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ファラオ召喚




 「じゃあ私と交渉なさってくれたりしませんか?私はアトランティスに帰らなければならないのです」


 「勿論良いですよ。でも試験はさせてもらいます。私もアペプさんも、状況に流されるだけの人は嫌いですから。だって息をしている事を生きているとは言うのは違うでしょう」


 状況に流されるだけの人。ならば私はファラオ様が王位を簒奪して王様になったみたいに、確固たる覚悟をこの人に示さなくてはならない。


 「……モンロー鎖国主義を取りやめ、大奥も解体しましょう」


 多分、この人はヤクザをやってるけどヤクザなんて本質的にどうでも良いと思ってる人だ。恋愛脳で愛に生きる人。もはやアペプという愛する人以外どうでも良いと考えている破滅的な人。怖い人だけれど、私にとって好都合なんだ、利用させてもらう。


 「どうしてそうしたいの?」


 「正しいとそう思っているからです」


 「それはどうして?」


 どうしてって……だって一般的に考えてアトランティスという一つの国だけでこれからも持続していけるとは思えない。だってアトランティスは船に過ぎないし、その面積は16平方キロメートルしかないんだ。


 「なんとなく正しいと思うから、それで何かをしようって言うのは問題解決をする為に成し遂げるんじゃなくて、名誉が欲しいから成し遂げるって事。それで何かをしようとしても上手くはいかない。障害物競走で障害物を見ずにゴールテープだけ見て走るような物ですから。それにほら、やってみてからそれが自分を損なうだけのものだったら虚しいでしょう?」


 モンロー鎖国主義。持続性のないシステムだが、それでもアトランティスは回っている。おそらく、あと100年はこのままでも大丈夫だろう。でも100年後には資源が無くなってアトランティスは貧しくなるし、なにより100年もあればメンフィス等の外の世界の国々はアトランティスよりも強大になっている。

 でもこれでも、今が良いからそれで良いと言う人々は居る。私はこれを後先を見てないと否定出来るほど世間知らずではなくなってしまった。だから……


 「この世の気高いものに栄光あれ。しかし私は私の中の気高い栄光をこそ信じております。これではいけませんか?」


 この世の気高いものに栄光あれ、汝の内の気高いものに栄光あれ。アトランティスでは有名な詩である。

 海底神殿ティマイオスに入る前、私はギクニさんとファラオ様の会話を盗み聞きしていた。ファラオ様にしろギクニさんにしろ、二人は上に立つ人だ。そして彼ら二人は両方、嫌々ながらも、あるいは進んで傲慢たろうとしている。そうならば、私もそうならなくちゃ。


 「確固たる信念を持って後悔するのなら、後悔の形も幾分かマシになりましょう。良いですよ、私はアトランティスに貴方を届けます」


 「有難うございます、ツボネ、いえ、マサツグ様」


 彼女と握手を交わす。私よりも歳上のはずなのに、なんと言うか細くて弱々しい手だった。


 「ではまずここから脱出しなくてはなりませんね」


 懐からボタンを取り出し、カバーを外す。


 「ここを壊しても?」


 「構いませんよ、こんな所」


 ボタンを押した。目の前の彼女は目を瞑っている。彫刻のように動かず落ち着いている。本当にどうとも思ってないんだな、大奥が壊れる事も、ひいては自分自身の事も。

 数秒後、地面が揺れた。


 「曲者!曲者ォーッ!!」


 外の庭で騒ぎが起きている。窓の外、枯山水の中庭にローブと仮面をした隻腕の男が立っている。そしてその方割ではすでに槍が何本も散らばり、大男たちが大の字になって寝ていた。

 強い、とは思っていた。ファラオ様の事。しかしなんだろう、ファラオ様の魔力の総量がわからない。あるのはわかるんだけれど、あまりにも魔力が大き過ぎてその量を測ることができない。


 「行きましょう、マサツグ様。騒ぎになってるうちに」


 「ダメですよ。まだその時ではありません」


 「何言ってるんです?」


 「あの方達、ここを守る主戦力、忍者と言います」


 彼女の指す指の先、クナイを持った全身黒装束の戦士が居た。あれはアトランティスでも古く伝わる忍者という兵科である。


 「忍法、二重カマイタチ!」


 見せない風の斬撃がファラオ様に当たる。しかしファラオ様はそれを片手でいなした。


 「流石ですね、メンフィスのファラオ。アペプ様の弟さん」


 ファラオ様に向かう忍者、近接戦闘である。体術による戦い、左腕と左目がないファラオ様は不利かのように思われた。しかし、ファラオ様は襲いかかる何人かを目に止まらぬような体捌きで気絶させていく。


 「お優しい方なんでしょうが、忍者は成功するか自死するか。つまりです、トキヒメさん」


 彼女の冷たい視線が私に刺さる。あぁ、なんて言いたいかなんてもうわかってる。


 「ファラオ様をけしかけたのは私。私が彼らを殺した。わかってます、きちんと理解しています」


 こんな事、私はとっくのとっくに理解している事だ。だって平家による反乱が起きる前、私は王宮に暮らしていた。そしてその王宮の生活は下層の民による税金だと知っていたし、アトランティスを脱出する時だって何人もの兵を失った。


 「生まれながらの王なのですね」


 「何歳だと思ってるんですか、私の事。15年も生きてきて、自分の身体のサイズを自覚できないなんて人、中々居ませんよ」


 嫌というほど自覚させられた事。私の身体のサイズ。歩くだけで人を潰してしまう、巨大な権力。源氏の、王家の娘なんだ、もうそれくらい知ってなきゃ、とっくのとっくに死んでる。


 「今、もしかして怒ってます?トキヒメさん」


 怒っている?私が?顔に出てただろうか。そう、私は怒っている。あの男、メンフィスにファラオに。


 「もう良いでしょう、マサツグ様。脱出しますよ」


 眺める彼女の手を引いて私たちは大奥から脱出した。そして2日後、マンジェットにてファラオ様と合流する。

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