アトランティス平家物語第十一巻 晴明
波によって揺れる甲板、飛び去っていくロケットを眺める。だが絶望はない。カペラさんから譲り受けたこの弓と僕を殺しかけた青龍さんの弓術ならば、あれも射抜ける筈だ。
「青龍さん。起爆装置かあるいは起爆用の核だけ撃ち抜いてくれれば、100点です。起爆すれば70点、逃せば打首ですよ」
青龍さんは僕の後ろに立ち、左腕を前に突き出す。ちょうど、僕の失った左腕の代わりになった。
「わかってる、さっさと弓と矢を寄越しな」
「はい、しなれ破魔、光れ鏑矢」
純白の白い弓が青龍さんの左手に、純白の矢が僕の右手にある。
「主よ、太陽の化身ラーとその被造物、人の親アヌンナキよ」
囁くような小さな祈り。僕の耳元で。
「冀わくは、あのミサイルの起爆装置を射抜かせたまへ」
矢を掴む右手を引く。青龍さんが微調整をする。
「これを射損じるのであらば、弓切り折り名を捨てよう」
海風が静かになる。波が低くなる。雲の中に太陽が隠れた。
「当たれよ」
純白の矢が空を舞う。風を消し飛ばし、雲を消し飛ばし、そしてミサイルの先端の、少し後ろを射抜いた。
「感謝します、青龍さん」
足元でバチバチという音。エンジンが再起動してくれた。それなら防空はこいつに任せよう。
「気を付けろよ、坊や」
「誰に言ってんです。こいつを入れたからには誰にも負けれませんよ」
身体の周りを高密度の魔力で覆う。特に背中に集中させる。するとバチバチと、火属性が高密度になりすぎてずかなわプラズマが発生する。
「行って来ます」
瞬間、僕の身体は吹き飛ばされるように空を飛んだ。あの船と同じように空を飛び、そしてアトランティスの上空に辿り着いた。
見下ろす摩天楼、あそこが止まってたホテルで横が燃える公園、そしてその横が皇居に該当する場所。だとすれば首相公邸は…‥あそこだ。
首相官邸に向かって突撃をする。風を切って。
一度庭に着地し、警報が鳴る。このまま真正面から行って制圧するか、それか……
「今日はお日柄も良く、散歩するには丁度いい気温だ。そうは思わないか」
目の前に全身包帯の着物の男。
やっぱりこの人は凄い。僕なんかよりも格段に。だってこの人はからは一切の魔力を感じないんだ。アウシルみたいに魔力があり過ぎてどれくらいあるかとわからない、とかではなく、純粋に魔力がゼロなんだ。
それはとても偉大な事だと思う。だって魔力無し、つまり武力無しでアトランティスの政治の頂点に居るってことは片手でボクシングをして勝ち続けて来たようなものって事だろう。
「なんで、出て来たんです?わざわざ」
「詰みだったからさ。まさかアトランティスという船がこんなにもオンボロシップだとは思わなかった」
後ろを向くホエル王。彼は本館の方を指差してこっちで話そうと言いたげだった。
「どうしてあの時、無理だって言ったんです?僕は貴方が無理と、メンフィスに対して危害を加えないと言えばそれで帰りましたよ」
公邸と廊下を歩き階段を登る。そして四回、二つのソファが向き合う特別応接室に着いた。
「楽にしてくれ」
藍色のソファに深く沈む、それはホエル王も同じであった。
「一度アトランティスには入ったんだろう」
「はい、とてもいい街でしたよ」
ホエル王は満足そうに笑う。なんだ、この人……絆されてるのか、僕。
「だろう?そう思うだろう。私の育った世界だからな。だが、そんな世界もあと300年で滅びる。エネルギーが足りないんだ」
「300年……それってもうちょっと後じゃ行けなかったんですか」
「そこが私の間違いだったな。私がやらなくてはという使命感、私がやりたいという欲望。少し我欲が強過ぎたんだろう。あくまで私の代の仕事は改革ではなく維持だった」
歴史に成りたかった。僕にはこの感覚はわからない。僕は王として産まれた訳じゃ無いから。でも、もし自分が王となれ、お前は有能だって持て囃されて産まれたのなら……待て、それって僕だ。俳優になるべくして産まれて育ててられて、もっと優れたものを、どうせなったんだから画期的な表現をって、そう言う感情があったかなかったで言ったら間違いなくあったじゃないか。なら僕が彼を否定する事は絶対にできないだろ。
「もう、結果論でしか無いでしょ。やめてくださいよ言い訳」
「手厳しいじゃないか。でももう少し言い訳させてくれよ。人生全部を賭けて失敗したんだ。良くあることだとは言え、少しは言い訳したいよ」
カチャ、彼のソファに備え付けられていたボタンが押される。すると同時に天井からプロジェクターが現れ、部屋が暗くなる。
「昔話をしようか、少し。古代の残骸でも眺めながら」
古代の残骸、ギクニさんが言っていたアトランティス圏での信仰の形を作るもの。しかしその全容は分かっていない。




