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オペレーションクワトロ



 朝日によって起きる。朝日と言っても人工の太陽を幕の上に吊るしているだけだが。


 「スビア、アイシス、起きてくれ。始まった」


 窓の外のビル群、雪のように札が降っている。札には天照太陽之螺洲と書かれていた。


 「すぐに着替えてくれ、マンジェットに戻ってあれを埋め込みたい」


 彼女らを起こしすぐに着替えさせる。ホテル出てすぐの場所、魚人達が集まって天から落ちる神札を眺めていた。


 「これは……これは天よりの宝札に違いない!きっとこれは慶事の前触れだ!!」


 アシカの顔をした魚人が叫ぶ。両手を広げ、天を仰いでいる。高台に立ち、積もった札をかき集め、ありがたがる魚人達に振り掛けながら。


 「あぁ、そりゃ、えぇことじゃ」


 老魚人は小さく呟いた。降り注ぐ神札をありがたがって。そしてやがて、一つの、とても分かりやすい言葉が集団から生まれた。


 「えぇじゃないか」


 ホテルの近く、ちょうど日比谷公園に相当する公園から煙が上がっている。マサツグさんによって作られた混乱、簒奪者たる平家に対する反抗、ミナモトノトキヒメの乱の最初の一手である。


 「えぇじゃないか!えぇじゃないか!」


 群衆達を掻き分けて、僕らは歩く。アトランティスに来た時と同じ港に向かう。そして小型艇に乗り、マンジェットにまで帰った。






 「待たせたな、諸君。やった君らの出番だ」


 マンジェットの艦橋。待ってましたと言わんばかりの乗組員達。特に砲手のおじさんは袖を捲って筋肉を見せ、腕がなるぜと言いたげであった。


 「アトランティスの上部、バリアの膜スレスレを狙え。向こうの兵隊の混乱を狙う」


 平家転覆作戦、オペレーションクワトロはその名の通り四段階の断頭作戦である。まず一段階目、神札によって民衆を混乱させる。次に二段階目、マンジェットからの砲撃で軍部と政府を混乱させる。そして次にトキヒメが蜂起し、最後に首相官邸に向かって僕が突撃してホエル王を捕縛、あるいは殺害する。


 「ウェルトシュティルナー一番二番、撃て!絶対に当てるなよ!」


 主砲からの赤い発光、海底の中でも強く輝く赤い光。膨大な熱が海水をプラズマと水蒸気に変える。バリアのすれすれを通る赤い光、バリアの粒子を見出し、膜に赤い筋がわずかに残った。


 「このまま待機する、私はいざという時に備えてウジャドの目を……」


 モニターに砂嵐。突然の。そして映し出される、全身包帯の男。左目は無く、右目は虚ろ。もはや半死人であった。その男が落語をする様に座布団に座り、薄い着物を肩に掛けていた。


 「お前達をずっと見ていたぞ。良くここまで頑張ったな」


 カラカラに乾いた声。グットのジェスチャーをする手、中指と薬指が欠損している。そして僕と同じで左腕もない。


 「誰だ、貴方は……」


 僕はこの人が恐ろしい。だって身体がこんなにも不自由なのに政治的な頂点にいるって事は、不自由な肉体をカバーするだけの圧倒的なアドバンテージを持ってる事だ。この人は僕と同じように他人の追従を許さない圧倒的な武力を持っているかもしれない。あるいは武力なぞ持たず、政治的な手腕ただ一つでその地位に上り詰めたのか。どちらにせよ、恐ろしい人だ。


 「(タイラノ)清吠(キヨホエ)。メンフィスではホエル王と呼ぶ方が一般的か」


 「さて、メンフィスのファラオ。これ以上の内政干渉は辞めてもらおうか」


 「ホエル王、こちらとしても帰国に対する内政干渉は即刻辞めにしたい。しかしそれが成せるのは帰国が我が国に対して良き隣国であると保証されてからだ」


 嫌になるな、こういうの。だって僕のやってる事って隣人が信用できないからって隣人の家に土足で上がり込んで隣人の家族関係にとやかく言ってるようなもんだ。こんなの正気の沙汰じゃない。


 「それは不可能だ。アトランティスはアトランティスにおける致命的な破綻を最終的な方法で解決する。それが今である」


 セトの日記を思い出す。知的生命体はある一定の豊かさを超えた時に自ら滅びる性質を持っている、その言葉を。もしこれがアトランティス、ホエル王の頭の中にあるのだとしたら、その目的は地上の征服。


 「その矛先がメンフィスに向かないと言うのなら、私はそれを拒絶しないだろう。しかしメンフィスに向くのだとしたら、私は私の方法で問題を解決する」


 「そうか、では返答はこうだ。浮上せよ、アトランティス、グレートノアよ」


 高く低く、海を揺らす。鯨の声が響き渡る。それと同時にアトランティスはゆっくりと、しかし着実に海上に向かって泳ぎ出した。鯨が呼吸をするように。


 「アイシス、スビア。頼む」


 ウジャドの目、予定通りそれを左目に入れる。

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