魔法の訓練ってとこかな
少し離れた草原で魔法の訓練。でもなんだろう、ワクワクしない。いや心の上の部分ではワクワクしてるのかも?でも根の部分は全然ワクワクしてない。多分それは、この肉体がこの世界で育ったものであるからなんだろう。要はこの肉体にとって魔法というのは一般的で身近なものであり、魔法の訓練するよって言われるのは勉強やろうねというニュアンスとして受け止められる物なんだ。
……これでは僕の魂がこの肉体の元の魂を殺してしまったんじゃないか、そう思ってしまうよ。
「変に魔法を使ってしょっ引かれたりするとこちらが困るからね、だから賢者アウシルと勉強しようか」
アウシルさん、実は賢者と呼ばれる程魔法に精通した人らしい。なんでも戦魔法から医療魔法、生活魔法とあらゆる魔法を習得・開発し、そして死を克服する方法すら編み出したんだって。まぁその方法は王家とアウシルさん、そしてアイシスの間で秘匿されてるけと。
「まず法律の話からやるべきなんだろうけど、先にこれやったらどうせ嫌になるからね。だからワクワクする事から話そうか」
「ワクワクする事ですか?」
「まず属性についてだ。この世界が火と水と空気と土で構成されているように、魔法の基本的な属性も火と水と風と土がある。で、君の使える属性についてなんだけど、君は火属性だから全部の属性を使えるよ。火属性は最強だからね」
火属性は最強、ここは分かるかもしれない。だって火が怖くない生き物なんて中々いないし。でも火属性だから全部の属性を使える?ここがわからない。
「火属性と全部の属性を使えることに何の関係があるんです?」
「えっとな、宇宙の始まり火の玉だからって覚えておいてくれ。詳しく説明すると宇宙論の話をしなくちゃならない」
この世界の全部の要素が火の玉からできているから、要素を一つにまとめたら火の玉になるって事なんだろうか。よくわからないけど、とにかく自分が全てを属性を使えるって事だけ覚えとこうか。
「まずはそうだ、空に魔法を撃ってくれ」
アウシルさんの指示通り、僕は上を向いて左目を瞑って手で隠してこう言った。
「シャアァ!!」
右目から光が溢れ出し、一つの線となって空中に発射される。
アウシルさんはその様子を満足げに見ていた。
「にしても凄い魔力量だな。デカい岩も両断できるとなれば同じような石を何個も作れる。この力を解明できればピラミッド建設が捗るな」
この世界、マンゴーデスワームみたいな感じでドラゴンとかそう言う化け物がいるから、この魔力量だったら魔物が襲ってきても大丈夫とかそう言われると思った。まさかピラミッドの話になるなんて。
「さて、次にその感覚のまま、手のひらに火の玉を出すぞって意思を強くしてミニチュア・ソルと唱えてくれ」
火の玉?火の玉、ソル、Sol……
「ミニチュア・ソル!」
手のひらの上にに火の玉が、太陽が現れる。メラメラと燃えて眩しい。
「やはり出来るか、結構難しいんだけどなそれ。だとするとやはり……あ、それ落としたら死ぬから気を付けて」
落としたら死ぬ?何でそんなものを作らせたんだ?
「え、じゃあこれどうするんです?」
「空にぶん投げるといいよ」
そう言われたので、とにかく遠くに飛ぶように手乗りの太陽をぶん投げた。太陽は青い光と紫色のガスを撒き散らしながら眩い爆発をした。目を開けるのも苦しい時間、しかしその光景はどこか美しかった。まるで夜空のようだったのである。
「天体モデル魔法、ミニチュア・ソル。天文学者が作った魔法だったんだけど戦争でも有効だったから戦魔法としても登録されている魔法さ」
「なるほど?でもどうしていきなりそんな難しそうな魔法やらせたんです?」
「君にならできると思った。あと君に力を授けた者について考察したかったらね」
打ち倒す者さんの事か。正直あの人の事を言っていののか言ってはいけないのかわからない。だって打ち倒す者さんがアウシルさんにとって邪神だったなんて事もあり得るんだ。殺されるとかはないとは思うけどギスギスするのは嫌だよ。
「まぁそれは置いておいて、次にやるべきはそうだな、火属性魔法を憶えてしまったから水属性の魔法を憶えないといけない。これは私のポリシーとかじゃなくてこの国の法律だ」
「と言う訳で水属性の専門家に来てもらった」
突然、肩を掴まれる。振り返るとそこには、痩身で背の高い、赤い蛇の目をした、死人のように青白い肌の男がいた。怖い、直感がそう告げている。でも今はその左手に抱えた緑色の物体、それが気になる。
「レタス、好きかい?」
左手に抱えたレタスの玉、彼はそこから一つむしりとり、僕に渡した。僕はそれを受け取り口に含む。ほんのり甘くて質のいいレタスだと思う。
「ほどほどです、でもこれは好きです」
「なら我らは兄弟だ、シュン。レタス好きに悪い奴は居ない、絶対に」
やっぱこの人怖い。目がマジだ。あとレタス食べながら喋らないで欲しい。
「シュン君。こいつは私の弟、セトだ。神官をやっている」
神官、アウシルさんと同じ仕事。政治家って事だ。
「そう、兄弟。私がセト、セト・メメントモリだ」
怖い、でもなんか声を聞いてると低くてゆったりとした感じでなんか安心する。
「では水属性の魔法を教えろと言う話だったな。なら、とっておきの魔法を教えよう。この魔法は私しか使えない、伝説級の魔法だ。ソルを初見で使えた君にならできるはず。いくぞ」
彼はレタスに齧り付き全て食い、祈るように両手を硬く合わせた。
「アンク……ヌン!!」
彼の手のひらの上に10センチ程の水の玉が現れる。そしてそれはゆっくりと地上に落ちる。水の玉は草原の草と土を濡らす。
「何が起こるんです?」
「見ていろ」
草と草の間から黄色の花が現れ、たちまち一面が花畑となった。
「えぐいぐらい栄養価のある水を出す魔法だ。園芸魔法最強でありながら、禁忌とされている」
「なんで禁忌なんです?」
てか禁忌の魔法って教えていいのか?
セトがレタス好きなのは神話からです。




