アウシルとセト
「吹き消せ、ニルヴァーナ」
心臓を指で直接差して唱える魔法!ニルヴァーナ。スビア曰く、己の最大以上の力を引き出す代わりに最終的に肉体が粉々になる魔法。セトはニルヴァーナによる死のペナルティを己の死の支配によって克服していた。しかし、一度死んでいることには変わりない。
「ニルヴァーナか。しかし、お前のその薄気味悪い能力も、所詮は人間の扱う力。魔力が切れるまで殺し続けるまでだ」
アウシルの推測は正しい。でもセトとアウシルじゃ魔力の消費量がダンチだ。このままだとジリ貧で負ける。
「残念だけど、そっちが先に燃料切れになるよ」
アウシルの右手にレーザーの剣。僕の使っていたのと同じ、でも形状は違う。ただ一つ言えるのは、アウシルは魔力を節約し始めてるって事だ。だからなんとか、僕もこの魔力の濁流から逃れて加勢しないと。
「言ってろ!」
アウシルのレーザーの剣とセトの黒い不定形の霧の剣がぶつかる。アウシルのレーザーの炎が黒い霧を焼き溶かして、そしてセトの肉体を両断した。
僕の奴とは大違いだ。元々の魔力量、いや違う。勢いが違うんだ。
「やっぱ手負いの獣に近づくのはよくないな」
果てしなき剣戟。レーザーの火や黒い霧の剣の霧が飛ぶ。しかし吹き飛んだ血の赤や肉体は全てセトのものであった。
セトは既に二回死んでいた。そして影の移動とニルヴァーナの再起動を含めればもう五回だ。
「兄さん、その剣の消費の魔力は馬鹿だろう。だって私のバリアを破る程の魔力密度。そしてそれだけではない、違うかな?」
黒い霧が集まってセトの肉体に変わって行く。
アウシルはそのすぐを逃すまいと、大きく一閃を降った。その一閃をセトの構えを打ち破り、その肉体を縦に両断した。
「六回目、あと十四回が限界だろ。その証拠にお前は影の移動を使ってないからな」
十四回。あまりに気の遠い数字。やはりどうにかしてこの魔力の濁流を泳いで手伝いをしないと。でも僕のレーザーの剣じゃセトを斬れない。魔力の密度が違うから?いや、違う。アウシルの剣をよく見ろ。
「そうだね、兄さん。それで兄さんは十四回殺し切れるつもりか?もう私と同じくらいの魔力しか残っていないじゃないか」
アウシルの剣、降った瞬間に後ろが伸びてる。要は降る瞬間にバリアの幕を破いて中身を飛び散らせて、それを推進力にしてるんだ。剣の背中にブースターをつけてるみたいに。
「僕にだって!」
レーザーの大太刀を右手に生成する。いつもよりも魔力を込めて。レーザーを閉じ込める膜が限界になるまで。そしてレーザーの膜が限界となった時、切先に穴を開けるんだ。
「飛んでくれよ!」
レーザーの剣から噴射される大量のエネルギー。それを推進力として僕はこの魔力を濁流を泳ぐ。
「お、兄弟。考えたじゃないか」
いつもよりも濃縮された魔力の何倍も速い斬撃。セトのバリアを打ち砕き、後ろから左肩を引き裂き心臓を破った。
くそ、気持ちが悪い。飛び散る血も肉が焼ける匂いも、全部全部気持ち悪い。
「よくやったぞ!シュン。さて、これで十三回、そして!」
アウシルの突きがセトの脳天を貫いた。またセトを殺したのだ。
「残り十二回だ!」
セトの肉体が霧となって黒い霧となって消えて、少し離れたところに再び出現する。影の移動は、自身の肉体を小さな粒に分解して離れた所で再び繋ぎ合わせるって技だ。つまり、これで残り十一回。
「兄さんは勘違いをしている」
魔力の濁流が収まる。イカロスランチャーの崩壊波が止まったんだ。空中に浮かぶ岩と共に僕らも落ちて行く。一瞬赤い羽が見えた、多分アイシスがスビアを助けてくれたんだろう。
「イカロスランチャーは破壊兵器ではない、少なくとも、貴方が提言したような物では。イカロスランチャーはロケットの推進力を外部に委託した物だ」
ロケットの推進力を外部に委託した物……よくわからない。でも言葉通りに受け取るのだとしたら……
「そして、これの考案された当時のロケットは三段式が主流だったそうだ。つまり、さっきの言葉はブラフさ。私が一度ボタンを押した時点で、最初から三回あることが決定されていた」
再びピラミッドから光が放たれる。そしてまた、地面が揺れた。
「セト!貴方はどこまで!」
レーザーの剣の推進力を全て使い、アイシスとスビアの元へ。二人を抱き寄せて全力で魔力を足元に向けてバリアを張った時、再び崩壊波は僕らを貫いた。もう周囲に岩はなく、打ち上がるのは砂と人と船だけである。
「さようなら(マアッサラーマ)、我が愚かな兄よ」
セトは霧となり消える。アウシルは中央に立ち、全力で魔力を下に向けて、再び奔流を抑えようとする。
「我が身を焼き尽くせ!我が太陽の魔力よッ!!」
アウシルの魔力が太陽に膨張し、周りの砂を熱に変える。そして激しい魔力の奔流とぶつかり合い、徐々に萎んでゆく。




