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口喧嘩



 「いやはや、驚きましたよ。アトランティスの王女の件で報告に参ろうとしたら、あれですからね」


 「まったく同意見さ。私も驚いて腰を抜かしてしまった」


 「いやしかし、さすがはスビア様。犬科ですから鼻が効くんでしょうね。あのような能のある女こそ、男は欲しくなる物だと思いませんか?」


 またいつも見たいに結婚しろって圧かけてきた。こんな会話ももう慣れっこだ


 「あの人は良い女性だ。アイシスと同じくらい、私にはもったいない良い女性だ。それで主題はそこにないんだろう?」


 ラムセスさんは一度咳をした後、キリッとした眼差しに変わる。政治屋の目だ。


 「無論です。トキヒメ様を使いアトランティスを捜索する、これに依存は御座いません。そして何よりトキヒメ様は無垢なお方です。アトランティスを特定するだけでなく、如何様にも使える」


 「その点は私も同意する。それで肝心なのはその先、アトランティスを捜索するとなればあれを使うんだろう。それであれを使って誰が行くのかだ」


 個人の武力が頭打ちにならないこの世界、個人の持つ戦闘能力がそのまま政治力に直結する。故に、戦争で何万人殺しただとか敵と本部に乗り込んで大将首取ってきたとか無理やり和平を結ばしたとかいう事実そのものが途轍もない力を持つ。

 だってそうだろう、そういう事実があるって事はその人には裏切らない何千人に匹敵する軍力があるって証明なんだから。


 「アペプ氏は動かんでしょうね。かと言って野良の冒険者にやらせるような計画ではない。だから軍の奴にやらせる、それも癪ですからね……」


 と、なれば誰がやるかなんて決まっている。突出した戦闘能力持ち、政府の中枢に近く、軍ではない者。


 「私がやろう」


 「駄目です。これ以上ファラオが力を示しすぎるのは良くない」


 では誰がやるって話だ。軍もなしで冒険者も頼れない、そんな状況で誰が?

 該当するのが一人しか居ない。


 「じゃあ誰がやる?愚かな私に教えてくれ」


 「私、ラムセスとしては是非ともアイシス様に行ってもらいたいと考えております」


 アイシスが発言しようとする。僕はこれを目配せで止める。アイシスに発言して欲しくなかったんだ。この場での発言は政治的な力を持つ、だからここでアイシスが何かを言って私は政治に参加する意思がありますよと表明されるのは嫌だ。だってアイシスに政治をやって欲しくないから、僕みたいな怖い人になって欲しくないから。


 「家宰殿、面白い事を言う。貴殿はファラオの、私の女を私から引き剥がして戦地に行けと言ったのだ。これを道化と言わずしてなんというか」


 「存外、陛下もユーモアセンスのあるお方ですね。道化ですか、道化は貴方の事ですよ、陛下。そしてファラオは道化でいてくれないと困るのです。メンフィスが」


 嫌になる、この感覚。身体と身体で殴り合いした方がマシだ。


 「いやはや、本当に貴殿は面白い事をおっしゃる。道化で居てくれねば困る、それはメンフィスではなく貴方だろう」


 アイシスの腰に手をやる。すると彼女はラムセスに一例をした。僕がこの場から逃げたがっている事を察したのだろう。


 「家宰殿、これだけは言っておく。私は臆病者だが、私の女を一人で戦地に送るような男ではない。今代のファラオも同じく殴り屋なのだ。いざとなれば、アトランティスをスクラップにする事も厭わないし、私にはその力がある、それをゆめゆめ忘れるでないぞ」


 「えぇ、しかと心に刻んでおきましょう」


 「それともう一つ、もし私が不在とならば、二重王冠の恩寵を議会に授けようと考えている。貴殿であれば、議長として軍も上手く扱えよう」


 僕自身がアトランティス捜索に出る事、僕が不在の時は家宰殿にファラオの代理をさせる事を宣言してその場を去った。


 「なんとか、って感じだったな」


 執務室に帰る廊下、僕は汗ばんだ自分の髪を掻き上げた。


 「カッコよかったよ、さっきの」


 俳優業の賜物だろう、こういう大仰な台詞回しと威圧するみたいな態度の仕方、そして何より緊張とか恐怖を押し潰す事には慣れてた。本当に転生前の僕の運命に感謝だ。まぁそれでも心臓はバクバクで背中汗も凄いけどね。


 「私の女なんて、そういう事言うとは思わなかったから」


 「なんとかだよ。まぁでも、これのおかげでしばらくは慣れない仕事から離れて勉強の時間を作れる。それと……」


 懐から取り出す、金属のタグ。三人で、いや三人の一匹で冒険者やってた時に作った銅タグである。


 「アトランティス探しはこっちの側面が強いからな。魔物博士アイシスが見れるかもしれない」


 アイシスは小さく笑った。


 「うん、ありがとう。シュン」


 再び僕らの冒険が始まろうとしている。今度はアウシルの遺体ではなく、アトランティスを探す為に。ただ一つ怖いのが、この選択がある種の逃げなのかもしれないという所である。上メンフィスへの優先的な食糧配給、下メンフィスの下層の民を大量殺人する選択してしまった、ファラオという力から。


 「陛下!陛下!申し訳ございません!至急御前会議を招集して下さい!」


 ラムセスは年甲斐もなく、汗を大量にかいて後ろから走ってきた。


 「由々しき事態で御座います。シュメル国より報告がありまして、大西洋から発せられた煙を纏った物体が、ソドムシティを焼き尽くしたと」


 どういう事だ?確かアトランティスが大西洋のどこかにあるって話だよな……それで大西洋から発せられた煙を纏った物体がソドムって街を焼き尽くしたと……は?


 「アトランティスは我々の持つイカロスランチャーに匹敵する破壊兵器を所持している可能性があります」

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