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僕の望んだ事だ



 「吹き消せ、ニルヴァーナ」


 ニルヴァーナの魔法。心臓を突き刺して一度死亡し、死の支配で蘇る。そしてその3分後、肉体が崩壊するがこれを死の支配の力で蘇る。手に取るようにわかる、魔力の動きが繊細に分かる。いや、魔力の動きだけじゃない、あらゆる感覚が敏感になってる。奴の心情まで分かってしまうんだ。


 「残り十五回、ですよね?」


 「まぁな。しかし、アウシルにも言った通り、そっちが先に燃料切れするよ。だって年季の入り方が違うからね」


 「レーザーダイトウ!」


 太陽の魔力で象られたレーザーの剣。いつもよりも遥かに強く、そして速い。


 「セト!!」


 「さぁ来いよ、誉れある骸にしてくれる!」


 不可視の黒霧の剣とレーザーの大太刀がぶつかる。魔力と魔力のぶつかる音。


 「斬れない、ならばッ!!」


 剣の背から魔力を噴射しながら、切先の魔力を振るわせる。同時につんざく様な高音があたりに響いた。レーザーの大太刀はチェンソーの様になって、不可視の黒霧を断ち切り、セトの肉体をバリアごと両断した。あたりに血と肉の焼ける匂い、チェンソーによって粉々になった骨の粉末が舞った。

 気持ち悪い、気持ち悪い。


 「この隙を逃すもんか!!」


 武器を折ってる、今なら押し込める!

 一閃、一刀両断。頭も心臓も内臓も、全部潰す。

 気持ち悪い、気持ち悪い。汚い、嫌な匂い、焼けてる。血、骨、怖い、怖い!


 「あと十一回!」


 再生するセトの右腕、完成の間際、ヒビが生まれ、砕けた。ニルヴァーナの限界が迫っている。


 「九回!これで残り八回だ!セト!」


 再生する頭、頭蓋骨が生成されてその後に脳みそ、目ができる。だから、目が完全に完成する前にもう一度一閃を入れる!そうすれば……


 「焼き斬れろ!!」


 頭を焼き切る大上段の構え。振り下ろす直前、それは止まった。


 「残念。馬を忘れてないか?」


 左腕から鈍い音が響いた。同時に激しい痛み、焼けるよりも鋭い痛みを感じる。レーザーの大太刀は僕の雑念によって形を保てずに消える。

 血が、腕を伝っている。


 「あがっ……く、くそ」


 馬の頭だけを顕現させて左腕を噛ませたのか。折れてる、僕の左腕。


 「少し話そうか、兄弟」


 セトは僕の首を掴む。セトの指に邪悪な魔力が込められている。少しでも怪しい事をすれば、殺すと、そう言いたいのか。


 「何故、安楽死を拒絶する?これから先、人々はもっと悪くなるだろう。不寛容になり、子供が居なくなり、争いばかりになる。そして醜い人々だけが残り、壊死する。だからそうなる前に終わりにしてやると、そういう話をしているんだ」


 「そんなの、わからないじゃないですか」


 「確定事項さ、ほぼな。わかりやすく話してやろう。20%の確率で幸せになれるが、80%の可能性で不幸になる、こんな世界にお前は産まれたいのか?お前はそんな世界に命を産み落とす事が道徳的であると言うのか?選択権無く、デスゲームをさせる事が正しいと?」


 回らない頭で考える。僕は今の話、どう思ったんだろう。いや、僕はセトの言葉を正しいと思ってる。絶対。だって不幸になる確率の方が大きいし、何より、20%と80%の賭けには選択権がない。問答無用でこの部の悪い賭けを強制される。これを道徳的であるとは、言えない。少なくとも、僕には。

 でも……


 「でも、僕は生きていたい。まだ死にたくない、だから世界を終わらすのは辞めにしてくれませんか」


 「駄目だ。自分だけ逃れるなぞ、許される訳がないだろう。潔く死ぬか、見るも無惨に死ぬか。それならば潔く尊厳と共に逝くのがいいだろう」


 左腕に魔力を込める。それと同時に馬の噛む力が強くなった。


 「あぐっ……」


 痛みにより魔力は離散する。セトはただ、涙を流しながら僕を睨んでいる。哀れみ、激怒、嫉妬、あらゆる負の感情が流れ込んでくる。


 「全てを持つ人々は総じて傲慢だ、無自覚にね。君もアウシルも。だから私に負ける。死にたいと、一度足りとも思わない人間が多数派だと思うなよ。貴様ら以外、生きたい思って生きていない。仕方なく生きているんだ。明日にでもポックリ逝きたいとか、永遠に眠っていたいななんて思いながら」


 だからって、だからってそれが僕を殺す理由になるのか?彼らを殺す理由になるのか?


 「それが人類を抹殺する理由になるんですか」


 「無論、ならない。人を殺す権利など無い。たとえアヌンナキの資産家達が私の魂にその様な機能を備え付けていても、私は断固として、人間が人間を殺す権利など無いと言おう。だからこそ、私はする。唯一の罪人となって、世界を終わらせて救う。人間の本質、自己犠牲によってのみなせる業を私が背負うのだ」


 長々と講釈垂れて、結局は貴方の絶望を拡大解釈しているだけとも取れるじゃ無いか。だって死にたいと願う多数がいたとしても、貴方はその人本人じゃないし、願う人も貴方じゃない。人の願いなんて本人以外にわかる訳がないじゃないか。

 それに僕はまだ、生きたいんだ。たとえ生きる事自体が不道徳でも、僕は生きていたいんだ。スビアやアイシスと一緒に笑ってる明日が楽しみなんだ。


 「それでも、僕は生きたい。だから……!」


 右腕に魔力を込める。左腕を噛む馬の頭の力が増して行く。痛い、痛い!


 「辞めろ兄弟!私はお前に苦しんで欲しくはない。高潔なお前は楽に逝かせてやりたいんだ」


 左腕の痛みが小さくなる。噛む力が増しているのに。あぁ、千切れたんだ。


 「それを押し付けと言うんだ!」


 今度は首が閉まる。でも右腕への魔力の供給は止まらない。


 「しゃあっ!」


 右目に光が収束し、放たれる。光はセトの脳天を貫いた。首を絞める力が弱くなる。今だ!


 「ミニチュアソル!!」


 小さな太陽をセトの腹に捩じ込む。そして数秒後、それは激しく光、爆発した。僕の首を掴んでいた右手を残し、セトの肉体は四散する。

 空中に浮いたまま、魔力のバリアで足場で片膝を付く。あと、七回、あと七回だ。もう一度、レーザーの剣を……


 「光源がなければ、私は無敵だぞ」


 しまった!そうか、影の移動。セトがいきなり後ろに回らなかったのは、レーザーの光が光源となってセトが出現できる広さを背中に確保できなかったからか!それで今、光源がなくなって!


 「はっ……!!」


 左側に不可視の黒霧が集結してる、避けないと!


 「ぐっ……!!」


 身を翻し、なんとか避ける、瞬時にレーザーの大太刀を作り、光源を確保する。しかし、おかしい、さっきより暗い。それに、頭が、頭が痛いんだ。


 「一撃で葬るつもりだったか。すまないな」


 左側が見えない。左目を潰されたのか。あぁ、くそ、アドレナリンでなんとかやってるけれど、左側の視界がなくってどう勝つんだ。


 「すまない、本当に。痛ぶる様な真似を。次はきちんと一撃で殺す。理解してくれないとわかったからね、それが悪いとは、言わないが」


 そういった時、セトは自らの肉体を塵にして消えた。影の移動か、どこに出る!?


 「左か!?」


 居ない、外した!右だ!!


 「さぁ、さようならだ」


 間に合わない、絶対。不可視の黒霧の剣の冷たさが首にある。


 「シュン!!!」


 アイシスの声、その声と共に右側は炎で埋め尽くされた。助けてくれた、のか。


 「馬……?」


 アイシスは燃え盛る馬に乗り、赤い剣を持っていた。


 「やはりアウシルの娘!お前がレッドライダーか!」


 叫ぶセト、炎を消し去り、そして身体を再生する。あと五回、か。


 

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