「鳴鳴(めいめい)、堕ちろ!」


 大きく上げたアペプの右手、雷属性がある。そうか、雷属性を作ったんじゃ無い、周りの雷属性を利用したんだ。だとしたら……


 「龍雷慟(ドラゴンライド)!!」


 雷が天空を埋め尽くす。そう、アペプはアトランティスとマンジェットが発した雷の翼の残穢を利用したのである。


 「くそ!」


 落ちる雷に向かって飛ぶ。バチバチバチバチ、雷が鳴って鼓膜が破けそうだ。


 「星」


 天空に巨大な太陽。雷を飲み込むように。


 「沈む」


 星は崩れる。自らによって。そして小さくなり、やがて黒い、黒く見える1ミリの球となった。それは周りの雷を飲み込んで行く。ブラックホールを再現する魔法、ではなくブラックホールによる現象を再現する魔法である。


 「前より制御が上手くなったな」


 目の前にアペプ、振り下ろされる右手。


 「忍法、四重カマイタチ!」


 圧縮された空気の刃、それを迫り来る右手に向けて発射する。


 「良いことを教えてやる」


 迫り来る拳、風は砕け、鼻の上にモロにくらう。

 意識が落ちる、体も堕ちる。

 地に落ちて埃が舞って、やっと意識が戻った。鼻から大量に血が垂れている。


 「温突(オンドゥル)!」


 先に僕が落ちたんだ。だからアペプが落ちてくる前に地面をドロドロのマグマに変える。


 「氷渡り」


 アペプの足に触れた地面、マグマがたちまち冷えて氷になる。僕の手も凍る。


 「シャアッ!」


 右目のレーザー、それも簡単に避けられる。

 動けなくなった僕、僕の顎に向けた鋭い蹴り。

 脳が震えてる。


 「殺し合いなら負けてたな。でも喧嘩じゃ俺には勝てねえよ」


 動けない、胸ぐらを掴まれてる。


 「喧嘩の勝ち負け決めんのは、魔力のデカさでも身体のデカさでもねぇ。闘争心のサイズ、ただそれだけだ」


 魔力の込められた右手。腹に刺さる拳。口から吐き出す唾と血。2度目、3度目、衝撃と共に吐き続ける。


 「テメェの負けさ、くだんねぇよ」


 目の前が暗い、思考が回らない。意識が落ちる。沈んで行く。

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