とりあえず一ヶ月
この世界に来て1ヶ月、僕は貴族の家で家内奴隷をやっている。奴隷と言っても家内奴隷だからあまり酷い扱いはされていない。なんというか、家内奴隷は高級車に似ているんだろう。自分で言うのもあれだけれど、高い買い物で奴隷としてはハイスペックな存在だからあまり傷物にはしたくないのかも。まぁ右目の焼き尽くす力の件もあるから一概にそうとは言えないけれど。
「カペラさんって凄い偉い人だったんだ」
庭の手入れをしながらカペラさんと話す。もうこの喋るフンコロガシにも慣れてきた所だ。
「そりゃね、太陽の守護者だからね」
彼女曰く、太陽とか星を回しているのは透明なフンコロガシで、そしてそのフンコロガシが星を支えていないと星系とか銀河の遠心力に釣り合いが取れなくなって星は外に吹き飛ばされるらしい。それでその大きなフンコロガシの太陽担当の一部がカペラさんってわけだ。
よくわからないけど、太陽の守り神の一部って考えてもいいかもしれない。
「それでその赤い球がアイシスの力の源ってことですか」
「うんそういう事」
にしてもアイシスの力は不思議だけどね。めちゃくちゃな力を与える代わりに酒飲むと猫になるって、なんだよ。
「まぁ私としてはアイシスの力よりも貴方のその右目の方が不思議だけどね。だってゲームに勝った時に目からビームが出るってどういう事よ」
「その節はごめん。多分あれ意思に関係なく言葉を使ったら出るんだ」
しゃあ、これが発動キーでありこの言葉を言うと目からビームが出る。仕方がないと言う意味でしゃあないって言った時も出るから僕の意思とは関係ないんだろう。シャーベット美味しいで出るかはまだわからない。
「難儀な力だね。私だったらそんなのあげないのに」
「私だったらって事は僕に力を授けた人みたいにそういう事できるんです?」
彼女は上の右手を挙げた。
「ハイタッチして」
人差し指で慎重に彼女の小さな腕を触る。
「はい、方角と自分の居る場所が正確にわかる加護。これで絶対に家に帰れるよ」
便利な加護なのかもしれない。だってコンパスもGPSもなさそうだしね、この世界。
「ありがとう、便利に使わせてもらうよ。でもなんで方角が分かる加護なの?フンコロガシとあまり関係なさそうに思えるけど」
他の加護が欲しかった、そんな失礼な事思っていないが、今の言い方ではそう勘違いされても仕方ないかもしれない。気を付けないと。
「ん、めちゃくちゃ関係あるよ。フンコロガシは太陽と月と天の川の位置で方角を知るからね」
「そりゃ凄い。そうだカペラさん」
今思ったが、この人も神様なら、あの打ち倒す者さんが言ってた事を話してもいいかもしれない。ある人のアレを探して欲しいみたいな、そんな話を。
「シューン!シュン!いた!」
アイシスが遠くで手を振ってる。黒い髪が揺れている。
「怒られるの私なんだよ!」
もう授業の時間だっけか。
「今行くよ」
一度自分の部屋に戻り文字の勉強用の本を取りに行く。僕の部屋はなんと言うか、物がない。ベッドと机と本棚とそれだけだ。あと目立つのはこの立て鏡だけど……誰だこれ。
鏡に映ってる自分、本当に誰だって感じだ。肌は白くて髪は金髪、目は翠色、西洋人って感じがする。一般的に見たらかっこいい顔に入るんだろう、でも昔の方がかっこよかったと思う。だからこそ、なんだ、自分が自分でなくなっていく感覚というものを強く感じている。
でも今はそんなことを考えても意味がない。ナーバスになるのはやる事やってからだろう。
「ごめん、ちょっと遅れたかな」
彼女の部屋は自分の部屋と違って色々な物が置いてある。ぬいぐるみとか香水とかそう言う物だ。なんと言うか女性らしい部屋だと思う。ただ一つ気になるのは天井からぶら下がるの球だろう。猫がこう遊んでるあれだ。
「いいよ別に。やってるフリさえできてればお父様は安心してくれるから」
まじまじと見て分かったが、彼女は綺麗な人だ。僕が見たことある一番美しい人の数倍は美して、なんと言うか呆れてくる。
「でも文字は覚えて貰わないと僕が困るんだ。臨時収入が欲しいから」
僕は文字が書ける。多分、打ち倒す者さんのおかげだろう。ちなみにこの世界の文字は絵みたいな文字をしている。Aという音を表すのにハゲワシの絵を描くみたいな感じだ。例えば僕の名前、シュンを表すのなら池→葦の穂×4→ハゲワシ→水とこの順で絵を描かないとならない。
「シュンは何か欲しい物があるの?」
「欲しい……食べたいかな、マンゴーデスワーム」
マンゴーデスワーム、家で出されたから一度食べたけど案外美味しくてびっくりした。あんな気持ちの悪い生物からあんな美味しい物が出来るのかと驚愕したんだ。でも自然な事かもしれない。だってカニだって美味しいけど長い足がいっぱいあるなんで特徴は蜘蛛みたいで気持ち悪いしね。
「まじで言ってる?あれ気持ち悪いって流石に」
「美味しいならいいんじゃないかなと僕は思うけれど……」
マンゴーデスワームが如何に気持ち悪い生物だとしても輪切りにしてしまえば面影は感じないしね。
「ん、見てあれ」
彼女は窓際に立って庭を眺める。彼女の視線の先にはアウシルさんが居た。
「お父様帰ってきたよ」
そういや今日はアウシルさんから僕の力と魔法について教えてもらう予定だった。どうも力を持ったまま何も知らないのは危険とそう判断したらしい。
「んじゃ行ってくるよ」




