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一頭の龍、地に堕ちて死なばより多くの実を結ぶ





 三日月の出る空、燃え盛る龍の死骸を焚火として冒険者や神官、学者は酒を飲んでいる。まさしく宴会、お祭りだ。


 「ねぇみて!シュン君、これ甘いよ!」


 スビアは白いパンみたいなのが串刺しになったものを持ってきた。少し焦げている部分が見えるに龍の死骸で焼いたんだろう。


 「ん、美味いなこれ。めっちゃ甘い」


 マシュマロだこれ。そういえばマシュマロって起源は古代エジプトなんだったな。確か何かの根から抽出した粘液と蜂蜜を混ぜるんだっけか。バラエティ番組のクイズで出題されたっけ。


 「でしょ!学者さんがマシュマロ屋さんやってくれてるんだ。しかも結構安値よ」


 「学者さんが……そういやマシュマロって薬菓子だったな」


 何かの根、ナンタラアオイだかいう奴の根から抽出した粘液にはのど薬と似た作用があるんだとかね。これもクイズ番組でやった奴だ。事前に回答を知っていたから答えられたっけね。


 「シュン!スビア!あれ始まったってさ!」


 手のひらサイズの袋を持っている彼女。そう、葬龍祭の名物、暗い太陽のブレスレット作りだ。


 「んじゃ行くか」


 龍の死骸の腹、そこには無限に熱を生み出し続ける器官、劫火の心臓がある。

 肉体が死んでいるのに未だ動いている心臓、僕らはその前に立っている。


 「銀貨3枚から!」


 頭にタオルを巻いた筋肉質なおじさん。ガラス細工職人だろう。


 「3人分お願いします」


 銀貨9枚と袋を渡す。この袋には龍が踏み潰した砂である黒い濁ったガラスが入っている。


 「あいよ!」


 職人は砂のガラスを石の器に入れて、それを劫火の心臓に入れた。燃え盛る心臓は黒い濁ったガラスを溶かし、灼熱の赤い液体に変えた。職人はその液体を太陽の方に流し込む。液体は少しずつ冷えていき、黒い太陽の装飾品ができた。


 「うし!じゃあ向こうでチェーンくっ付けてくれ!」


 横に備え付けられたテーブル、そこにはチェーンと留め具、そしてそれらを付けるためのペンチが置いてあった。


 「あぁ、先程のバリアを破られた冒険者殿ですか。お見事でしたよ」


 テーブルの前に立っているのはお昼に参加の受付をしてくれた神官だった。


 「ペンチでここを折り曲げて暗い太陽とチェーンをくっ付けてください、冒険者殿」


 指示通りペンチを使ってブレスレットとチェーンをくっ付ける。夜だから少し暗いけれど、それでも龍の死骸の火が照らしてくれているから十分に作業できた。なんと言うか、伝統工芸品体験をやってるみたいだ。


 「古くから暗い太陽は冥府の世界で輝き、離別した大切な人に出会えると言い伝えられています。また女性でしたら、獣除けの効果もあるんだとか」


 スビアがなんか笑ってる。


 「獣避けですって」


 「僕が獣に見えるのかよ」


 ふと左を見てみるとアイシスは僕を手を見ていた。


 「左利きなんだね。知らなかった」


 僕は元来左利きだ。でも芸をやるなら両方使えたほうがいいって事で両利きに矯正されたっけな。左使ったら赤くなるまでぶっ叩かれるみたいな、結構スパルタな矯正だったけれどそのおかげで演技の幅は広がったから感謝はしている。


 「左利き、っていうよりも、うん。両利きだよ。右も別に使える。でも左の方がちょっと得意かな」


 あれ、でも矯正されたのって転生前の肉体だよな。そう考えたらこの肉体は元来両利きだったのかもしれない。


 「ふーん、便利だね」


 「便利だよ、色々な場面で。だってほら、もう出来たし」


 暗い太陽のブレスレット、火によって緑になったり青っぽくなったりしている。なんて言うか、お星様みたいだ。





 翌日、朝の光と共に起きる。龍の死骸の火は既に消えており、そこには巨大な骨が残されていた。

 眠い目を擦りながら歩く、死骸の周りには既に何人かの冒険者や学者がおり、中心には神官が立っていた。


 「おはよ、シュン」


 後ろからの声、声の主はアイシスだった。スビアは多分、朝弱いから寝ているんだろうな。


 「おはよう、それでなんでみんな集まってるんだ?」


 「お葬式だよ、ドラゴンのね」


 集まってる全員は地面の黒くなったガラスを砕いている。そしてそこに何かの種を埋めていた。


 「神官様、これは何をされているんです?」


 あの神官に聞いてみる。


 「アガベの種を植えているのです」


 アガベ、竜舌蘭なんて言ったりもする多肉植物だっけか。硬くて鋭い葉がバラみたいに開いてる植物だ。テキーラの原料にもなるんだよって育ててた人に言われたな。


 「一頭の龍、地に堕ちて死なばより多くの実を結ぶ。お嬢様がお話しなさっていたように、龍の持つ栄養は膨大です。ですからこうやってアガベを植えて緑を作れば、ここ一体は100年をかけて緑地となります」


 この砂漠の一面が緑に、本当に凄いんだな、自然って。そう考えると、ゴッドイーターだって僕らに殺されなければ自然の一部になってたのかもしれない。僕やアペプはあれを悍ましいと言ったけれど、自然から見ればただの命一つに過ぎないんだろう。


 「ではこちらを。どうか冒険者様もこの種を植えになってください」


 「有難うございます、神官様」


 二人でノミを持って、地面の黒いガラスを剥がしていく。龍の巨大な頭、空洞の目の部分から光が降り注ぎ、の場所だけを照らしているんだ。


 「……アペプはさ、アイシスとかの獣人のこと、品種改良によって作られた悍ましい命って言ってたんだ」


 「まぁ、あの人なら言うよ。過激なインテリ気質は出会った時からそうだったから」


 砂に指を突っ込んで穴を作り、種を一つずつ入れて行く。そしてその上に龍の骨を粉末にした肥料を入れる。元々の栄養がある上に、死ぬ時に焼けて死ぬから、肥料として本当に優秀らしい。


 「でも僕は、なんだろうな。難しいんだけど、ドラゴンとかって人造の命ですらこうやって自然に消えて糧になってく。だからこう思ったんだ」


 「結局命は命で、悍ましいとかそういうのは無いんだなって」


 彼女は小さく囁いた。


 「そう、ありがとう」


 僕には彼女がなんて言ったか聞こえなかった。でも、顔とか耳を見る限り、不快な思いはしてないんだろう。


 「さ、こんなもんでしょ。きっとここにはアガベ畑が出来るんだ、それでフェネックやら鳥やら虫とかの動物が食べて糞をして広がってく」


 「だからまた来ようね、シュン。何年後かにどんくらい広がってるか気になるからさ」


 「いいね、僕もそうしたいよ」


 その後、スビアを叩き落として三人と二匹とラクダ一頭の旅は再開される。そしてケイロータウンにあるネフティアの家に着いたのは、それから四日後の事であった。

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