破滅的なあいらぶゆー
「女性を、獣人の女性を四六時中侍らせて毎日同衾してるんですよ。しかもなんか、スビアさんもアイシスさんもファラオ様も全員訳あり顔だし、怖いんです、ジメジメしてて」
「まぁ!お盛んなのね……」
正直あの空間についていける気がしない。勿論みんないい人だ。でもスビアさんはいつも明るいけど何処か闇があるし、アイシスさんも冷静で頭の切れるお姉さんって感じだけど何か諦めてる感じある。何よりファラオ様だ。あの人はあまりに異様すぎる。
「何よりファラオ様がおかしいんです。あの人は苦しんでるのに、同時に何も無い。精神的疾患を持ってるにも関わらず、何も無いように完璧に演じてるんですよ。怖いです、同じ心の働きを持った人だとは思えません、私には」
日頃から思っていたことを全て打ち明けてしまった。ダメだ、一方的に喋って。悪いことをした。
「苦労なさってるのですね……」
「アペプさんはどうなんです?貴方の恋をしたお人は」
そこからは止まらなかった。彼女は真に乙女であった、恋に恋をする人であった。
「まず身長が高くて強くて、目尻がね、いいんです。切れ目な所が、それでいて蛇みたいな赤い目を持っているから偶に怖くって、でも私の前だと優しい人なんです、それでそれで……」
あらゆる言及があった。特に見た目の部分で。でもそれって面食いじゃん、そう思ったけれどすぐにそれは否定される。だって魚人同士の会話なんだ。ファラオ様と話すよりも意図は通じる。
「それで性格の方はどうなんです?」
「はい、あの人は……そうですね、好きな物は一つもない、でも嫌いな物は無数にある、そんな人です」
それは息苦しくないか。だって私も含めて、殆どの人間は好きな物の為に生きている。にも関わらず好きな物は一つもなくて嫌いなのが沢山あるとなれば、自ずと生き方が二つに絞られてしまうじゃないか。
「その人はどう生きるんです?」
「アペプ様は嫌いな物を全部破壊致します。だから私は好きになったんですよ。マロンチストで馬鹿な女なのですから」
「えぇ、こわ。それっていつか貴方も殺されませんか?」
「でもそれでいいんです。あの人は私という個人を理解してくれましたし、私はあの人を理解できましたから。何度も身体を重ねて、その根底から理解して、賛同したり否定したり」
理解は愛を内包する、そう言いたいんだろう。たとえ理解の果てに殺し合いをしても。私はこれを肯定できない。だって理解し合える事の中に愛する事があるのだとしたら、私たち海の民は、魚人は愛し合って殺し合いをする生命になる。そんなの悲し過ぎるし、何より愛って感情が理解し合うという機械的な行為の中に自動的に発生する物だとは私には思えない。
「ちょっと待って下さい。え、という事はツボネさんって処女じゃないんですか?それってヤバくないです?」
大奥において処女ではないっていうのは致命的だ。だってアトランティスの将軍に捧げる筈の純血をどことも知らない人間に捧げてるって事なんだから。悪い事ではないけれど、同時にそれが原因で殺される事もあり得るって話なんだ。
「ん別にヤバくはないですよ。だって……あぁもういいや、私が北条政次です。大奥でちょっと遊ばせて様子を見ようと思ったんですけど、貴方とは気が合いそうだから」
「え……」
人生で一番醜い顔をしたと思う。口も目はガン開きで、とても女の顔ではなかった。
「え、マサツグ様なんですか?どうしてご本人が私に接触を?」
「ゴキブリが家に出たら探して潰すでしょ。でも貴方はゴキブリじゃなくて、なんだろう、ハエトリグモでした。ほら、ハエトリグモ可愛いし。だから潰さない、そういう事です」
「ギクニさんはマサツグ様が幻肢痛に悶えくるでいると、恥ずかしがり屋とおっしゃられてきましたけれど……」
こう、ギクニさんの言葉からマサツグ様は古狸のような人だと思っていた。でもこんな、恋に恋する乙女だなんて思わなかった。
「裏切る手足に対して幻肢痛を覚える程、私は優しい人じゃないですよ」
「え、じゃあギクニさんがマサツグ様に対して幻肢痛に悶えくるんでいると印象を受けたのは……」
「はい。平家の皆さんが政権を獲得なされ、ヤクザを叩き始めた時、ちょうど私はあの人に恋をしてしまいましたから」
「えぇ……」
困惑が漏れた。私の困惑が大きくこの部屋に。




