ヒロイン参上
「いや喋るでしょ。フンコロガシなんだから」
喋るわけないでしよ。フンコロガシが。
「常識みたいな顔して言ってるけど、いやフンコロガシの表情の機微なんて知らないけど、普通はフンコロガシは喋らないって」
フンコロガシは赤い宝石のようなものに玉乗りする。すると赤い宝石は浮き上がり、フンコロガシを顔の前まで連れてきた。まじまじとみるとなんか、可愛いかもしれない。目の部分とか特に。
「失礼だなぁ、神様なんだけど一応。てかフンコロガシって言うのやめてね、貴方も人間って言われたら嫌でしょ?」
なんと言うか、一旦諦めよう。状況をいちいち整理してらんなくなってきた。
「そうかな、そうかも。でも仕方ないよ、僕は貴方の名前知らないし」
彼女?は後ろ足で立ち上がり、前の二対の腕を組む。
「私の名前は進化する者、あるいはカペラ・スカラベラ・ヘリオスハート。カペラでいいよ。貴方は?」
「僕は有馬隼。シュンでいいよ」
下の腕は組んだまま、上の手は口を隠してる。フンコロガシって意外と表情豊かなんだなぁ。
「はい、じゃあ友達ね」
この世界に来てから初めての友達がフンコロガシ、しかも多分メス?女性と言った方がいいだろうか。
「それで、どうしてカペラさんはここに来たんです?」
「友達が焼き尽くす力を持つ者をアウシルの家に招けって言ってて、それでアウシルと焼き尽くす力を持つ者を探してたんだけど、それが貴方って訳」
私を探しに来た……多分あの目からビーム出る力が焼き尽くす力って奴なんだな。だって打ち倒す者さんから貰った力だから。
「という訳で奴隷である貴方をアウシルに買えって言ってくるね。明日には来ると思うからそれまで辛抱してね」
赤い玉が光り、そして目の前から彼女は消えた。
「騒がしい人?だったなぁ」
明日まですることもないので、とりあえず目からビームの出る力を実験してみる事にした。結果としてわかったのは、威力の調整は出来ず、範囲は最大で3cmくらい、最小では測定できないくらい小さくできるって感じだった。ただデメリットとして目に良くないと思う。いきなり目が発光する訳だから凄いチカチカする。
翌日、僕の檻の目の前に人が二人とフンコロガシが一匹居た。
「君がシュンって子かな?」
この高身長で黒髪のイケメンがアウシルさんって人なんだろう。それでこの僕の同じ14歳くらいの、褐色の肌をした黒のセミロングの女の人は誰だろう、というか人間なのか?猫のような大きな耳が生えている。
「うん、この子がシュン。シュン、これがアウシルさんでこの女の子はアウシルさんのお子さんのアイシスちゃん」
アウシルはしゃがんで僕の開けた小さな穴を覗いた。
「これが焼き尽くす力か。威力の調整ができれば医療にも使えそうだが、これでは戦いにしか使えない。奴め、何を考えている……?」
奴……カペラさんによれば打ち倒す力を持つ者をアウシル家に迎えろって話だったよな。なら奴の対象はカペラさんが友達と言っていた人?
「ごめんごめん、とにかく君は家内奴隷として雇う事にするよ。それでアイシス自己紹介を……アイシス?」
アイシスは地面を見つめたまま沈黙していた。
「お父様、火属性を、太陽の力を打ち込んだんですよね、下に。だから今、少し地面が揺れてるんです」
確かに彼女の言うように地面が少し揺れている気がする。
「ん……来ます、お父様」
その時、僕の立っていた地面が割れた。身体が宙に浮いてる。この下にいるのは、ミミズ?
「バカ!死ぬよ!」
アイシスはあり得ないスピードで檻を蹴破り僕を抱え後ろの壁に激突して壁を破壊して外に出た。
石の家々と一面の砂漠、そして遠くには二つのピラミッド。これが世界の姿なのか。何と言うかエジプトみたいだ。
「マンゴーデスワーム!危ないから下がってて!」
デカいミミズ、妙に唇が人間みたいで気持ちが悪い。なんなんだこの生き物。
「めちゃくちゃにするよ!」
彼女は砂を巻き上げながらミミズに突っ込み、殴る蹴るなどの暴力を加えた。その様相はバケモノ退治というには圧倒的で、どちらかというと駆除に近かった。
「凄い、力だ……」
空中でミミズの顔をぶん殴ってる、というかあのミミズ、全長20mくらいあるし赤い手足があるしで本当に気持ちが悪い。
「あれがアイシスだよ、シュン君。まるで雌ライオンだろ?うちの娘
いつの間にか外に出ていたアウシルさんとカペラさんは僕の隣で彼女の空中戦を観戦していた。
「ん、後ろ!!いるって!」
僅かな揺れに違和感を覚えて後ろを振り返る。するとそこには僕らを食わんとするあのミミズが居た。
「シャアァァァ!!!」
怖くなって叫んだ。右目から眩い光が溢れて細い光の柱となった。飛び込んでくるミミズはウォーターカッターに飛び込む物体のように真っ二つになった。
「おぉ……じゃないね、本来なら私かカペラが対処するべきだった」
赤い血が砂の上に広がる。それらは砂漠の暑さと乾燥そうによってすぐに乾き、赤黒い痕跡になった。
「こっちも終わったよ」
ボコボコにされたミミズの唇を持って雌ライオンことアイシスはこっちに歩いてくる。その華奢な身体のどこからその力を出しているんだ。
「お父様、これ食べませんよね?」
……食べませんよね?食べる場合があるのか!?こんなミミズを!?嘘でしょ!?
「駄目だよアイシスちゃん。美味いマンゴーデスワームは養殖の奴だけで、自然界のこいつは生物濃縮のせいで食ったら腹下す所の騒ぎじゃ済まないから」
なんだその、ヤシガニみたいな扱いは。
「なんだ、じゃあ手加減した意味なかったね」
あれで手加減してたのか……ちょっと怖いよこの子。
「あ、シュン君喉乾いてないか?火属性の魔法使った後って喉乾くって聞くしさ」
渡された水筒を開ける。この匂い、酒?
「お酒ですか?」
「あぁ、君上流の子か。この辺の地域だと川が汚くなってしまっているからお酒の方が安心なのさ」
酒で喉を潤す。でもなんだろう、全然美味しく無い。めちゃくちゃ薄い砂糖水って感じだ。
「まぁ無理して飲めって訳じゃ無いけどね。君にあんな風になられたら困る」
アウシルさんの指を指す先、水筒を飲んだ途端に頬が赤くなっているアイシスが居た。
「にゃんで指さしてるのさ?」
「アイシスは酒を飲むと雌ライオンから猫になる。めんどくさいだよな」
はい?どういうこと?
ラーが酒で酔わせてセクメトに殺戮を辞めさせたってエピソードからアイシスは酒に弱くしてます。猫になるはセクメトとバステトが同一視されてるって所からです




