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交渉、イヴの上で




 「非礼の代償として、まずはこちらがトキヒメ様ご一行に対して与えられる物を提示致します」


 ギクニは水掻きのある指を3本立てた。


 「まずは一つ、トキヒメ様ご一行の存在と関連し得るあらゆる事象を口外しないと約束致します」


 「次に二つ、我が組の組長、北条(ホウジョウ)政次(マサツグ)様との交渉の場を私、足利(アシカガ)義国(ギクニ)が用意致します。あの方と交渉すればアトランティスへの密入国が可能となりますから」


 「最後に三つ、我が社オルカーズの資金と運送能力を持ってして、トキヒメ様ご一行を海底神殿ティマイオスまでお送り致しましょう」


 トキヒメは僕の前に出る。そしてギクニを睨んだ。


 「……条件は何ですか」


 不味いな、完全にギクニさんに飲まれている。だって最初にギクニさんが条件を提示したせいでトキヒメはどこまで妥協すればギクニさんの条件が飲めるかなって考えている。もうこの時点でギクニさん有利だ。


 「トキヒメ様がアトランティスに帰還なさっている、と言う事はやんごとなき時であると、私は認識しております。故に再び平時となったならば、復興のお力添えをさせていただきたいのです」


 復興のお力添え……公共事業の仕事を寄越せって事か。それで官僚の天下りをさせたなら、オルカーズは政界との癒着を得られるって寸法、なのかもしれない。


 「それは貴方の親たる人に報告なさっている事なのですか?」


 「マサツグ様は手足の幻肢痛に悶え苦しんでおりますから、それ所ではないのです」


 トキヒメの隣に立ち、その交渉に割って入る。彼女には悪いが、この交渉の主導権の大きさは多分、トキヒメよりも僕の方が大きいだろう。だってこの交渉の下地の半分ははメンフィスの武力たる僕の力だからね。


 「貴方もその幻肢痛になるのではないか、という話をしている」


 「その時はマサツグ様諸共、リンコ組が出血死するだけですよ。ですからこっそり、後ほど貴方方メンフィスともお話ししたいなと、私は考えているのですが」


 「貴方が死の商人であって、死そのものではないとするのならば、私とて貴方とじっくりお話をしたいと考えている」


 もしギクニさんがメンフィスと組むのならば、組織的な影響力を持ったままでは困る。だから武器の技術とかそういうのだけ渡してくれる存在になるのなら組んでもいい、かもしれない。


 「やはり聡いお方ですね、それでこそ上に立つ人です。それでトキヒメ様、どうです?私の提案は」


 トキヒメは苦虫を噛み砕いた顔をしている。この場合、徹底的に公共事業の提供を拒絶して代替案を提示するのが定石であると僕は考えているけれど……

 その時、アイシスは彼女の後ろに立ち、彼女の背中を押した。ただ二人は見つめ合っている。あぁ、そうか。あれをやってるのか。トキヒメが僕の動きとかそういうのから僕の思考を読めたように、アイシスも自分の思考をトキヒメに送ってるんだ。確証ないだろうに、よくやるよ。


 「公共事業に関して、私はこれを到底受け入れられません。よって私から一つ提案させていただきます。マサツグ様を貴方の幻肢痛にしてしまう、というのはどうでしょうか」


 やはり魚人との会話は凄い。だって僕もトキヒメも少し話しただけでギクニさんのことがわかってんだ。彼が情に熱い人ではないことを。


 「トキヒメ様、やはり貴方は幼い。私に対するその提案というのはリスクを賭してリスクを買う選択を強要するものですぞ。確かにその後の富は莫大かもしれませんがね」


 「では交渉は決裂と?」


 「いえ、そういう訳ではありませんよ。実際、マサツグ様を幻肢痛にしてしまうと言うのは私も面白いと思いますから。ですからこうしませんか?まずは貴方方を海底神殿ティマイオスまでお送りしましょう。そして代金は後ほど、事態の収束後に決めるというのは」


 トキヒメは一度下を見た後、ギクニを睨む。そして答えを出した。


 「いいでしょう、そう致しましょう」


 僕は無い左目を触った。

 公共事業の件をここで即決してしまう、それが最悪とするのならば、この代金を後回しというのは三番目くらいに最悪な選択だ。しかしあの状況から打てる最善の手ではある。

 どうするか、僕が何か言うか。いや、それはダメだ。これはアトランティスの話であり、メンフィスの利益を生む話じゃない。ファラオとして何か言えることなんてないんだ。


 「ギクニ、然る後のその話だがどうかメンフィスもその席に就かせていただけないだろうか。互いに良き利益を生める可能性がある」


 ギクニさんは少し顎に手を当てて考えた後、僕の提案に対して答えを出した。


 「いいでしょう、互いに得のする結果を生めるとならば」


 メンフィスを害さず、トキヒメの為となればこれしかないな。

 ……何やってんだ、僕。

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