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セトの家に犬科は居ない





 馬は風を切り落ちていく、手を伸ばす彼女に向かって僕も手を伸ばす。


 「やっぱり来てくれた!」


 落ちないようにしっかりと彼女を自分の胸に抱き寄せる。


 「止まれ!止まれ!どうなってるんだこの魔法」


 「大丈夫、シュン。私が手綱を引く」


 カペラさんの声と共に青い幽霊の馬の前に光が差した。そして光は粒となり、白い馬となった。


 「白馬が引っ張ってくれるからね、安心して」


 そりゃ、いいな。なんかレッカー車にレッカーされてる気分だ。


 「なぁ、スビア。僕考えたんだ、僕が何を欲しているのか、そして何故戦って、アウシルさんを復活させようとしているのか」


 彼女にだけ話した話だ。


 「結局僕は自分の事なんて何も考えてなくて、僕が何を欲しいかなんてわからない。だから僕は何で戦ってるのかって言われたら何となく、アウシルさんを復活させるのは良いことだと思ってるからと答えるしかない」


 腕の中にある彼女の顔、本当に綺麗だ。


 「だから僕はこう決めた。僕には戦う力があるから、戦うことが出来てしまうから戦う、今はそうするよ」


 右目の焼き尽くす力にこの肉体に与えられた才能に、その全ては神から偶発的に与えられたものだ。だから借り物の力で傍若無人だなんてダサい事はやってられない。僕は借り物の力を受け取った責任を果たす。恵まれた環境だった前世と同じように、出来てしまうから僕はやるんだ。


 「それは……やっぱり私と貴方は似てる、おんなじだよ。でも嬉しいわ、それでもね」


 一瞬悲しい顔をした。でもすぐに耳をピンと立てて嬉しい顔をしてくれた。


 「そいつ、助けてくれたんだな。僕のこと」


 僕の腕の中にいるスビアの腕の中にいるピヨトリス。悪意の命とはいえ僕を助けてくれた。いやでも気に入ってしまうよこれじゃ。


 「ピー!」


 「後でエサをやるからな」


 やがて馬は地上に辿り着き煙となって消えた。


 「船が寝ている」


 斜め45度に傾いたマイナーノア。その近くでアイシスとアペプが何か話している。多分、この後の話だろう。


 「行こう、スビア」


 船に向かい、その後全員で船の傾きを元に戻した。






 超大型マンゴーデスワーム、ゴッドイータの討伐から二日後、僕らは酒場を貸し切って宴会を開いている。


 「さて、当初の予定通りアウシルの腕はシカモアの資産させていただく」


 冷たい酒をみんなで飲んでいる。やはり目的達成をした後の宴会ってのは最高だよ。でも前世でもそうであったように、こっから次の仕事に繋がる事もあるので気は抜けない。まぁこの人と仕事する事なんてもうないだろうけど。


 「そうだね、それで私達が必要になった時に私達が買い取る、ってことです良いんだよね、アペプ兄さん」


 「その認識で間違いない。だが報酬金の方については少し変更をさせて貰う」


 アペプは一枚の紙を取り出す。そこには報酬金から修理費手数料諸々を差し引いた金額が記されている。


 「4億パレルモつまり金5kg相当が今回の報酬だな。んでそこから各員に対する報酬、クラン維持費等を差し引いて俺の手元に残るのは8000万パレルモ、金1kg相当だ」


 当初の見立てでは報酬はその半分以下だったはずだ。何でこんな高くなっている?


 「何でそんな高くなってんです?アペプさん」


 「超大型マンゴーデスワームことゴッドイータはまさしく災害だ。だからこの街の政府が現ファラオであるセトに要請して討伐依頼を出したんだよな。んでそれが出させれたと同時に俺らがぶっ殺しちまったって訳だ。要は依頼主が報酬金を増やしてくれたって事だぜ」


 ん、ちょっと待てよセトがファラオ!?あの人、アウシルさんを殺して調子付いてクフフ王を退けてファラオになったのかよ。まぁでも自然な事かもしれない。スビアは野心家ってセトの事を評してたし。


 「さて、お前らもわかってるように俺は慈善事業をやらない。よってお前らに余剰分の7000万パレルモ、金0.9kg相当を提供してやろうと思うが、わかってるよな?」


 7000万パレルモ、金0.875kg相当。確かアウシルさんの腕って1億パレルモで金1.25kg相当って値段だったよね。だからここで7000万パレルモを受け取っておくってのは結構なアドバンテージになる。

 本当にそうだろうか?

 だってアウシルさんの腕って神の腕、極度に濃縮された魔力の塊である訳で、兵器にもエネルギーにもなる訳だ。だから1億パレルモってあくまで初期の値段でそこからアペプがどんどん価値を釣り上げるって事も考えられるだろう。


 「ではアペプさん、その代わり僕らはそちらに何を提供すればいいんです?」


 「ファラオ・アウシル、あるいはお前に以下を要求する」


 ファラオ・アウシル?それか僕?ちょっと待ってくれどういう事だ?


 「ちょっと待て。ファラオ・アウシル?それと僕への要求、なんでそうなるんだ」


 彼は一つ溜息を吐いてから答えた。


 「馬鹿だな。当然だろ、だって今のファラオがセトで、その政権を良しとしないからこそのアウシル復活だろう。であるのならばセトを引き摺り下ろすかセトと全面戦争しか道がない訳で、その先にあるのはアウシル一強の、あるいはアウシルの後継の政界だ」


 「それでこれを前提とすれば俺が要求するべきはアウシルか、あるいはアウシルに1番近い男児であるお前であるというのは自明のはずだ」


 僕がアウシルの後継……そんな事になるとは思えないけれど……まぁ良い、要求は聞いておこう。


 「話が長くなったな、簡潔に要求をする。俺を外務監査長官として重用しろ」


 外務監査長官、通称尻を使って椅子を拭く仕事。要するに政府内の閑職だ。確か昔のお偉いさんが政争に敗れてその閑職に追いやられたんだっけ。でも何でそんな職に就きたいんだ?


 「きな臭いなって顔してんな。仕方ない、俺はフェアにやりたいからな。俺は情報が欲しいんだ、冒険者兼商人としてな。最新の情報で稼ぎを得よう、それしか考えていない」


 なるほど、外務監査長官って外交とかそっち系の仕事なんだけど、決定権は一切持ってない仕事なんだっけか。でも外交系の仕事って事で自国と他国の最新の情報が回ってくる。面白がり屋の彼がその位に就きたいと願うのも必然だけれども……まだ何か信用できない。でも7000万パレルモは欲しい……どうするべきだ?


 「いいね、そうしようかアペプ兄さん。お父様もそれで納得してくれると思うから」


 アイシスは悩む僕を勝手に差し置いて回答した。


 「黙れ、今はシュンに聞いている」


 アイシスは目と耳で僕に訴えてくる。


 「僕としても同意見です、アペプさん」


 「よし、きな臭い話はこれで終わりだな」


 彼と握手をした後、楽しい宴会は始まった。誰かが芸をこなしそれを笑ったりとたりとそういう感じである。


 「スビア、あまり飲み過ぎないでね。アイシス持ち帰るの一人じゃ大変だから」


 度数の高い酒を飲もうとするスビアを止める。アイシスがもう出来上がっていて、あの調子だと気絶して帰る事になるから一人で宿まで運ぶのは辛いんだ。


 「大丈夫よ、私別にお酒飲んで人変わったりしないし」


 当然だよって顔で言ってる。この前の事忘れたのか、それか……わざとあんな態度を演じたのか?いや、まさかそんな事って。


 「おい!シュン!少し話がある!」


 アペプに声を掛けらる。僕は彼について行き、会場の2階の窓際に向かった。人が居ない、静かな場所である。


 「俺言ったよな、セトの家についての情報を教えてやるって」


 もちろん忘れては居なかった。でも宴会が和気あいあいとし過ぎて、いつ切り出していいか分からなかったんだ。


 「セトの妻、ネフティアを知っているな」


 ネフティア、セトの妻。確か別居して今は隠遁してるんだっけか。離婚寸前とかそんな話を聞いたことがある。


 「ネフティアはアウシルの右足を持っている。彼女はセトをあまり好いていないいない様だから、もしかしたら遺体を受け取れるかもしれない」


 彼から渡された紙そこにはネフティアの住所が描かれている。しかしこんな、都合の良いことがあるのか?


 「それは……そうなったら良いですけどやけに都合がいいですね」


 「まぁな。だってセトとアウシルは腹違いだ。それでセトの家に犬科は居ないんだったら、そういうことさ」


 答えになってない、そう思ったが直ぐに僕は気づいてしまった。

 セトの家に犬科は居ない。だとすれば、犬科の血を持っているスビアは何者なんだ?


 


 

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