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ヤクザオルカ




 宿に帰った後、今度は四人で博物館に向かう。中央の噴水、大理石の柱と三角屋根、そしてその上のドーム。まるで大英帝国博物館みたいだ。


 「ん、えっとアルファベットっぽいけど……」


 スビアは庭に展示されていた漆黒の門を眺める。その漆黒の門は幾重の人間が張り付いたような門であり、さながら地獄の門である。


 「読めない。アルファベットだけど……文法が違う?いや、文法は似てる?」


 スビアが読めないのは当然。だってこれ僕も読めない。でもなんて書いてあるかは予想付く。"この門を潜る者、一切の希望を捨てよ"だ。

 こう、マスドライバーの時のNASAの残骸だったり地獄の門だったり、そもそもアルファベットや日本語、そしてこの門にあるフランス語が存在しているという事を鑑みるに、この異世界は異世界じゃないのかもしれないな。でも魔法があるからこう、わからない。しかしどちらにせよ考えても意味のない事だ。


 「スビア、早く行くよ。待たせちゃ悪いでしょ」


 アイシスがスビアを引っ張り、博物館の中に入っていく。僕とトキヒメもそれについて行った。

 博物館の展示品、牛乳を注ぐリュウグウノツカイ、ムンクイトマキエイの叫び、魚人の国だから当たり前だが魚や魚人の絵だらけであった。


 「こ、これは……」


 博物館の一番大きな部屋、地面はガラス張りであり上からの照明が下の巨大な展示物を照らす。


 「これですか?最初のヒトガタ、人魚のイヴですよ。アトランティスにて発見された」


 軽々と答える彼女。僕の瞳に映るそれはロゼッタストーンに見せられた巨人と同じような見た目をしている。白い肌に白い顔、そして下半身が魚である。そしてあの時は氷であり、今はガラス越しに見ている。だから見えるんだ、イヴの顔とか体の表明が。鼻はない、口は大きく中身は鯨のように髭が生えている。そして瞳は真っ黒だ。


 「◻️◻️◻️」


 仕立てのいいスーツを着て黒い帽子を被った恰幅の良いシャチ。タバコを吸っている。まるでヤクザだ。


 「◻️◻️◻️」


 シャチとトキヒメの喋っている言葉、当たり前だけれど、いつも話してる言葉じゃない。でも聞き馴染みがある。分かった、これ……日本語だ。


 「お初にお目にかかります。トキヒメ様、そしてファラオ小ホルス様」


 クリティアスではまだこっちの語族の言葉だったからなんとなく違和感なかったけど、そういやアトランティスでは日本語が話されてるんだったよな。


 「株式会社オルカーズの社長を務めさせていただいています。輪鯱(リンコ)組の義国(ギクニ)と申します」


 ギクニさんは後ろに連れた部下に灰皿を出させてタバコの火を消した。そして悪い目つきで僕やトキヒメ、アイシスとスビアを一瞥した。


 「貴方を当局に売り渡すのと、それとも貴方と協力してひっくり返すの、どちらがリスクになりましょうか。少し吟味させていただいても?」


 後ろの部下二人がギクニの前に出る。極道のやり方にしては少し下品じゃないか、そう思いながら僕も彼女達の前に出た。


 「構わないよ」


 右の一人が襲いかかる。左のもう一人は後ろに回った?


 「テンチュウ!!」


 サバイバルナイフが襲いかかる。しかしそれは僕の腹に刺さる前、服に届く前に止まった。

 バリアである。僕の魔力はあの時と比べて格段に上がっている。セトやアウシル程ではないにせよ、有象無象とは比べ物にならないくらいには。


 「それは通らないでしょ」


 刀を右手で握って折る。目の前の男の驚愕の表情を右目で見つめ、後ろからの気配に神経を注ぐ。足音の大きさ、魔力の揺らぎ、多分、右後ろ46度だ。


 「な!?」


 左足を大きく上げ、そこに白い弓を呼ぶ。右手で矢を引っ張って構える。白い矢が、後ろの男の心臓を見ている。


 「これで皮算用出来ただろうか。貴方方に選択権はない。メンフィスのファラオと関わってしまった以上、貴方方は私と行くか、あるいは私に殺されるかだ」


 ギクニさんは拳銃を向けた。でも僕はその武器を知ってる。だから確信できる、その銃では僕のバリアは抜けない。


 「若きファラオ、君は二つ間違えている。まず私は組の頭じゃない。そして次に、このチャカ向けてんのはあんたじゃなくてメンフィスって事だ」


 「いいか、あんたの選択は二つ。ここでうちの組の手伝いをするか、あるいはアトランティスと一緒にメンフィスをぶっ壊すかって話だ」


 やっぱこういう人に脅しは効かない。だって向こうだってプロなんだから。


 「はい!ストップストップ!シュン君もギクニさんもみんな一旦落ち着いて。文化財が破壊するなんて愚かな事、私はさせたくないわ」


 スビアの言葉と手を叩く音。彼女は一瞬にして場を支配した。


 「スビアの言うとおりだ、そう思うはないか、ギクニ殿」


 ギクニは銃を下ろす。それと同時に僕の前に居た男も後ろにいた男も引いていく。僕も弓を消して足を下ろし、彼女らの下に戻った。


 「そうですね。では、話し合いとしましょうか」

 

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