産まれるべきではない
砂嵐の中、それは現れた。巨大な肉体、目のない顔、人間の歯、超大型マンゴーデスワーム、ゴッドイーターである。
「グォンニジヴァ……」
唸るようなとても低い声、船の警笛のようなそんな声。まさかあのマンゴーデスワームの声なのか?
「速力上げ!ウェルトシュタイナー1番2番撃てッ!!」
「ウェルトシュタイナー1番2番、撃ちます!」
轟音と共に主砲から赤色のレーザーが放たれる。凄まじい熱は周囲の空気と砲身を赤熱化させ、そしてゴッドイーターの腹に直撃する。その瞬間、レーザーは解けだ。
「バリアーかよ!?高密度の魔力を纏っているのか!寒がりなんだな!?」
アペプは大きく口を開いて叫んでいた。
「ヴァダジ……ザブイギライ……」
いちいち心臓が痛くなるような不愉快な音、耳を塞いでも狩らない。なんなんだ、この不安にさせくるような声は……
「バリアを全開にしてハイパーレーザーラムを起動!メインスラスターに電力を回すんだ!鉄の塊をぶつけりゃミミズだってひとたまりもないだろうぜ!」
ゴッドイーターは笑っている。唇はないのに、何故か僕はそう感じていた。なんなんだ、この生き物は。存在しているだけで不愉快に感じる。こんな感情を抱いたのは初めてだ。
「バリア開きません!ハイパーレーザーラムの出力が足りません!スラスター焼けちゃいました!」
やっぱダメじゃないか。仕様書もマニュアルも無しで修理もできてないんだったら使うべきじゃないよこんなの。
「重力慣性制御は最低限!ダメコンもスラスターも全部切れ!全てのエネルギーをハイパーレーザーラムに回すんだ!」
「アペプ艦長了解しました!ではお立ちの皆さんは適当にしがみついて下さい!」
指示通り、僕らは適当な手すりとかにしがみ付く。すると徐々に肉体が後ろに引っ張られ、ついには足が浮いてる。
「あ、ピーちゃんこっち!」
スビアは黄色い影を追いかける。それに釣られてアイシスもスビアを追いかける。
「バカ!スビア!」
「アイシス、手を!」
アイシスを手を繋ぎ、アイシスはスビアと手を繋ぐ。スビアはピーちゃんを抱き抱えて、なんとかこの後ろに引っ張られる慣性に耐える。
「ハイパーレーザーラム!出力14%、展開完了しました!」
艦首から棒が伸びて、棒が八方向に分裂する。八方向に分裂した棒から青色の光が発生し、半開きの傘のようになって船を包んだ。
「14%!?低過ぎるぜ!なんかもっといらん機能全部切っとけ!」
叫ぶアペプ、しかしモニターにはCAUTION!とデカデカに表示されている。
「無理です!ぶつかります!」
外に見える不敵な笑み、大きくなっている。
「あらそうなの!?んじゃそのまま突き刺せ!この船が剣なんだ!」
アペプの号令、そして全ての光景がゴッドイーターの黒い腹に覆われた時、衝撃が走った。
「シュン!」
慣性が一気に前になり、スビアとアイシスが僕に飛び込んでくる。一瞬の甘いような香りの後、硬い床に背中と頭がぶつかる鋭い痛みが襲ってくる。
「あ、私達シュン君をクッション代わりに。ごめんなさい」
「いいんだ、別にいいん……だ」
全ての電源が落ちて暗くなっている。窓の外は全てが赤く染まっている。だけど、なんなんだ、この違和感。赤色の中にどんどん模様が入っていく。手形見たいな。
「お前ら、外に出るぞ。いや、腹ん中だから中に出る?んん?まぁいくぞ」
アペプはあの黒い剣を背中にぶら下げている。
「わかってますよ」
彼について行き、甲板に出る。僕は外界の衝撃的な光景に驚いた。
「歯が、身体の中に?違う、こんなのマンゴーデスワームじゃない」
腹の中に歯がある。無数に、壁が歯で埋まってる。マンゴーデスワームの腹の中はこんなになってない。しかもあれ、歯の間に挟まっているあれは……髪の毛?なんなんだ、この生き物は。
「なるほど、カチ壊れた命か。産まれるべきではなかった、全く気色の悪く度し難い生き物だぜ」
「どういうことなんです?アペプ」
「神の力を帯びて異常発達したマンゴーデスワームのアモルファス球状核。要するに肉袋、ニンゲンの失敗作の失敗作さ」
何を言っているのかわからない。
「だからどういうことなんだって、わかりません、貴方が何を言ってるのか」
「アヌンナキの作った失敗作の失敗作ってことさ、ほらくるぞ」
上から降ってくる目玉。瞳が三つある。気持ち悪い、今にも吐きそうだ。
「シュン、しっかりして」
吐きかける僕を支えるアイシスとスビア。
その時、目玉の瞳は触れ、そして弾けた。
「ほほう、面白い。俺の神性に当てられたか、あるいは親父の面影でも見たのか?」
目玉の中からヒトガタの生き物が、ヒトガタのマンゴーデスワームが現れる。
ヒトガタのマンゴーデスワーム、顔は瞳がなく鼻も無く、唇もなく、ただ人の歯のある口だけがある。しかしなんだ、それ以外は人間のような形をしている。足の指も手の指も五本で、妙に筋肉質な身体付きをしているんだ。
「ヴァダナギ、ヴァダナギ……」
ヒトガタのそいつは自らの腕で胸を引き裂き、そして胸の中に埋まっていた青い結晶を取り出した。青い結晶は太い棍棒となり、奴の武器となる。
「ミミズの王という訳か。輪切りにする手間が省けたぜ」
余裕綽々のアペプ、目を大きく見開かせるアイシス、固唾を飲むスビア。そして、口が閉じない僕。
「あの結晶の中、左腕がある……あれはきっとアウシルさんの腕だ」
アウシルさんの魔力が、アウシルさんの神性が、あの結晶に込められている。




