アトランティスでアレを発見
水没都市クリティアスや海底神殿ティマイオスと同じように、アトランティスへは小型の潜水艇で入場する。マサツグさんとギクニさんの誘導に従って。
「近くで見ると本当にデカいんだな。これに攻められたらたまったものではない」
正直、アトランティスに入る必要はない。ここを見つけてしまった以上、もう相互破壊保証は確率されているのだから。でもそれが帰る理由にはならない。あくまで話すのは平家側の態度を意思してからだ。だって平家の頭領ホエル王がセトみたいな全部を破壊してもいいですって人だったら相互破壊保証なんて意味ないしね。
「大きいけれど、航行能力は死んでるんです。だからずっと海の中を彷徨ってます」
スビアの隣で話すトキヒメ。結局この子はスビアに懐いたらしい。逆にアイシスはマサツグさんの方から気に入られている感じがある。正直、逆になるかなって思ってた。アイシスは面倒見いいしなんだかんだ甘い人だ。だからトキヒメのような人はアイシスに懐くと思ってたし、スビアとマサツグさんは結構似てる所あるからそっちで仲良くなると思ってた。
「一度も浮上した事がないのか?」
「はい、アトランティスは一度たりとも浮上した事がありません」
確かアトランティスって何万年も、何十万年も昔からあるんだよな。ラーとアヌンナキの神話によれば人間が生まれるよりも前からあった筈だ。にも関わらず一度も浮上したことがない?
「自給自足なのか?海の中でアウタルキーを実現できるとは思えないけど」
「ラスカエセリオン対消滅エンジンでしたっけか、メンフィスの船の主電力。あれの改良版を沢山詰んでるんです。無限の電力を全部生産に回して無理矢理自給自足させてるんです」
ラスカエセリオン対消滅エンジン。僕は英語が読めるからあれのスペックについて知ってるけれど、あのエンジンって一機で大国の電力全てを賄える代物だ。劣化して出力が落ちているとは言え、それが沢山並んでるだったらそりゃなんでも出来そうだよな。
「さ、もう着きますよ」
やがて潜水艇は船の後部、港ような場所になってる所に辿り着く。ここはリンコ組の私有地らしく、僕らがしょっ引かれる事はないらしい。つまり裏口って訳だ。
「よくこんな権利を黙認できたな」
潜水艇から出ながら話す。港の風景は青い空のビル群も相まってどこか懐かしく感じてしまう。良くも悪くも日本みたいなんだ。
「リンコ組は解体した組織の人員を警察とか軍隊とかに無理矢理入れたんです。そのせいで中央政府が下手に手出し出来なくなってしまった。私の、源家の罪の一つですよ」
「耳の痛い話だな」
正直言って多分メンフィスでも起こり得る話だ。だってメンフィスの軍隊って主に荒くれ者とか農民で構成されているからね。モラルが無いんだ。それでいてセトが世界が終わるんだったら軍部の権力拡大して政治をぶっ壊しても関係ないよねってやったせいで、軍隊の権力が神官たちに比べて優越している。つまりいざとなったらトキヒメがやってるみたいに外国の勢力を借りて政権転覆なんて事も出来てしまうって訳だ。
「暗い話をしても仕方ありません。チェックイン致しましょう」
しばらく歩いた後、アトランティスの中心部のスクランブル交差点に辿り着いた。予想はしていたが、魚人がめちゃくちゃ居る。
「まんまだな……」
聳え立つビル、そしてスクランブル交差点の真ん前に立っているのは1090とあるデパート。そしてあの中に入ると意外と大きい映画館とカラオケまねき……招き犬!?!?本当にまんま渋谷だ。ロゼッタストーンさんの世界でも思ったけれどね。
「どうしたの、シュン君。なんか、なんか妙に感動してる顔してるけど」
「いや、懐かしいなって」
そういやこの船もマンジェットもそうだけど、アヌンナキの船なんだよな。でも確か、アヌンナキって100mくらいある巨人でしかも異星人の筈だろ。なのになんでアヌンナキの作った船に渋谷っていうか、スカイツリーっぽいのもあるしまんま東京があるんだ?
「ホテル入る前にあれ寄っていいか?ちょっと気になるんだ」
僕の記憶が正しければ、こうやってスクランブル交差点を右手に曲がって少し進むと……やっぱあった。
「なんでファラオ様が知ってるんです?」
「わからない、ただここにある気がしたから」
本店と別店が並ぶ、激安の神殿、アロンソ・キハーノである。
「ちょっと食べ物の買い物でもしててくれ、一つ気になることがある」
スビアは僕が言う前にポテチの袋を取っていた。この袋、色が付いている。つまりナフサがあるって事だ。それは石油を扱う技術をきちんと持っているって証拠に他ならない。
「言われなくてもやってるよ」
三人を菓子売り場に行かせて、僕が向かった際は衛生用品、生理用品の場所である。そして棚にあった小ぶりの赤い箱を手に取った。表紙には0.01と書かれている。そう、コンドームである。
「ポリウレタン、やっぱり……」
アトランティスは海を彷徨っているとは言え、大西洋をずっと泳いでいる。それでポリウレタン、合成樹脂の原料たる石油が大西洋で取れる場所は北海くらいしかない。そうなれば、答えはつく。アトランティスは人工石油の生成に成功している。
「こっちは?」
隣にあるコンドーム。こっちは0.01ではなくちょっと大きめ。という事はこっちの原料はポリウレタンではなく天然ゴムである可能性が高い。
「値段が変わらない」
方や人工石油、方や天然ゴム。しかし値段は同じ。つまりゴムの木農園がアトランティスにあるって事だ。
考えてみろ、異星人がゴムの木農園を船内に作るだろうか。他の惑星から移民して来たんだったら、ゴムの木なんて原産地で育ててればいいだろ。ブラジルとかその辺で。にも関わらず、アトランティスにはゴムの木農園がある。しかも人工石油の製品と値段が変わらないって事はだいぶ大規模な。
ここまで判断材料が揃ってると確信せざるを得ない。アトランティスは異星人の船なんかじゃない、人間の作った船だ。なんなら僕の異世界転生は異世界転生などではなく、現実世界と地続きの遥か未来に飛ばされたって認識の方が正しそうだ。
でもそうなると全部がわからない。現実世界と地続きだとして、なんでこの世界には魔法がある?なんでアヌンナキが人間を造ったって事になっている?なんでアヌンナキの船なのに人間が乗る事前提になってるんだ?それに現実世界が地続きだとしたらキリスト教とか仏教とかが名前聞かなくなるほど消えるなんて事おかしいと思うけど。
わからない、今は判断材料が全くと言って良いほど足りてない。
「シュン君、なにそれ」
「水風船」
「思いっきり避ける妊娠、道具って字使われてるけど。別に買ってもいいけどさ、買うなら自腹で買ってね」
「……わかってる」
そっと棚にコンドームを戻す。今の僕、赤くなってるだろうな、顔。




