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水没都市クリティアス



 アトランティスの捜索、それはこのような方法で行われる。まず王女トキヒメの加護でおよその方角を特定し、そして青龍の予言でバックアップをする。これでアトランティスのある方角がなんとか分かる。しかし海底の詳細な地図などないし、海底の海流なんてわかっちゃいない。だからこの、古の哲人が書いたアトランティスに関する書物、二万マイルの旅路を参考として道を決めていく。

 それでこの書物によると、アトランティスに向かうには二つの都市を通るらしく、今はアトランティスの衛星都市、水没都市クリティアスという場所に向かっている。


 「海の中って自然と怖くなりませんか?」


 食堂の窓から海の中を眺めている最中、トキヒメは僕に話を振った。


 「そうかな?僕は安心するよ。海は広いからね」


 海は広い。だから僕の存在も僕の行為もこの海に比べれば小さく感じれる。つまり僕は海という大いなる自然の存在を使って己の存在と業を矮小化して安心している訳なんだな。


 「でも寂し過ぎませんか、それじゃ」


 「いや、それで良いと考えている。少なくとも、大きな歯車の一部の小さな歯車が、自分を大きな歯車だと思ってしまうよりかは。最初から無為であると知っていれば、な」


 僕もラムセスさんも海軍大臣も、少なくともあの玉座にいた人達は。だって人間の寿命に比べて国家とか家みたいな組織の寿命は長い。それでいて一人の人間がその歴史を変える事だって出来るんだから、急ぎ過ぎたくなるのも分かる。


 「苦労なさってるんですね」


 あれ、というかなんか、話しやすいな。トキヒメとは出会って一週間くらいしか経ってないというのに、めちゃくちゃ話しやすい。ラムセスさんとか大臣のみんなよりも格段に話しやすい。なんだろう、僕の話を瞬時に理解してくれている。それも僕の話している範囲の外にある、言語化の途中で切り捨てたものまで。しかも驚くべきは、僕も彼女の話を瞬時に理解できているし彼女の話す全てと言語化していない全てがわかる。


 「ただ、僕はカバンのブランドマークだ。僕がいなくてもカバンはカバンだけど、少なくともブランドのカバンではない」


 「でも山椒魚は海では泳げませんよ」


 「僕は鯨だ。両方できる」


 会話の終わり、アイシスが僕の腕の無い袖を引っ張った。


 「え、どういう事?どういう話してたの?会話の脈絡消えてなかった?」


 「あぁこれですか?これはですね」


 タコの触手の髪を動かしながら、トキヒメは語った。


 「ほら魚人って海の中でも会話できるように感覚が鋭いんですよ」


 あぁ、だから彼女の事を理解しながら会話できたのか。思い返してみれば、会話の途中彼女の触手はずっと揺れていた。


 「あれ、だとしてもファラオ様がこの会話できるのはおかしいですね」


 「昔から感覚は鋭かったあらね。そのせいかもしれない」


 アドリブする時とか、あと特に仕事取ってくる時とかに重宝したよね。


 「鋭かったって貴方……」


 あ、この耳とこの顔、呆れてる顔だ。僕はそんなに呆れられる事を言っただろうか?


 船はその後もしばらく海の中を進み続け、しばらくして水没都市クリティアスを捉える。水没都市、されどその都市はその名ばかりに生きているように見えた。

 膜のようなものが都市を覆って、神殿のような建物が光ってるんだ。つまり、空気があるって事だろう。水の中で光があんなに輝けるはずがない。

 という訳で今、僕とアイシスとスビア、そしてトキヒメは小型の潜水艇に乗ってあの都市に向かっている。


 「魚人の中では普通なのか?こうやって、潜水艇使うのって」


 魔石に自分の魔力を供給して潜水艇を動かす。この機械、全部魔力で動かすらしく、常人よりも格段に魔力を持っている僕でも結構疲れる。本来なら、黒いエネルギーってやつで動かす物らしい。


 「引越しとか荷物が海水で濡れたら困るなーって時は使いますよ。と言ってもアトランティスとか衛星都市だけですけどね。それ以外はその、言葉を選ばず言えば原始人みたいな生活をしていますから」


 潜水艇が一般に普及されている、その事実は嫌になる。だってアトランティスや衛星都市の技術力が我が国メンフィスと格別しているって証拠じゃないか。そうか、そう思うと前線からの報告、黒い魔法の杖の話。あれは鉄砲の事なんじゃないか。

 でも鉄砲を持ってるって前提で考えると、アトランティスがメンフィスをいつでも対処出来るけど今はそれ所じゃないから放置しようって見ているって事の裏付けになるな。僕らが思ってるよりもずっとアトランティスは深刻な問題を抱えているんじゃないか。


 「あ、これ着けてください」


 頭に被せられるそれ、白色の触手みたいなカツラ。隣のスビアとアイシスも被った。よく数えてみたら、みんな足10本なのに僕だけ8本だ。うわしかも勝手に動いてる、なんか、気持ち悪いな。


 「差し上げます、源家お手製の飾り触手です。脳波?とか色々な奴で魚人と同じく感情に合わせて動きます」


 「そりゃ、凄いな」


 しばらく進み、クリティアスを正面に捉える。外から見るクリティアス、煉瓦やガラスが多く使われており、中心には巨大な神殿がある。まるで中世の建物みたいだ。


 「あ、憲兵です」


 全身に黒い服、そして黒い帽子をしたヒレの生えた魚人。生えている上下に振る尻尾と顔を見るに、ちょっとシャチっぽい?

 潜水艇の窓から僕らを見つめるシャチの憲兵。ちょっと顔が怖い。

 トキヒメは触手と手を動かし、何かしている。あぁ、なるほど。さっきの会話を声なしでやってんだ。こう言う時に使えるんだな。


 「うん、通してくれるみたいですね」


 「ん、トキヒメちゃんって王女だよね。顔割れてないの?」


 アイシスの飾り触手の動き。これは確かにって言ってる。


 「今憲兵やってるシャチって元々ヤクザやっていた方ですからね。組を解体されて、源家には怒り心頭なんです」


 「ヤクザ?ギャングみたいな物?でもよくそんな人達を憲兵に据えれたね」


 「一枚岩ではないんです、アトランティスも。所詮、私たち魚人は分かりあった上で殺し合いをしている生き物ですから」


 潜水艇は地下に入り、一台だけが入れる車庫のような場所へ向かう。そして海水が抜け、僕らは外に出れるようになった。潜水艇から出て、空気を吸う。なんと言うか、丁度よく肌寒い気温だ。海底にある都市、密閉された空気の空間であると言うのにも関わらず。つまり空調設備がめちゃくちゃ高度なんだ。


 「行きましょうか」


 「ん、待て。一枚岩じゃないとは言え顔は割れてるんだろ?フードとか被らなくていいのか?


 彼女は懐から香水を取り出し、それを振り掛けた。そしてその後、アイシスの隣に立って両手で顔を覆う。


 「そうですね。じゃあ匂いと肌の色を変えます」


 彼女の肌、純白の白からアイシスと同じ褐色の肌になった。


 「うわいいな、それいいなー」


 スビアは飾り触手をブンブン動かしながらそう言ってる。


 「メタクロシス系少女の特権です」


 あ、この人案外、そう言うちょっと抜けた言い回しをする人なんだな。そう思うとやっぱトキヒメは女の子なんだな。王女じゃない女の子。だからこそ色々と利用できる訳だけど。

 あぁ、嫌になるな。

 しばらく歩き、地上に着く。中から見るクリティアス。道ゆく魚人達に売買される果物。そして西洋建築。なんだろう、地上に居るみたいだ。だって空が青く見えるんだ、青空みたいに。


 「膜自体が発光してるから海の青が青空に見えるのか」


 波の下にも都はあるとは、まさしくこう言う事である。


 

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