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スビアという人

 




 セトの妻ネフティアの住むケイロータウン郊外はアンニール流域のデルタ型湿地地帯である為、緑が多く、なんというか地中海の街の雰囲気があった。


 「やっぱその、会うの辞めにしない?」


 日干しレンガの家の前、花咲く緑の庭、オリーブの香りに包まれている。そしてそんな中、スビアは直前になってそう言い出した。


 「今更じゃない?スビア」


 アイシスはスビアの手を引っ張るが、彼女はテコでも動かない。まるで帰宅拒否する犬を見てる気分だ。


 「ほら、カペラさんだってピーちゃんの面倒見てくれてんだ、行くよ」


 両手で引っ張るアイシス、されど全く動かない。


 「どうしんだよ、スビア。この街に来てから君はずっと沈んだままだ」


 この街に来てから彼女の様子はおかしい。ずっと耳は垂れ下がっているし俯いたままだった。何か悪い思い出がある、というのは予想できるし、それが"セトの家に犬科はいない"という言葉と関連しているかもしれないということも予想できる。でも彼女はそれを話してくれないから、僕はどう接すればいいかわからない。


 「だって……ごめん。わかった、行くよ。だからずっと手を握ってて。私一人じゃ歩けないから」


 「構わないよ、それでスビアが歩けるんだったらやってやる」


 彼女の手をしっかりと握る。暖かくて小さな手だ、でもなんかちょっと握る力が強いかもしれない。


 「本っ当に甘やかしだね、シュン。まぁいいや、入るよ」


 呼び鐘を鳴らして少し待つ、するとなんとも綺麗な女の人がドアを開けた。


 「早う御入りなさい、坊や達」


 金髪と碧眼、年齢を感じさせない白い肌。本当にスビアそっくりだ。でもこの人犬科じゃない。獣人じゃないんだ。


 「有難うございます、ネフティア様」


 彼女に案内され、リビングに通された。家具は隅々まで上質な物で、この辺でしか育てられてないアカシアの木を使ってる。


 「紅茶をお出ししますから、ソファに座ってお待ち下さいね」


 凄いな、笑い方までスビアみたいだ。

 紅茶の良い香りがキッチンから漂う、よほど良い茶葉を使ってんだろうなと想像してみる。ふと部屋を見渡すとそこには家族写真があった。


 「そういう事よ、シュン君。私は……」


 その家族写真にはスビアとセト、ネフティアさん、そして彼女らの叔父や叔母と思わしき人たちが写っていた。しかし耳が生えていたのはスビアだけだった。

 ここから考えられうるのは二つ。隔世遺伝か、あるいは托卵か。

 今までの彼女の態度やセトとネフティアさんが別居している事、それらを考えると、可能性が高いのは後者だ。でも後者だとして、父親は誰なんだ?


 「君は悪くないだろ、それ」


 前世でも割と聞いた話だよ。特に名門とされるような、二世三世と輩出されるような家では。遺伝子が優秀だと、周りからはそう映ってしまうんだから。


 「ありがとう、シュン……」


 しばらくしてネフティアさんは紅茶を持ってくる。彼女の入れる紅茶はとても美味しかった。でもなんというか薄い、よく言えば上品だし悪く言えば香り以外に取り柄がないんだ。


 「事前にアペプ様からお話は伺っております。アウシルの右足の件でしたよね」


 アウシルの右足の件?この人アウシルさんを呼び捨てしたのか?アペプには敬称をつけたのに?アウシルさんと特別親しかったのか?


 「えぇ、どうか僕らにお譲りいただきたいのです。ネフティア様」


 「構いません、その代わりにスビアをこの家に置いて頂きたいのです」


 その時、スビア突然立ち上がった。あまりの勢いにコップの中身は揺れて溢れて、机の上を水たまりにする。


 「最低。私は貴方と貴方の男を引き留める道具じゃないんです。そんなもわからないから、貴方は、貴方は……」


 スビアは耳を絞ってネフティアさんを見下ろして怒りを露わにしている。


 「黙りなさん!!」


 金切り声のような高い声でネフティアさんは叫んだ。


 「スビア!私の気持ちも知らないでよく言うわね!!てかあんただってわかってんじゃないの!?今繋いでんのは男の手でしょ!?」


 アイシスも僕も何も言えない。あまりにも二人の剣幕が凄まじくて何も言えなかったのだ。


 「だからなんだって言うんです!?私は、誰も不幸にしていないでしょう!貴方と違って私は……」


 スビアが僕を見ている。彼女は泣いている。


 「死んじゃえばいいんですよ、貴方なんて!」


 スビアはそう言い残して家を出て行った。


 「……なんでああなっちゃうのよ。坊や、貴方がたらし込んだの?」


 ネフティアさんは僕を鋭い目で見ている。怨みのこもった目だ。


 「貴方の言っている事は分かりません、スビアがなんであんな卑屈なのかも、貴方が何を考えているかも僕には分かりません」


 彼女の目に呼吸が浅くなった。なんなんだ、この人。スビアと似てるけど、彼女とは全然違う。怖いんだ、この人。


 「でも貴方は怖い人だと思います。だから少し席を外させて下さい。申し訳ないです」


 行ってしまった。僕は交渉しに来たのに。

 アイシスも僕の様子を察したのか、彼女は立ち上がってこう告げた。


 「申し訳ありません、ネフティア様。長旅でシュンも疲れてるんです。ですからここは一つお許しください」


 「シュン、疲れたんなら外で休憩してきな」


 彼女に任せて、ネフティアの家を出る。スビアは先に宿に戻ったんだろうか。どこに行ったんだろう。

 あそこ、庭の道具小屋、扉が開いてる?


 「スビア?」


 中には彼女が立っていた。後ろを向いてるから表情はわからない。

スビアの元ネタ、アヌビスはセトの妻ネフティスとセトの兄オシリスの元に生まれた不義の子でした。

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