決戦、アウシルの左腕
「ヴァダナギ、ギィダイダル、ニヴィル、ニヴィル」
奴の下腹部にコブができる。それは徐々に大きくなり、そして中から同じようなヒトガタが産まれ出てきた。なんでこんなグロテスクなんだ、この生き物は。
「魂がないだけにうわごとを……まったく傑作だよ、アヌンナキの科学者は史上最高の作家だ」
体躯こそ違うが、瓜二つの肉体。こんなものが生命といえるのだろうか、こんな、こんな本能的に悍ましいと思える生き物が。
「おい、ぼさっとしてんなガキ。俺が強え方をぶち殺すからそっちの雑魚と遊んでろ」
アペプはミミズの王に向かって突っ込んでいく。それと同時にミミズの王から産まれたミミズニンゲンは僕めがけて突っ込んできた。
「カペラさん!球ちょうだい!」
「はい!私はシュンに付くから!」
アイシスはカペラさんから貰った球体を握り潰す。そして向かってくるミミズニンゲンの顔面を蹴って吹き飛ばした。
「火の翅と太陽!?」
彼女の頭上にはエンジェルハイロウが如く太陽が浮かび、背中にはトンボのような火の翅があった。
「シュン、ここは任せて。私は火のように赤い馬に乗る者、アイシス・セクメィア=バスティヌスがキモいのをボコボコにする」
神名、アウシルさんと同じようにアイシスも神の魂を持っていたという事なのか。
「違うよ、シュン。アイシスちゃんは神の魂を持ってる訳じゃない。あくまで自身の魂に神の魂を降ろしているだけ、だから飲まれる前にあいつを倒さないと」
強がりだと言う訳か、カペラさん。なら、僕もあいつを倒す為に戦わないと。
「そう!シュン、火属性を限界まで濃縮させて、乾の性質を加えて。細長い風船に水を沢山入れるイメージ」
細長い風船に水を沢山を入れるイメージ……剣の形をした水風船って事?
「魔力の膜、火属性を込める、ビームのソード!」
赤い剣が赤い稲光を纏って僕の手に作られる。まるで映画で見た光の剣だ。でもこれはレーザーの剣だ。僕が使うならもっと違う奴の方がいい。
「細く、長く、これだ!」
日本刀、殺陣で何度か使った事あるから僕には西洋剣よりもこっちだ。
「シュン、いいね、その細い刀。いい感じに火属性が凝縮されている」
肩に乗って囁くカペラさん。でも少し聞こえにくかった。だってこの剣、うるさいんだ。僕の火属性の扱いが下手くそなせいで凄い音を立ててる。
「レーザーダイトウ、これでなんとか最低限戦える!」
魔力を全身に回す、身体が燃えるように熱くなり、身体機能が増幅する。
「スビア、君は隠れていろ!」
足を踏み締めて加速する。狙いは一点、左腕だ。
「アイシス!」
アイシスとミミズニンゲンの殴り合い、無数の風圧を生みながら続くそれは互角だった。
「シュン!」
光の大太刀が奴の左腕を切り裂く。打面は赤熱化し、地面も燃えている。
「人間と同じ筋肉なら!」
腰に差し込むその瞬間、奴の左腕が僕の目の前にあった。再生しているのか?これは死ぬ!?
「ピー!」
黄色い生き物の声が後ろから聞こえた。そしてそれと同時に奴の動きが止まる。ピヨトリスが止めてくれたのか!?
「背中の鑑賞だけで満足できる程、セトの家の血は無欲じゃないのよ!」
スビアがやってくれたのか、ならば、その隙を逃す訳にはいかないだろ。
刀を奴の脇下に突き刺し、こう唱える。
「伸びろ!レーザー!!」
レーザーは伸びて、脇から頭を貫く。ニンゲンの形をしているのなら、頭を消し飛ばせば身体は動かないはずなんだ。
「そのはらわたを!ブン殴るッ!」
アイシスの燃える拳、勢いよくはらわたに突き刺さり、その巨体をぶっ飛ばした。
「ニヴィルゥゥゥ!!」
巨体は壁の巨大な犬歯に突き刺さり、真っ二つとなる。下半身は下に落ちて、上半身がもがいてる。なぜか、わかるあいつはまだ戦おうとしている。逃げるのではなく、生きるのではなく、ただ戦おうとしている。
「シュン、止め刺さないと再生するよ」
カペラさんがそう言ってくれてる。だからこいつを殺そう。でもなんでだ、さっきまで戦ってて、悍ましい命だと思ってたのに、今更になって奴を可哀想だと思っている。
「眠ってくれ、命」
あぁそうか、今わかった。奴も命なんだ、どんなに悍ましくて気持ち悪くても、到底許されざる行程によって産まれたものであっても奴は命だ。僕やアイシス、スビアもそこは変わらない。だから僕は奴を可哀想と思っている。
「ミニチュア・ソル!」
小さな太陽を生成して奴に向かって投げる。太陽は奴の身体を飲み込んで焼き尽くし爆発した。後に残ったのは青い霧と欠けた犬歯だけである。
「アペプは?」
上を見た時、まだ戦いは続いていた。アペプが巨大な青いレーザーの剣を振り回しながら戦っている。
「主よ!天より我に力を授けたまへ!!」
巨大な青いレーザーの剣、それはミミズの王を肉体を消しとばして左腕だけにしてしまった。そしてそればかりか天井を、体内を消しとばして空にまで届いたのだ。
「回収完了だぜ!」
空中で青い結晶をキャッチするアペプ。彼はそのまま僕らのいる甲板に落ちてきた。
「よし、これで一件落着……」
その時、地面が落ちた。ミミズの王が死に、ゴッドイーターという巨大な肉体が倒れ始めたのである。僕らはただ青い空に放り出された。
「アイシス!!スビア!!!」
浮遊感と青空の中、二人の名前を叫ぶ。アイシスは赤い翅で飛んで、アペプは自由落下、でもあの人は大丈夫そう。だから今やばいのは、僕とスビアだ。
「シュン、馬を出すからそれに乗って!」
カペラさんの声が聞こえる。馬を出す?空中で!?
「な、なんだこれ」
死の恐怖、落ちる恐怖の中、自分の肉体から青白い煙が吹き出している。
「馬、馬!」
死に物狂いで出た単語、青白い煙は馬の形となり、気付けば僕も空に浮いていた。
「シュン、やっぱり貴方は……」
囁くカペラさん、でも今はどうでもいい。
「下に走ってくれ!馬!!」
青白い煙、幽霊のような馬を走られせて落ちるスビアとピヨトリスに向かう。
「間に合ってくれ!!スビア!!」




