有馬隼とスビアについて
道具小屋に入ってみる。ここにはスコップやらクワやらがあるけど、同時に本とかペンとか、そして藁の上に布団と枕を置いた簡易的なベッドがあった。
「シュン君、バレちゃったね、私の事。ここ私の部屋なんだ」
とても貴族娘の部屋とは思えない。平民よりも酷くて、なんというか、弱小貴族の家内奴隷以下だ。
「私さ、セトの娘だけど血繋がってないの。本当のお父さんはアウシルさんなんだ」
アウシルさんの娘……そうか、アウシルさんとネフティアの娘。托卵だからか、セトは彼女を愛せず冷遇したって事か。じゃあさっきの繋ぎ止める道具って、アウシルとネフティアを?
「それって、アイシスは知ってるのか?」
藁のベッドに座って左手につけて暗い太陽を弄っている彼女。僕もそのベッドに座る。
「多分、知ってるかな。アイシスちゃんは一人娘って扱いなんだけど、アウシルの子供は全員女って言ってたから」
お酒飲んでアペプの事を話してた時か。
「だからね、シュン君。私は存在そのものが悪なんだ、お母様もお父様も、私の存在のせいでおかしくなっちゃたんだから」
間違ってる。確かに彼女の産まれが良いものだとは言えない。でもそれが彼女を否定する理由になるのか?
「それは違うだろ。スビアの産まれがどんなに悪いものでも、それが君自身が悪であるって理由にはならないだろ」
左腕につけた暗い太陽のネックレスを彼女に見せる。
「僕は君やアイシスと一緒にこれを作った事を後悔してないよ。例え君が不義の子であってもね」
彼女の目から雫が落ちた。
「ありがとう、でもね。私はどうしても私自身を大好きになれないんだ。それは貴方だって同じでしょ?貴方も親から愛されてこなかったたんだから」
僕が親から愛されてこなかった?それは間違い、なはずだ。だって僕の俳優としてのスキルは父さんから受け継いだものだし、有馬って名前も父さんから貰ったものだ。だから僕が愛されてないなんてあり得ない。
「違う、僕は愛されていた」
スビアは笑った。そして僕を慈愛の目で見つめた。
「馬鹿よ、貴方は。お仕事とかそういうのを抜きにお父さんとご飯食べたことある?お父さんと遊んだ事は?キャッチボールだってした事ないでしょ。貴方はただ、お父さんの第二の人生でしかなかったんだ」
確かに僕の記憶の父さんはずっとスーツを着ていたし、僕も衣装を着ていた。でも、それでも僕には愛されていたって実感はあるよ。
「僕が父さん第二の人生であっても、僕を必要としてくれてる訳だから、僕は愛されていたと思うよ」
必要だから答える、それを相互にやる。それが愛じゃないか。その理論なら僕は愛されていた。なのに何でスビアはそんな悲しそうな顔してるんだ?
「必要だから愛すじゃ虚しいよ。ねぇシュン、やっぱ貴方も可哀想なんだ」
彼女は何故か僕を抱きしめた。ちょっと力強いけど、なんか安心する。でも何で抱きしめられたんだ?
「ねぇ、一つだけ良い方法があるの」
両手を僕の肩に乗っける彼女。頬は赤らんで目は恍惚としていた。あれ、何で僕の心臓こんな鳴ってるんだ。身体も暑いし。
「スビア?」
僕の身体が藁のベッドに押し付けられる。彼女の長い髪がカーテンみたいになって外界が見えなくなった。なんだろう、甘い匂いがする。ケーキみたいなそんな匂いだ。どこか安心するし、それでも心臓は速くなってる。
「……赤ちゃんを作ろう。そうすれば貴方は愛を知れるし私は私を好きになれるし、貴方は私を捨てれないでしょう?」
唐突だった、意味がわからなかった。
「意味がわからない。それに子供を作るとして、その理由が僕と君を繋ぎ止めるだけなんて、産まれてくる命を考えて発言したのか?」
首筋に彼女の細い指がある。僕の首を撫でてる。なんか怖い、まるで一口で食べられてしまうような感じがする。目が、目が怖いんだ。
「その命が私だよ。だから私はね、私がその命を愛せればそれは私が私を愛せる証明だと思うの」
彼女の暖かい両手が僕の頬にある。熱い、熱いんだ。
「自分の人生を肯定する為に子供を使うなんておかしい」
彼女の顔が近づいてくる。唇が僕の唇に触れそうになる。
「じゃあ私の存在もおかしいって言うの?」
甘い香りが強くなる。
口の中に自分のものじゃ無い熱を感じる。絡んでるんだ、熱と熱が。
あぁ、怖い、嫌だ、食べられるてるんだ、こんなの怖いよ!
「や……やめて……」
細く漏れた声。あまりにも自分の声とは思えない、情けない声だった。
「シュン、なにその顔……貴方も私を拒むの?私は悪くないって言ってくれたのに。私は……」
彼女は上体を起こして少し口を開けて眉を顰めている。それでたくさん息を吸っている。
「スビア、僕は……」
僕はスビアを拒絶したのか。むろん、僕だって男で、それでいて14歳だ。転生前の年齢もこれさして変わらない。だからスビアとかアイシスに対して、肉体的な欲というのは抱いていた。でも僕は今スビアを拒絶したんだ、突然になって、怖くなって。
わからない、なんで僕は彼女を拒絶したんだろう。
「辞めて、捨てないでよ。もう嫌なの、私が、私が悪いの?私のせい……?」
彼女の呼吸が浅くなってる。過呼吸だろうか。
「シュン、助けてよ……」
彼女は倒れた。そうして僕の胸の中に落ちて気絶した。
捨てないでよ、か。なんて可哀想な人なんだろう。
「聞いてたよ、全部」
急激な眠気に襲われる直前、小屋の扉は開いた。そしてそこにはアイシスが居た。
シュンは放置児、スビアは虐待児のイメージで作ってます。




