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セトという人について





 私の名はセト・メメントモリ、アウシル・オシリスの弟である。そして今、私の目の前にいる女性、煌びやかな金髪と深い碧眼の彼女の名はネフティア、後の私の妻である。


 「貴方またそれやってる。お昼ご飯はないの?」


 大学の中庭、私は紙と筆ペンを使ってとある事をしている。そう、超古代聖文字、アルファベットの解読だ。


 「ほら、これ」


 レタスの束一つ、これが僕の昼食だ。確かに私は冷遇されているだろう、だって僕は妾の子だ。正妻である犬科の母ではなく、妾の、しかも元家内奴隷の子だ。ただでさえ長男と差をつけられるのに、それが腹違いで不浄の生まれとなれば当然だ。


 「相変わらずだなぁ。そんなんだからガリッガリでスポーツできないしモテないの、もう少し兄を見習ったらどうなの?」


 兄の事は尊敬してる。スポーツも出来て友達も居て、それでモテモテでさ。それに比べて僕はなんというか、根暗だ。でもそれでいいんだ、僕はアルファベットを解明して叡智を啓く、何より万人にチヤホヤされるよりも目の前にいるネフティアが振り向いてくれる方が僕は嬉しいんだ。


 「無理だよ、僕にはね。でも僕は兄さんと違ってほら、この文字も読めるし意味も分かる。運動とか人と関わるとか上手くできないけれど、僕兄さんと違って考古学ができるんだ、魔法もね。何よりアルファベットをこの世界で読めるのは僕だけなんだ」


 「それは凄い事だけれど……それは考古学会での貴方が凄いってだけで人間的な魅力がある訳じゃないじゃん」


 それはそうだろう、僕とてこれは認識してる。でも人間的な魅力ってなんだよって話じゃないか。勉強ができる事、スポーツができる事、それはどっちも凄くて素晴らしい事で、差異なんてないだろう。

 だからわからないんだ、ネフティアがずっと一緒に過ごしてきた僕じゃなくて、兄さんを見ている理由が。





 その晩、私は屋敷に帰って自室に籠る。そして資料を読み耽るんだ。

 太陽神ラーと300人のアヌンナキの言葉、アルファベット。26の聖なる文字と数多くの理知的な記号。これを僕らの文字である聖刻象形字に翻訳するのは難しい。

 例えばそう、このArtificial Intelligenceという言葉を翻訳するにはまずArtificialとIntelligenceに分け、それを海の民のアトランティス字に変換し、これを楔形シュメル字に変換、そして聖刻象形字に変える。そして最終的に得られるのが"人によって造る"と"知性"だ。よってArtificial Intelligenceを訳すと人造知性と読み取れる。

 それで厄介なのはそう、例えばこれだ。Smartphoneという言葉だ。これをさっきの道程を経て翻訳すると利口な電話となる。これの意味はよくわからない。頭がいい、電気の話?エネルギーを使って会話する道具なのか?と空想するしかやいからね。

 ただ、これを大賢者ロゼッタストーンに聞いた時、お前頭いいななんて言われたからあながち間違いではないのかもしれない。彼も太陽神ラーとアヌンナキによって遺された物なのだから。


 「セト!おい、セト!」


 父親の声。僕はこの人があまり好きではない。だって兄さんにしか構わないし、僕のやってる事を下賤な貴族のやる詮無いことだと馬鹿にするんだ。僕らの家だって父の代でやっと獣人の血が入ったような弱小貴族なのにね。


 「ただいま!」


 父の書斎に向かう。そこにはすでに兄さんも居た。


 「アウシル、セト、喜ばしくも縁談である」


 縁談、まぁいつかはこうなると思っていた。だって貴族なんだ、僕ら。血筋によって家を結んで女に子を孕ませて血脈を強化する、言っちゃ何だが、家畜のような存在なんだ、このメンフィス王国の維持のために社会に飼われる。


 「アウシル、お前はテーベのヘスティアの結婚しろ。喜べ、猫科だぞ」


 獣人は一般的に高貴とされている。何故なら太陽神ラーがハヤブサ頭を持っていたとされ、獣の血の混じる人はラーに近く高貴であると見られるから。


 「ありがたき幸せで御座います、お父様」


 「それでセト、貴様はネフティアと結婚して貰う」


 ネフティアと僕が結婚、僕はそれでいいけれど、彼女はそれでいいんだろうか。だって彼女の様子を見ていればわかる、彼女は兄さんに惹かれている。僕じゃなくてね。でも僕は貴族で彼女も貴族。もし彼女が本心から兄さんと結ばれたいのなら駈落ち以外に手はない。でも兄さんはそれを望まない。要は僕にできる事は何もない。状況を受け入れるだけだ。


 「はい、しかと」


 悶々とした気持ちを抱えながら再び自室にて資料の翻訳に耽る。

 だが私は気付きを得てしまった、この資料に書かれている事は世界を変えてしまう物だったのである。

 それはある種、知的生命体というものの欠陥であった。

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