アトランティス戦争前夜
アロンソキハーノでお菓子等を買ってマサツグさんが手配してくれたホテルで作戦会議をする。
「ぱちぱち、では第一回作戦会議を実施します!私、マサツグが貸し切ったホテルなので国家機密も暴露OKです!」
めちゃくちゃ広め、一軒家と見紛うほどの。高級感溢れる赤のソファのリビング。そしてベットルームにはふかふかのダブルベッド二つ。アトランティスホテルのフランク・ロイド・ライト、マサツグさんはそう言ってたけど、ここ知ってる場所だ。だってアトランティスの街並みは東京を小さく縮めた感じ16平方キロメートルに小さく縮めた感じなんだ。つまりここは帝国ホテルである。
「しませんよ、そんな事」
ポテチをパーティ開けするスビア、それを一つ一つ食べるトキヒメ、なんか将棋してるアイシスとマサツグ。カオスだ。
「えっと、そうだな。まずどうやって転覆させるんだ?」
「表向きは民衆による革命という形にしたいと考えています。全ての終わり、残ったのは私と民衆とリンコ組だけという状態にしたいのです」
ポテチを食べながら答えるトキヒメ。おそらく彼女の考える理想、それに一番近いのは明治維新だろう。だって自分と民衆とリンコ組だけが残るってのは、統治者である平家、そして自分意外の源家勢力をも無力化しようって話なんだから。
「それって私達ヤクザの解体って貴方の言ってる事と相反しませんか?」
「ヤクザは解体して軍に取り込ませますよ。そして軍の統帥権は私です。手綱は私が持ちます」
「なるほど。平家の下で解体されるくらいなら軍となれと、そういう訳ですか。まぁ私はどうでもいいんであれですけど」
「そこは私の手腕の話になりましょう。ですから今考えるべきはそう、どうやって平家を混乱させるかです」
政権の転覆、混乱。やり方と言えば工作員を雇って扇動したりっていうのがメジャーだけれど、魔法という形で人間の身体機能が頭打ちにならない世界ではある一つの手段がある。それは圧倒的な力を持った個人による頭断作戦だ。
「僕がやるよ。首相官邸に突撃してホエル王を攫うか、それか黙らせる」
パチン、6三飛車成。アイシスの左四間飛車が龍に成った。よく見たらマサツグさんの方に飛車も角もある。チェスが上手いから、ってのもあるかもだけれどアイシスの成長速度は凄まじい。
「頼んでいいのですか?ファラオ様」
「構わない。メンフィスの立場としてはホエル王がどういう人間なのかを知らなければ、相互破壊確証は成立しないと考えている。だって身近に居たからね、全部破壊してもいいやって人が」
「怖い人ですね」
「本当に怖い人だよ」
でも気持ちはわからなくない。だって僕もファラオをやっててたまに思ってしまうんだ。ステーキを食べる僕と飢えて死ぬ人達、僕はそれを知って改善したいと願いながら、神官を高級ステーキに誘ってコネを作ろうとしている。少なくとも、僕が貧民でファラオである僕を見たら死ねと思うし、同時にこんな不平等な世界は滅んだ方がいいと思うだろう。だからセトを理解できないと言う事は絶対にない。
でもかと言ってセトを肯定する訳でもない。少なくとも、三人の日常が続く限りは。
「王手です。アイシスさん」
アイシスの高美濃が崩されている。てかあのルールブロックってルールしか描いてないタイプのルールブックだったよな。つまりアイシスは独自に振り飛車から高美濃まで辿り着いたって事?それはおかしいじゃん。いいな、頭良いって。
「捨てるしかないか……」
今思うと、今この部屋にいる五人の中で一番頭悪いのって僕か。調整の為に外に出てるギクニさんを入れても多分僕が一番頭悪い。謙遜とかではなく、事実として。なんだろうな、魔力はあの頃から格段に増加して、今やアペプさんと並ぶくらいあるのに、頭の方が悪いから、マサツグさんに言われたように本当に何でも出来て何も出来ない。
「アイシスさんはやっぱり守り過ぎですね」
「難しいですね、ショーギ」
「僕先に風呂入って良いか?」
「いいんじゃない?」
シャワールーム、蛇口を捻ってお湯を出す。メンフィスの古典的な湯船からお湯を桶で掬ってってタイプの風呂も別に良いんだが、やっぱシャワーはいい。
アメニティの石鹸、赤色の薔薇の匂い。それ掴んだ時、シャワーの水が石鹸を溶かし、赤色の血のような液体が流れた。血の液体はシャワーの流れに従い、弧を描きながら排水溝に流れていく。赤い渦、血の渦。くるくる回って目がまわる。僕の片目が回って回って離せない。
何分だっただろう、身体が動かない、ただ渦一点を見ている。
「シュンくーん?」
石鹸が潰れて割れる。渦の中に欠片が吸い込まれる。渦の中、小さな欠片がひらひらと花びらみたいに舞っている。これじゃ本当に僕が山椒魚みたいじゃないか。王様なのに政界じゃ生きていけない、魚ってついてるのに海の中では生きていけない奴。
「開けるよ」
石鹸、手から完全に落ちてる。赤い液体を作り出すだけの物になってる。
「あ!シュンそれ!石鹸、結構いいやつ!もったない!」
なんだ、身体が揺れてる。なんで揺れてる?揺らされてる?
「また金縛りなってる、最近は少なかったのに。いいや、ついでに洗ったげるよ、身体」
何かが身体を這ってる、虫?虫?泡が排水溝に流れる。弧を描いて、円になってぐるぐるまた回る。
「……ッッ!!ハァ!!」
いきなり全身の力が抜ける。苦しい、空気がない、空気が。
「本当、危なっかしいんだから」
柔らかい、暖かい感覚。優しい声。
「わっ、わぁ!?」
びっくりして後ろに飛び跳ねて下がった。ドンと壁に背中がぶつかる。だってそこには裸のスビアが居たんだ。濡れた髪と肌の、生身の女性が。
「先湯船入りなよ」
記憶を整理する。なんでスビアと一緒に風呂入る事になってるのか。何が起きた?何があった?
「ここのホテルのシャンプー良いよね」
多分、僕また金縛りになってたな。たまにあるんだ、あれ。
「あぁ、そう思う。好きな匂いだ」
縫って塞がった左目、閉じた瞼と空洞の眼球。ブヨブヨと膜みたいになっていて、絶対に良くないけど触ってしまう。
「そういやあれ買わなかったの?」
あれ、多分コンドームの事だな。僕が妙にずっと見てたから気になったんだろう。
「ご飯が食べたいからって、稲を自分の部屋に植えたいなってなる?」
「……え、あぁ、原材料の話ね。確かに私もそれは思ったわ。そうなるとそうなのかもね、アヌンナキの存在自体が怪しくなるけど、でもアヌンナキが人間を造ったのは事実だし……かと言って古代文明がこの船を作れるかってなると怪しい。規格は人間だけど確かにアヌンナキの技術だしね、マンジェットもアトランティスも」
やっぱ凄いなスビア。さっきの言葉だけで僕が考えてる事全部伝わっちゃった。多分僕がスビアの立場だったらどういうこと?って聞いちゃってただろうな。
「だからわからなくなってきた」
スビアは髪を洗い終え、浴槽に入る。僕の足の間に入って僕を背もたれにした。肩がすごく小さいと感じる。
「古代の残骸って確か言ってたよな。もし時間があれば見てみたいなって」
「私も!」
と言っても、古代の残骸が残骸と呼ばれるように、千年前の歴史ならまだしも、数万年前の過去なんて何の役にも立たない。まさしく残骸だ。
「のぼせると嫌だから出るよ」
二人で浴槽を出て身体を乾かす。ガウンに着替えて皆んなの所に帰った。トキヒメはソファで寝てるし、アイシスとマサツグさんはほぼ互角の戦いをしてる。普通初めて2日でゴキゲン中飛車やるか?
「え、何でちゃっかり二人でお風呂入ってんの?」




