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ダメダメな僕ら





 「いつかはこうなると思ってた。だってシュンもスビアもちょっとおかしいからね」


 アイシスは僕の胸の上で倒れてしまっているスビアを撫でた。いつもそうだ、スビアの方が年齢的には姉なのにアイシスの方が落ち着いて見えるからアイシスの方が姉に感じてしまう。


 「獣人はトロフィー的な側面を持っていた。貴族や神官達のね。だから彼らに厳選されて、自然と人間に奉仕する事こそが悦びであると、そう言う個体が残っちゃって、それが本能になっちゃった。それでそのせいだ、私達獣人は人に捨てられるという事を心の底から恐れている」


 「それは君もこの子もそうなのか?」


 彼女は小さく頷いた。


 「姉さんは良くない産まれだ。だから唯一貴方だけだったんだ、彼女の生を肯定したのは。それで、そんな人に拒絶されたらこの人はもう立ち行かない」


 知らなかった、スビアはそんなにも苦しかったんだ。でも僕は拒んだ、しかしそれが悪い事だろうか。僕の出来ることなら僕は喜んでそれをするけれど、僕にだって出来ないことくらいあるんだ。


 「だから……お願い。卑怯で不健全な事だってわかってる。でも、この人が生きていく為にこの人を愛して欲しいんだ」


 僕がスビアを愛する?でも僕はどうやってスビアを愛すんだ。だって僕が愛を与える代わりに彼女僕に何をくれるんだって話じゃないか。


 「わからないんだ、アイシス。僕はスビアをどう愛せばいいんだ。だってスビアにとって僕は必要かもしれないけど、逆はそうじゃない」


 スビアを撫でていた手は僕に移った。なんで撫でられてるのかはわからない。


 「ただこうやって抱きしめて撫でてあげて。そうすれば多分、なるようになる」


 何を言ってるんだ、なるようになる?こんなよくわからない行為で?それが愛する事だって言うのか?だってこんな抱きしめて撫でるなんてなんの利益にもならない。ただ安心を錯覚するだけじゃないか。


 「わからない、僕には何も」


 「じゃあ言ってあげる。本当は言いたくなかったけれど。貴方なら出来る、だからやって」


 それはずるいよ、アイシス。それを言われたら僕はやらなくちゃならないじゃないか、僕に出来てしまうから。


 「……わかった。僕はスビアを愛してみる。でも保障はしきれない、僕は完璧じゃない、出来ない事だってあるんだ」


 アイシスは僕らに近くにあった布団を掛けて、自分も藁のベットに寝っ転がった。


 「スビアはもう少し人を見るべきだったし、貴方はもう少し身の振り方を考えるべきだよ。私から見た貴方は完璧で頼り甲斐のある人に見える」


 僕が完璧に見える?そんな馬鹿な、だって僕は結構間違えるし、自分が思ってるほど頭だって良くない。周りよりちょっと手先が器用なだけの人なのに。


 「ねぇ、そのお守り効果なかったね。獣除けみたいな」


 「うん、でも怖かったんだ、ぱっくりいかれちゃうじゃないかって」


 狼に食べられる羊の気持ちだった。彼女の恍惚とした目とか赤くなった頬とか橋になった唾液とかが、全部怖かったんだ。


 「そう、もしそれが私でも怖かった?」


 「わからない、なんでそんな事聞くの?」


 彼女は僕の質問に答えず、目を閉じた。呆気取られて残されている僕、でも疲れていたので、僕もそのまま寝てしまった。





 しばらくして起きた時、アイシスは居なかった。ただ上にスビアが乗ってて、窓の外は赤かった。夕方になってんだ。

 彼女の抱き締めて撫でてみる。この行いに何の意味が生まれるのか、僕にはわからない。ただこの行為によって彼女が生きて行けるというのなら、それは良い事なのかもしれない。

 もし、この行為を愛と呼ぶのなら僕は愛をわからないと言えるだろうな。


 「あ、シュン……ごめん、私最低だ」


 「いいよ、考えたんだ、僕。確かに僕は君に襲われて怖くって、泣いちゃった。でも君がいなくなるのはもっと怖い。だから許すよ」


 彼女はただ僕の胸に顔を埋めている。こういう所は本当に可愛いんだ、ただ身構えてない時に来られたから怖いだけで。


 「うん、ありがとう。シュン君、シュン」


 一つ思うのは、彼女の僕に対する好意はアイシスが言っていたように不健全な物であるという点だ。だって彼女が僕を好きでいてくれるのは獣人の本能もあるし、何より被虐待児であるからという所からだろう。だから、要は僕である必要がないんだ。

 本当にこのままでいいのだろうか、そう思ってしまう。


 「ん、貴方達まだそのままだったんだ。それよりほら、なんかこんなん貰えたよ」


 アイシスが持ってきたそれは一冊の日記帳だった。


 「セトの日記だってさ」


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