こんなんじゃなんじゃなにもわからない
日記が読み終わる頃、夜になっていた。
「セトは知的生命体は滅ぶべきだって記した、ここまではわかる」
殆どの確率で不幸になるのならその人は産まれるべきでない、そしてそれが、必ず崩壊する社会の為となれば、産むという事が不道徳であるという事は確実だ、というのも分かってしまうんだ。だって命は命といえど、意味のない命というのは不幸だからね。だって意味のない命は愛されないのだから。
でも実際、道徳不道徳に関わらず、人間はどうしても産まれくる。だから滅ぼすなんてなかなか難しいし、中途半端に滅びるのは一番に酷い事じゃないか。
「でも実際どうやって滅ぼすんだ?方法がないだろ」
知的生命体の殲滅、要するに人類絶滅なんだけれど、たとえば核戦争。でもこの世界って核兵器ないし、あったとしても核兵器程度で人類が滅亡するとは思えない。きっとどっかで生き残って細々と文明を再興させる。それはセトとて望む事だとは思えない。日記にあるように。
「そこなの。お父様のそこがわからない」
一応日記には膨大な魔力と黙示録の5人の力があれば全ての人間を安楽死させられるってあるけど、何を言ってるんだか。てか黙示録って聞くと5人じゃなくて4人のイメージだけれど。
「うん、でもさ一つだけわかった事がある」
アイシスは何か閃いたようだった。
「ネフティア様は本当にお父様の事が好きって事。だからそう、お父様との再会をお父様の家族である私とシュンが保障すれば足を渡してくれるかも」
「うん、多分それ出来るわ。お母様、酸素欠乏症の後遺症でちょっと浅慮だから」
スビアの口ぶりはとても自分の母親を語る口調ではなかった。それにしても酸素欠乏症か、セトに首絞められて。
……いうほどセト可哀想なのか?いや、可哀想はそうかもしれないけれど、どっちかっていうとセトも結構悪いし、アウシルもネフティアも全部ダメだ。そしてその結果をスビアに押し付けて、到底許されることじゃない。
何より一人の絶望で全人類が死滅するなんて間違ってるだろ。
「んじゃ決まったね。ほらシュン、いつまでもビビってないで」
「わかってるよ!」
再びネフティアの家に向かう。そしてソファに座りもう一度彼女と向き合う。もう怖いなんて思わない。だってスビアに襲われた時の方が怖かったし。
「ネフティア様、僕わかりましたよ。貴方はアウシルさんと共にあれればいい、この認識に間違いありませんね」
「はい、その認識でお間違いありません」
アイシスは立ち上がる。僕はその様子を固唾を飲んで見守っている。
「では提案しましょう。私はアウシル復活後にお父様の娘として貴方とアウシルを引き合わせると約束致します。そしてこのアウシルの息子であるシュンもそうすると、約束致します」
「ふふっ、あははははっ!!」
ネフティアは大笑いした。なんとも狂気的な光景だと思う。前言撤回、やっぱりこの人は怖い人だよ。スビアよりもね。
「いいわ、そうしましょう!今すぐにアウシルの右足を持ってくるから待っててね!坊や達!」
こんなに簡単に決まってしまうのか。嫌だな、なんというか。
「スビア、こんな形なってしまって申し訳ないと思ってる。君のお母様の、後遺症を利用する形になってしまって」
彼女は僕の手を握った。こう、握られる度に思うけれど、獣人の力は強い。むろん僕の方が魔法の扱いは上だから、魔法を使えば負けないけれど、それでも素の力は負けてる。実際、あの時僕起きあがろうとして起き上がれなかったしね。
「別にいいよ。私はお母様は死んだと思ってるから」
しばらくしてネフティアは青い結晶の塊を持ってくる。中心には右足があった。神格の魂を持つ人間は死ぬとこうなる。膨大な魔力が結晶になって纏わりつくんだ。
「ありがどう御座います。では僕らはこれで」
ここに長居はしたくない、特にスビアはそう思ってるはずだ。だから無礼だけれど、もう帰られせてもらう。
「待ちなさい!さっきの約束……」
「守りますよ。僕は約束を破りませんから」
家の外に出る。そういや、長らく砂漠しか見てなかったから緑が物珍しくってこの庭のエンドウも、おぉエンドウじゃんとしか思わなかったけれど、よく見たら土の調子が悪い気がする。
「シュン君、どうしたの?」
この土、水をやり過ぎた。こんなんじゃエンドウがダメになっちゃう。
「なんでもない」
今日はもう夜も深いのでその辺の森で野宿する事にした。そして翌日、カペラさんから次なる目的地が告げられる。
「一応なんだけどロゼッタのとこに寄っとこう。どうせ無駄足になるけどね」
過去と未来を識る者、賢者ロゼッタストーン。カペラさん曰く頭がおかしいからどうせ無駄足になるけど一応という事でその人のいる所に向かう事にした。




