御前会議
僕はいつものように二重冠を被り、玉座に鎮座してる。そして大臣たちは僕の前に席を作っている。御前会議という奴だ。
「偉大なる我らがファラオの恩寵の下、この議会は招集されました」
ラムセスさんは口上を読み上げる。
さて、何故このような会議が開かれるのか、なんでこの人達よりも政治慣れしてない僕がこの場にいるのか。それは簡単だ。皆、農民とか労働者、民衆はラムセスさんとかその辺の神官の命令は聞かないのである。だってラムセスさんが誰かなんで知らないからね。誰かも知らない人の命令なんて聞けたもんじゃないだろう。だから僕が必要なんだ。だって皆、僕本人は知らず共、ファラオという名の神の代弁者は知ってる。だからここにいる人たちの声を神の代弁者が決定した事ですよって裏付けして権威で言う事聞かせるんだ。
「さて本日の議題は食糧調整についてで御座います」
食糧調整、嫌な話だ。誰かに食を渡せば誰かの食がなくなる。当然の事実である。
では何故、食糧がなくなったのか。これは単純だ。今年のアンニール川が氾濫しなかったせいである。氾濫しないとなれば良いことじゃん、僕も昔はそう思ってた。
しかし、話はそう簡単じゃない。
アンニール川は定期的に氾濫する川であり、この氾濫によって塩分の溜まった土壌を洗い流し、上流の肥沃な黒土をもたらしてきた。
つまり、アンニール川の氾濫無しでは、不毛の塩の大地に種を撒くに同じ。こんなんで作物が育つ訳ないだろう。
「まったく、嫌な話題ですね。しかし陸軍としてはやはり、こちらに食糧を主に回していただかないと。特に、辺境の、上メンフィスの兵に反乱を起こされたら堪らないでしょう」
「海軍としては陸軍の提案に断固反対である!アトランティスとの国境問題が現実としてある以上、こちらに、下メンフィス中心に食糧を回して貰わねば困る」
メンフィスを中心として、メンフィスから地中海方面を上メンフィスと呼称し、メンフィスからアンニール上流の方を指して上メンフィスと呼ぶ。それでどちらに中心に食糧を回すべきかという話についてだけれど、僕個人としては上メンフィスに回すべきだと思う。何せ陸軍は強い。魔法という、なまじ生物の肉体の限界を越えた力が存在しているから、軍の反乱という言葉は魔法のない世界よりも恐ろしい物なのである。
「……家宰ラムセス、貴殿はどう思われる?私としては陸軍の意見を参考としたいが」
「えぇ、私を含め、文官各位と致しましては陸軍に賛成で御座います」
陸軍大臣はキセルを吹かせて憤る海軍を逆撫でする。
「当然でしょう。海さんはイルカが陸を歩いて攻めてくるとお考えらしいが、私に言わせてみればまったく荒唐無稽な話ですよ」
セトは予算確保の為に陸軍と海軍を優遇した。普通、シビリアンコントロールを乱しかねない、ファラオとして愚かも愚かな選択だろうが、セトからしてみれば終わる世界なぞ知ったことない事だったんだろう。しかし今はそのせいで僕が苦しんでる。やっぱ僕はあいつを恨むよ。
「……チッ、悪玉め」
「安心してくれ。無論、私とてアトランティスとの国境争いを軽んじている訳ではない。だから武器についてはそちらに回そうと思う。何より、だ。アトランティスの特定についてはこちらでもそちらでも急務としているはず。時間の問題に過ぎない、国境争いなぞ。直ぐにこちらの脅せる状況となる」
「不躾ながら、陛下はアトランティスを侮り過ぎであります。奴らは魚人でありますが、各段に我々よりも技術力は高いのです」
「だからマンジェットを使えるようにしている、違うか?」
海軍の秘密裏にやっている事、それがマンジェットの改修である。僕らが冒険者時代にコカトリスと戦った場所の船のね。
「……えぇ、そうです。陛下は良く理解してらっしゃる」
海軍大臣が僕を恐ろしい目で見る。当然だろう、僕に睨まれたんだから。だって僕は軍の最高指揮権を持つファラオであり、同時にセトを倒した人、端的に言えばこの場で一番権力を持っている上にこの場の全員を直ぐに殺せる人だ。僕がその選択を取ろうと、取らまいと、彼らにはそう映ってんだろう。
この点に関しては魔法に感謝だね。権力でどうにかならない問題を個人の武力で解決出来るようになってるから。よくない事だと、思うけれど。
「ならば、この話は終わりだ。備蓄を放出しつつ食糧は上メンフィスを優先し、武器に関しては海軍を優先とする。反対の者はいないか?」
誰も意見しなかった。つまりこれで会議は終わり。この後は執務室で仕事である。
大臣達に一礼をし、執務室に向かう。長い廊下だ。壺とか絵とか色々飾ってある。
「うっ……」
口から抜けそうになる熱い物。それを飲み込む。口の中が熱い、変な味がする。くそ、わかってる事だろ。上に回せば下の食糧は足りなくなる。上メンフィスの軍を生かして手懐ける代わりに下メンフィスの下層の連中が大量死する。それでも軍の反乱よりマシだろうが。
「大丈夫、大丈夫」
自分に言い聞かせて、足早に執務室まで歩く。とにかく今は座りたい、早く。
「アイシス、開けてくれ、早く」
扉が開く、それと同時にアイシスが僕の身体を受け止める。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れた。寝不足だと思うからソファに連れてってくれ」
彼女の細い身体を杖にしてソファに辿り着く。そして直ぐにその柔らかいクッションに沈んだ。
「はい、水よ」
スビアから渡されるコップ。冷たい水で中から溢れ出てきそうな熱い物を押し込める。気持ち悪さが、段々消える。
「ん、待て。その椅子に座ってるのは誰だ?」
僕のいつも座ってる椅子。何か座ってる。女?髪が赤い?いや、髪?なんだあれ、触手??なんだあれは。
「お気付きになられましたか?ファラオ様」
目の前にいる女。僕より年下に見えるけど、髪がタコの触手をしている。なんだこの女?タコ娘?天真爛漫なとことか、スビアと相性良さそうだけれど。
「私こそがアトランティスの王女、源時姫で御座います。以後、お見知り置きを」
アトランティスの王女?何だそれ。
「を、自称してる人よ。でもアキラさんが予言の結果間違いないって言うし、捕虜の魚人の人たちもそう言ってるから連れてきちゃったって」
連れてきちゃったって、スビア……
「で、それで何でここに彼の国の王女が?」
アトランティス編は平家物語を土台にこの世界の芯に迫っていく話ですね。成り立ちの手前まではやります。
なんでアトランティスが平家物語なのか、それは波の下にも都があるからです。




