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アトランティスの王女





 「実はアトランティスでは大きな戦いがありまして。それで私は源家に残る最後の王位継承者として命からがら逃れてきたのです」


 「なるほど。それで、今はどんな人たちが支配を?」


 「えぇ、今はホエル王率いる平家が鯨類にあらずんば魚人にあらずと、巨大な権力を根拠に驕ってやりたい放題です」


 何だその、何。まぁいいや。にしても巨大な権力を根拠に驕ってやりたい放題か。確かに良くないけれど、それって今の僕もやってる事だし。むしろ不遜にも太陽神ラーの名を騙ってやってる分、僕の方が良くないでしょ。


 「それで、貴方はどうしたいんだ?」


 「貴方達の、メンフィスのお力を借りて王女としてアトランティスに戻り、平家の悪政を止めたいのです」


 「なるほど。ならば貴殿はそうされよ。しかし貴殿にわかるのか?肝心のアトランティスの所在が」


 「無論です!私は王女、加護によって方角は分かります」


 ……なるほど。ならばこちらもそれに乗るのが手っ取り早いな。王女との約束果たさなくても、こっちからしてみれば位置が特定できればそれで話は終いだ。セトの遺産、イカロスランチャーで脅せばいい。


 「そうか、ならばそうだな。私個人の意思として、圧政者は許せない。故に私は貴方に手を貸そう」


 彼女の顔、パッと笑顔になる。本当に天真爛漫な人だ。王女というより、陽気な町娘って感じがする。


 「良かったです!ファラオ様がお話のわかる人で」


 アイシスが僕の袖を引っ張る。そして無言でドアの外を指差した。次に彼女はスビアに目配せをして、スビアは頷く。僕は彼女に連れられ、廊下に出た。

 彼女の耳は絞られて、見るからに怒りの感情を露わにしていた。


 「さっきの、ちょっとじゃない?シュン」


 「何が?」


 「わかってるくせに。貴方、やらしいよ。やり口」


 彼女は正しい。誠実さという物を重視するのであれば、僕があの王女にやったやり方は正しくない。人として。つまり彼女は僕に、契約とするのなら全てを洗いざらいはっきり話すべきだ、と言いたいんだろう。


 「それがどうしたんだ?」


 しかし誠実に全てを話したら彼女は己の直感を疑って、事態が鈍化してしまうかもしれない。こちらはいち早くアトランティスを特定してイカロスランチャーで脅しをしたいのに。だから誠実に話すという事はこの場において非合理的なんだ。


 「……最低。何でそうなっちゃったの」


 何を言ってる。僕が誰のために、誰のせいでこんな事をやらなくちゃならないと思ってる。


 「は?アイシス、お前……」


 僕の声、それを聞いてアイシスは耳を瞬時に下げて両手を胸の前にした。

 また、僕の声が怖がらせてしまったのか。


 「あ、ごめん。本当ごめんアイシス、ごめん」


 眼帯越しに空洞を撫でる。だめだな、僕は。一瞬誰のせいでなんて思ってしまった。こんなの、アイシスのせいでも誰のせいでもないのに。


 「私こそごめん。ちょっと言い過ぎた。貴方は頑張ってくれてるのに」


 普段の声量で普段の態度できちんと伝えていたら彼女もこんな顔してこんなセリフじゃなくて、きちんと言い返して僕を諌めてくれただろう。でも僕は怖い声と顔で威圧して彼女の口を無理やり塞いだんだ。


 「いや、いいんだ。僕が悪い、僕が」


 彼女の耳は下がったままだ。


 「うん、いいんだ。ただ、忘れないでね。怖い人になってもいいけど、ただ……世捨て人にはならないでね」


 「ならないよ、僕は臆病者だから」


 僕には世捨て人になる勇気がない、特にセト見たいな。だって自死する覚悟も社会に対して滅亡せよなんて言える覚悟もない。だからきっと、僕は世捨て人にはならなれない、と思う。ただ、悪人ではあるし、とっくとっくに僕は怖い人になってたという事実には背筋が凍る。


 「そう、うん。貴方が辛いのは、スビアも私も辛いから」


 「わかってるよ、そんな事くらい」


 一度頭を冷やす為に中庭に向かう。アイシスにもスビアにも一人で頭を冷やしたいと言ったけれど、アイシスが付いてきてしまった。意外、だったかもしれない。こういう時、いつもスビアが付いてくるから。


 「この中庭、好きなんだ。良く手入れされていてさ」


 最近のアイシスはずっと僕の左側に居る。多分負い目を感じているんだろう、僕の左目と腕について。別にそんなの、どうでもいいのに。


 「私も好きだよ、暖かい匂いがするから」


 「陛下、少しお時間頂いても?」


 珍しい、ラムセスさんが中庭居るなんて。


 「構わないよ、家宰殿」


 アイシスは耳を絞る。警戒してるんだな、この人の事。

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