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空っぽな人達




 夕飯を食べた後、今度はマサツグさんに呼び出しを喰らった。しかし自室ではなく祈祷室に呼び出すという事は商談とかそういう事だろう。


 「申し訳ない、遅くなった」


 ギクニさんの時と同じく、祈祷室には絨毯が敷かれて茶が用意されていた。


 「あら、女性を待たせるとは随分なお方ですこと」


 長い銀髪と白すぎる肌。病弱な薄倖美人が似合いそうな人だ。でもトキヒメ曰く、この人はそんな人ではないらしい。むしろ生命力に溢れた人なんだとか。


 「冷める前にお召し上がりくださいね」


 「有り難く頂戴させてもらう」


 茶の味、ギクニさんが淹れてくれた奴と同じ味だ。練り方が上手なんだろうな、二人とも美味しい茶を淹れてくれる。


 「良いお手前だ。僕は凄く好きだよ、この味」


 「その顔で女性を堕としてきたんですか?」


 「いきなりだな。別に彼女達はそんな簡単な人じゃないよ。ただ、僕の場合は少し間が良かっただけだ」


 濁ったような白い目が僕を見ている。怖くはないし、何も感じない。ただ綺麗だなって思ってる。


 「では単刀直入に話しましょうか。ファラオ、小ホルス様。いえ、シュンさん。あの二人とはお付き合いなさってるんですよね?」


 「え……はい?」


 身構えすぎていたので、生返事してしまった。だってこんな質問されると思ってなかったのだ。てっきりギクニさんみたいな商談をしてくるかと思っていたから。


 「それではトキヒメ様が言っていた話は本当なんですね。やっぱ獣人相手だと人間の男性は疲れてしまうものなんですか?それとも二人分のフェロモンの強壮効果が勝って充分にできるもんなんですか?」


 身体を前に出して興味津々に聞いてくる彼女。なんだこの人……


 「ちょっと待って。何の話をしてるんだ?」


 「え、何ってそりゃそれでしょう」


 それって……


 「僕抱いてませんよ、まだ」


 「マジで言ってます?毎夜ベットに連れ込んで抱かないってどういう事なんですか?健全な思春期の男子が?」


 言葉にしてみると本当に意味わからないな。でも僕が彼女らを抱かないのにはきちんとした理由があるし、一緒に寝てるのだってきちんとした理由がある。


 「彼女らは王族の生き方を望んでない。だからもし、子供が出来てしまって結婚せざるを得ないってなったらエッチな事なんて出来ないよ」


 「え?別に子供がいる事とあの二人に王族らしい生き方をさせない事は両立しませんか?」


 あり得ない、そんなこと。ただ一つの方法を除いて。


 「しない。絶対に。そんな方法なんて許される筈がない」


 「でも真にあの二人を愛しているのならそうするべきでしょ。あの二人よりも数万人の見知らぬ人々の方が大事なんですか?」


 そんな訳はない。あの二人が死ぬくらいなら僕は数万人の見知らぬ人が死ぬ方がいいって言ってしまう。でもあの二人が死なせない為に数万人を殺す事なんで出来ない。

 あぁ、つまり僕は……


 「つまらない人、本当は自分が一番の心が大事なんでしょ?それでいて自分の心を傷付けながら結婚なんてしませんよって無意味に争ってるの言ってるの、ここに道化極まれりでしょ」


 「黙れ、まだ無意味と決まった訳じゃない。何か糸口がある筈だ。何か、全員を殺さずに済む一手がどこかにある筈だ」


 「何でも出来るのに何も出来ない、そういうものではなくて?権力って」


 ちくしょう、嫌いになりそうだ、魚人の女。トキヒメにせよマサツグさんにせよ、理解しあえる会話をして徹底的に僕の駄目な所を抉ってくれる。このままじゃ僕は本気で僕を嫌いになってしまう。


 「わかってる、わかってるんだ」


 彼女を顔、眉を顰めて口を開いて、酷く失望した顔をしている。


 「アペプさんの弟さんってこんな情っけない人だんだんですね。こんなんじゃいざ彼女達二人が襲っても貴方は拒絶するでしょ。添え善食わぬは男の恥、草食系なんて飢え死んでしまえって話です」


 実際、僕はスビアに襲われた時、ちょっと泣いてしまった。怖っかったから。それは多分、アイシスでも変わらなかったと思う。つまり正しいんだ、彼女の言ってる事。


 「結局何が言いたいんだ、貴方は。僕を虐めたいならまずそう言ってくれ、身構えるから」


 「えなんでそんな雑魚なんですか。アペプさんもそうですけど、メンフィスの男性って女の子に虐められるのが趣味なんですか?」


 彼女が僕にそう言い放った時、祈祷室のドアが開いた。そこには眉を顰めたアイシスが立っていた。


 「うわぁ、兄さんの性癖なんて聞きたくなかったけど……寝る時間だから回収していいですか、シュン」


 「構いませんよ。話しててもあまり面白くない人ですから。まぁ彼について話すのは面白いですけどね」


 アイシスは僕の腕の無い袖を掴んで袖をリードのようにする。僕も引っ張られて自然と立ち上がった。


 「アイシスさん、捨て台詞吐いていいですか?」


 「構いませんよ、マサツグさん」


 「虫ケラのようなものにも情欲は与えられるもの。別に貴方が王の女でも、それは変わらないでしょう?」


 「えぇ、まったく同意見です。でもこの人は頑張ってる、私は女としてそれを見守って応援してあげたいなって思ってます」

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