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葬龍祭




 「持ち物はこれでオッケーだよね?」


 全員で重いリュックを背負って宿を出る。次の目的地はアンニールのデルタ型実地地帯の始まりに位置する大都市、ケイロータウンである。


 「んじゃ出発だ」


 次の街に向かって3人で歩く、でもこんな重い荷物を持ったままじゃ腰も肩も痛くなるからラクダを借りる事にした。


 「やっぱ暑いわ」


 という訳で今、この大砂漠をラクダに荷物を預けて三人で歩いている。燦々とする太陽に汗をかいて、とにかく暑い。でも今はそんなのどうでもいいんだ。


 「あぁ本当に。アンニールをそのまま下れればよかったんだけど」


 次の目的地、ケイロータウンの郊外にはセトの妻、ネフティアの家がある。だから彼女の家に、つまりスビアの母方の家に向かおうという話なんだけど、スビアは猛烈に反対した。絶対嫌と言いながら泣き出す程に。理由はわからない。ただ、アペプの言っていたセトの家に犬科は居なかったという言葉が確信に近付いてしまった。


 「川下りみたいにって事?」


 「そんな感じに」


 アンニール川を川下りするにはそれ相応の船が必要だ。何故ならアンニールのデルタ型湿地地帯の始まりから中流の終わりにはワニ型の魔物が住んでいるのだ。あと純粋に緑地になって生物が多いから強力な魔物が多い。


 「ねぇシュン!暑い!」


 後ろから背中を叩いてくるアイシス。少し痛かったけど、暑さが誤魔化してくれる。


 「どうしだよいきなり」


 「だから暑いんだって。この暑さはおかしいよ」


 まぁ確かにこんな暑いのはおかしいけれど……別にこんなもんじゃないか?だって50超えたらもう変わんないし。


 「それはそうかもな。フライパン置いたら料理できると思うよ」


 「んーじゃあやってみようかな。何食べたい?」


 「マンゴーデスワームかな」


 アイシスは割と理論の人だし、内省の人だ。だからいつも気難しい顔をして本を読んでいる。だからお酒入ってない限り下らなくて中身のない話をする人じゃないんだけど、今日はどうしたんだろう。疲れているのかな?


 「んーならこう、誘き出してみようか?ちょうど獣人二人と魔物一匹と虫一匹で魔物も匂いに釣られるでしょ」


 アイシスってこんな事言うか?確かに人間に比べて獣人は動物に近いから獣の匂いがするとか発情を促す様な特有のフェロモンがあるって話はあるよ。でもそれは人間の嗅覚では嗅ぎ取れない様な微細な差だろ。


 「ダメよ、ピーちゃんを餌にはさせないから」


 ピーちゃんは僕らと同じ様にローブを被って彼女に抱かれている。ちなみにローブの中ではカペラさんが毛繕いしてくれてるみたい。


 「ん、そうだよね。ごめんねピーちゃん」


 アイシスがピーちゃんを撫でてる?この前撫でるかって聞いたら"魔物は懐くことはあるけど、反応的攻撃性が比較的に高い生物であるから不意に攻撃する事もあるんだよ、チンパンジー飼ってるようなもんだから"って言ってじゃないか。


 「アイシス……うん。いや」


 調子悪くないか、そう言おうと思った。実際耳だってなんかいつもより立ってないし。でも僕にはそう言う勇気がなかった。


 「ん、どうしたの?」


 「なんでもない……あれ見てくれ」


 前方に人の列。ラクダに荷物と武器を持たせている。軍なのか?でも軍がこんなところに来るか?だって軍なら移動する時にアンニール川を川下りできるじゃん。ならあれは……行商人の列?あるいは同業の冒険者?


 「歩き方とか鎧に散らばりが見える、多分冒険者だ」


 新しく買った望遠鏡で観察するアイシス。やっぱ彼女の観察眼はすごいな。歩き方の違いなんて僕にはわからない。猫の目によるものなのかな?


 「何か話してる。ん、まってあの装飾は……葬龍祭だ」


 葬龍祭?龍を葬るお祭り?


 「アイシス、葬龍祭って何だ?」


 「稼げるお祭りだよ。アペプ兄さんから腕を買うって事を考えたら参加すべきかもしれない、話だけでも聞いてみない?」


 稼げる祭。確かにそれはいいかもしれない。だってアウシルさんの腕を買わないとならないし。


 「いいね、行ってみよっか。」


 少し歩いて彼らを追いかける。一団に近づいた時、向こうから僕らに声をかけてきた。


 「冒険者ですか?」


 ローブの下に見える留め具の鉄の太陽、神官だろうか。ん、何で神官が冒険者に?だって神官って政治家じゃないか。


 「えぇ、そうです。そちらは葬龍祭の取りまとめという事でお間違いありませんか?」


 「はい、その通りです。お嬢さん」


 アイシスは懐から金色のタグを取り出した。神官はそれに驚き、口元を隠すがすぐに普段の顔に戻った。そして懐から石板を取り出し僕らに見せる。石板には絵のような文字と、褐色になった指紋のようなものがあった。


 「ではこちらが報酬金の見積もりで御座います」


 アイシスは親指の腹を歯で切って、血でその石板にサインをした。僕らに断りなく参加を表明したのか?別にいいんだけど、一声掛けて欲しかったな。


 「感謝致します、冒険者様。では太陽の赴くままに」


 「えぇ、太陽の赴くままに」


 神官が列に戻る。アイシスは勝手やってごめんと平謝りした後に、葬龍祭について話し始める。


 「葬龍祭っていうのは……いや、ここで話すよりも実物見た方がいいね。列に着いてくよ」


 僕らも列に加わる。列の長さは300mかそれ以上で、その中には荒くれ者の冒険者やらさっきのような神官、はたまた生物学者まで幅広く参加していた。

 そしてしばらくの後、巨大な煙が遠くに見える。


 「あれをよく見てね」


 望遠鏡で煙の中心を覗いてみる。するとそこには、龍が居た。四つ脚と翼を持つ巨大な赤い龍。しかしその龍は火を纏い、酷く苦しんでいるように見える。足は引き摺り、翼は火で焼けて、目もなく所々肉が露出していた。


 「アイシス、あれはどういう事?」

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