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小ホルスの継承




 三段の最後の波、それが終わっだ時、セトは消え、砂煙の中アウシルは片膝を付いていた。


 「私の愚かさによる物だというのか、くそ、もう保たないな」


 アウシルの肉体、魔力を封じている布は切れ、左目と左腕から赤い粒子が漏れている。魔力が切れて肉体を維持できなってんだ。


 「シュン、セトを追撃する。残機が回復しないうちにな。そしてそれはお前単独で行うんだ」


 僕だけでセトを?そんなの、無理だ。だってセトは強いじゃないか、とても僕だけで倒せる相手じゃない。


 「お父様!ちょっと待って、今なんて言いました?シュン一人だけでセトを?子供に自殺をお命じになられるんです!?」


 アイシスはアウシルに向かって叫んだ。僕の身を案じてくれてるんだろう。


 「いや、自殺ではない。私の最期の太陽を授ける。シュン、いや小ホルスであれば可能だろう」


 「何も変わってない!嫌だよ、お父様。みんな死ぬとしても、シュンだけ苦しくて痛い中死ぬってのはおかしいでしょ」


 アウシルはアイシスを引っ叩いた。彼女は頬を押さえたまま、父親を睨む。


 「どうせ死ぬなら最期まで足掻く。それの何がいけない、何より小ホルスは男で、王となる者だ。全人類の為に死力尽くす義務がある」


 「それは……シュンの決める事です!もう、おかしいんだ、みんな、スビアも私もお父様も。みんなシュンに頼ってる」


 僕の決める事か。確かに僕は全てが出来る訳じゃない。僕にだってできない事だってあるし、やりたい事だってある。でも今この状況において、僕という小さな人間の持つ選択権がどれほど大きいだろうか。きっと、無に等しいくらい小さい筈だ。だから僕は……やらなくちゃならない。皆が僕にやれと、そう言ってるんだから。


 「アイシス、やるよ僕。セトと戦ってセトを止めてくる。何としても」


 アイシスは耳絞って僕を睨む。不満、なんだろうな。僕の選択が。でも僕の決める事だって言ったのは君じゃないか。


 「もっと、なんでもっと自分を大切に出来ないんだ。貴方は……」


 立ち尽くすアイシスを尻目にアウシルは僕の後ろに立ち、僕の背中に手のひらを乗せた。


 「それでこそ、ファラオの故。ファラオとは己の無にできる超人の事だ。そして小ホルス、今の君はそれに相応しい」


 スビアは申し訳なさそうに下を見る。アイシスは体育座りになって顔を伏せている。

 瞬間、心臓が強く鳴った。

 熱い、熱い、熱い!身体が燃えるように熱い。


 「偉大なる人、偉大なる神、自由意志のアウグストゥス、燃え盛る太陽のラー。その力の一端を授ける。地上における神聖十一文字の代弁者、アウシル・オシリスの名において」


 燃え盛るような魔力が流れている。これがアウシルの力、なのか。これならセトを倒せる、かもしれない。


 「なんでこうなっちゃうんだ……私はお父様をもう尊敬できないよ……」


 凄まじい力の脈動を心臓から感じる。でも僕にはもうそれしか感じれなくなっていた。スビアの魔力もアイシスの魔力も感じない。感じるのは、王都の玉座に座る邪気だけである。魔力が大きくなり過ぎて、小さな魔力を感じれないんだ。


 「ありがとうございます、アウシルさん。アウシルさん?」


 後ろを振り向いた時、そこには何も無かった。ただ、灰だけがあった。そうか、アウシルは僕に力を託して死んでしまったのか。駄目だな、僕。アイシスのお父さんを救えなかった。


 「ごめん、アイシス。行ってくるよ。スビア、アイシスを頼んだ」


 スビアは僕の袖を掴んだ。


 「正直、最低だと思うよ。今の貴方。だから、絶対帰って来て、アイシスちゃんに謝ってね」


 「わかってる。アジャラカモクレンテケレッツノパー、僕は死なないよ」


 「どういう意味?」


 「帰ったら教えてやる」


 邪気を見つめる。距離は徒歩なら結構遠い。走るか、いや、この魔力なら船と同じことが出来る筈。

 自分の周りに自分の魔力を固めて、薄いバリアとする。そして一部分を薄くして飛ぶ。これを繰り返すんだ。


 「んじゃ、頑張ってくるよ、僕」


 足が地面から離れる。そして同時に、凄まじい加速が肉体に掛かった。熱い、熱い、でもそれだけだ。それだけで、僕は飛んでいる。バリアがソニックブームから僕を守ってくれてるんだ。

 風がうるさい、地面が流れる。あっという間に王都の上空へ辿り着いた。

 上空から見る街並み。日干し煉瓦の家々と巨大な神殿。人が笑っている。皆、知らないんだ。何がどうなるかなんて。


 「邪気が睨んでいる」


 一気に加速を掛け、火の玉となって王宮の中心、玉座の間に飛んでいく。


 「曲者!」


 槍を向ける兵士たち、余裕綽々とした表情で座っている、ファラオの二重冠を被ったセト。


 「良い、下がれ」


 セトは二重王冠をゆっくりと、丁寧に玉座に置いた。そして瞬時、彼は目にも止まらぬ速さで僕の首根っこを掴み、僕の入って来た穴から僕と共に王城を出た。

 凄まじいスピードと凄まじい膂力。しかし痛くはない、首根っこを掴まれているというのに、あまり痛くないんだ。


 「失望したよ、兄さんにはね。あとその周りの大人共にも。まともじゃない」


 首都郊外の砂漠に叩きつけられる。空中に浮かぶセトの目には、涙があった。僕を憐んでいるのだろうか。


 「緊急事態だからといって、子供に責任を擦りつけて死に逃げだなんて、大人のやる事じゃないだろ。全員滅ぶべきだ。いや、滅ぼす」


 「悪いの、貴方だろうが」


 茜色の空の下、黒い邪気と燃え盛る熱が混じっていく。あたりに黒い霧が立ち込め、瞬く間に夜となった。

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