セトさん?
「なぜこの魔法が禁忌なのか、か。それはこの魔法で作られた水滴を吸った土は魔力の濃度が極めて高い状態になるからだ。魔力の多い土で育てられた草は魔力の多い草となり、それを食す昆虫が、それを食す鳥が、それを食す魔物がという感じで生物濃縮が起こる」
魔力の多い魔物は純粋に生物として強いから存在するだけで危険だ。
「それがわかっていて、なぜ禁忌の魔法を?凄い危ないじゃないですか、強い魔物が出てきたら、めちゃくちゃデカいマンゴーデスワームみたいな」
「でもそのマンゴーデスワームが地に伏して死なば、その土壌は多く魔力を含む土壌となる。そして再び生物濃縮が起こる、つまりだ、兄弟。私は禁忌魔法によって魔力を多く配ることで全ての生物を強くしようとしているのさ」
なんかいきなり真面目な話をし出したな。レタスの話してしたのに。でもそれは勝手な話じゃないか?
「でもその過程でデカいマンゴーデスワームが人を殺してしまうかもしれない」
「いいんじゃないか?土が良くなれば、さらに美味しいレタスが食べれる。それは人よりも大事だ」
いや結局そこかよ。てかレタスの為に人が死んでもいいって言ってるのかこの人、それはちょっと違うでしょ。
「正直、共感できません。だからその、他の水の魔法を教えていただけませんか?」
彼は一度溜息を吐いてから、仕方ないなっと言った。
「兄弟、じゃあこっちにしようか。ビル・ヌン」
彼の手のひらに水の玉が現れる。見てみた感じ、さっきとは違ってなんか‥…酒臭い?
「酒を出す魔法だ。普通の水を出す魔法よりもアルコールのおかげで保存しやすいから結構便利だ。極めれば度数を調整できるから消毒もできる」
そりゃいいな。こういうのが良かったんだ。
「一番上手いと思った酒を思い出せ。そして酒、出ろと念じるのだ。さすれば酒は与えられる」
一番美味しい酒……打ち上げで飲んだあのレモンサワーかな。
「ビル・ヌン!」
手のひらに少し黄色い水の玉が現れる。爽やかなレモンの香りと共に。
「そういうのが好きなのか、兄弟」
彼は水の玉に指を突っ込んでそれを舐めた。
「レモン、かすかな蜂蜜っぽい甘さ、なるほどな。趣味ではないが、中々にいいものだ」
「ありがとうございます……?」
「さて、そろそろ時間だ。クフフ王と海の民のせいで少し忙しくてな、私はお暇させてもらうよ。いい時間だったよ、兄弟」
彼は少し笑った後、自分の影の中に落ちるように消えた。そうかさっきもこうやって現れたのか。影の中に消えて影の中に現れる、なんかちょっとかっこいいじゃん。
「どうだったかな、シュン君。私の弟は」
「良い人、だと思います。少し独特ですけど」
「そう思ってくれたなら兄としても嬉しい限りだ。じゃあ、帰りながら法律の話するかな」
帰宅の途中、法律の話をじっくり聞かされた。どこでどのような魔法を使ってはならないとか罰金があるとか、魔法学校以外では学んではいけない魔法があるとかそんな具合だった。ちなみに、さっきの手乗り太陽の魔法も魔法学校以外で教えてはいけない魔法だったらしい。何で僕に教えたのか、そう聞いたら法律の意図は階級の固定化だから貴族が身内に教えるのは良いんだって。
そう思うと、僕は家内奴隷だけど半ば家族のように思われている、そう考えていいのかもしれない。
「いただきます」
夜、アウシルさんとアイシスと僕、そしてカペラさんの三人と一匹で食卓を囲む。
目の前に広がる料理、サラダやアエーシと呼ばれるナンみたいなデカいパンとスープ、そして甘酒。横のカペラさんは……そりゃフンコロガシなんだからあれ食べるよな。見ないでおこう。
アエーシを千切って赤色のスープにつけて食べる。アエーシの薄っすら感じるバターの味とトマトスープの甘酸っぱさが混じる。何というか、どんな時代でもご飯は美味しいんだな。
「そういやアウシル、三個目のピラミッドはどうなの?」
カペラさんは少し笑いながらアウシルさんに話しかけ……ん、僕は今笑いながらって思ったのか?とうとうフンコロガシの機微がわかるようになったのか、僕。
「順調だよ、多分再来年には完成するんじゃないかな」
「ピラミッドって何で造ってるんです?」
アイシスは食べていたものを一気に飲み込んで喋った。
「珍しいねシュンが知らないの。あれは地下の魔力の組み上げて魔力を地上に噴出させる装置だよ」
「それだけじゃないよアイシス。あれはお墓でもあるからね、歴代ファラオの」
あそっちがサブなんだ。てっきり古墳みたいなただのでかい墓だと思ってた。
「それだけじゃないでしょ、アウシル」
「これ以上は言えないかな、最重要国家機密なのさ」
ピラミッドに第三の役割?何だろう、ビームが出るとかなのかな。
「さて、もうみんな食い終わったね。ご馳走様って感じか」
夕飯を終え、風呂を済まして自分の部屋に戻る。夜中、特にすることがないのですぐにベットに入って目を瞑る。そして今日の事を、この家の1ヶ月間の生活を想うんだ。
この世界に来て一ヶ月、何か満たされているような感じがする。アウシル家の家族という形が心地いいのかもしれない、僕にとって。それは僕が家族の暖かみを知らないからとかじゃなくて、多分この肉体が家族の暖かみを知らないから何だろう。
あぁ、そう、つまりこれは僕の魂がこの肉体に宿っていた魂と混じった証拠なんじゃないか。だとすると、死んだのはこの肉体の魂だけじゃなくて、僕の魂も……辞めよう、考えるのは、怖いから。だから、寝てしまおう、もうおやすみだ。
眠りに付き、思考を放棄する。そして気付いた頃にはあの時の宇宙に居た。
「やぁ、シュン」
目の前には布を被って足を露出した存在、僕に焼き尽くす力を与えてこの世界に転生させた張本人、打ち倒す者さんことメジェドさんだ。




