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海中にて






 僕らは水没都市クリティアスを出て、マンジェットに帰った。マンジェットはギクニさんの乗った潜水艦の誘導の元、麻薬の運送等に使う裏ルートを通って海底神殿ティマイオスへの向かう事になっている。


 「なぁアイシス。君がトキヒメを助けたのか?」


 食堂にて、アイシスと二人で話す。彼女がトキヒメを助けた事について。


 「そう思う?」


 「うん、そう思った。少なくとも僕は、そう感じた」


 悪い事、とは僕は思わない。シュンはアイシスの行動が善意によって行われた正しい事であると思う。しかし小ホルスとしては彼女の行いは悪手であると言わざるを得ない。だって彼女にそこまでの権限は与えられていないのだから。


 「仕方ないじゃん。助けてあげたかったんだよ、あんまり良い手だとは思えないけど、公共事業の件を受け入れられるよりはマシだと思ったから」


 「それは僕らメンフィスじゃなくてアトランティスの決める事だ。でも、君はその方がずっと良い」


 アトランティスのする事に首を突っ込む、つまり内政干渉だ。だからそんな事、メンフィスの女がやるべきじゃない。しかしアイシスはアイシスだ。彼女はまだメンフィスの女じゃない。だから僕は彼女を咎めない。だって彼女はトキヒメの友人として彼女を助けたんだから。


 「叱られると、思った」


 「まさか、そんな馬鹿な事で僕は叱らない。だって、そうだな、今の僕はちょっと冷静なんだ」


 悪い事、だとわかっているがこの旅をしている時は心が楽だ。大量殺人者ファラオであるという事実は忘れられないけれど、それはそれとして今の僕は役割的には一人の戦士だ。むろん、戦いなんて嫌だけどファラオと違って僕が頑張れば死人は減らせるから心持ちとして楽なんだ。


 「冷静?私が居なきゃご飯も一人で食べれないのに?」


 「それは関係ないだろ、多分」


 僕は一人でご飯を食べれない。光景とか臭いがダメなんだ。肉の焼ける臭いを嗅ぐと人体の髪とか肉とかが焼けるあの不愉快な臭いを思い出すし、ナイフで肉を断つとこれまた同じく、肉や骨を焼き切った感覚を思い出してしまう。

 しかし僕自身、怖い事がある。僕はご飯を食べれなくなるほど死とかそういうのを忌避してるのに、あの時普通に戦えてしまった。つまり、僕の心の根っこには恐ろしい悪魔が住んでるんじゃないかと、それが怖いんだ。


 「あるよ、だって貴方は後悔するタイプじゃん」


 「そう、かもな。反論の余地がないな、じゃあ僕の負けでいい」


 「うん、シュンの負けだよ。シュンは案外馬鹿だからね」


 「馬鹿でファラオをやれるかよ」


 僕は彼女らから見たら馬鹿だろう。特にアイシスやスビアのような、直感と思考力を併せ持って、かつ少ないながらも体系的に知識を得てきた人から見たら。でも僕は一般的に見たら頭がいい部類に入ると自負がある。これは驕りではなく事実だ。


 「馬鹿だからファラオやってんでしょ、馬鹿」


 「あまり馬鹿馬鹿って言ってくれるなよ。いきなりチェス盤ひっくり返してハイ勝ちです何て言い出したらどうするんだよ」


 「そん時は貴方を思いっきりぶん殴って半殺しにする。でも嬉しい、って思っちゃうかもね。だってメンフィスの何百万人よりも私の命が重いって、貴方が思ってくれたって事だから」


 「んじゃ僕はそれを出来ないな。半殺しにされたくない、君には」


 アイシスに半殺しにされる、想像しただけで恐ろしい。だって見た目はこう、褐色でスレンダーで猫耳まである、本当に美人なんだけれど、中身の筋肉の質が違い過ぎる。獣人の女性は成人男性の1.5倍の筋力があるんだからね。自分の1.5倍ムキムキなプロレスラーに半殺しにされるって考えたら、そりゃ怖いよ。


 「残念だが、坊やはその女にボコボコにされる事が決定されてるんだな」


 キラキラした美しい腕、ハルノアキラこと青龍さんである。


 「それは予言じゃなくて青龍さんの勘ですよね、僕信用しませんよ」


 彼女は少し笑ってから答える。


 「いや、自然ながら予言だ」


 「え、待って下さい。僕何やらかしたんです?」


 青龍さんは両眼を瞑って祈るように手を合わせた。


 「あ、これは半殺しにされても仕方ないな。てか半殺しにされるのが正しい」


 「はい?え、どう言う事なんです?」


 その後、何度か青龍さんに何で僕は半殺しにされるんですかと聞いたが、彼女は答えなかった。ただ、お前がお前だから半殺しにされるんだって、そう言うだけだった。

 そして3日後、僕らは海底神殿ティマイオスに辿り着く。

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