砲塔は回らない
「コカトリスの目を見ちゃいけないって有名な話でしょ!何やってんのさ」
しまった、そんな話あった気がする。でも今回ばかり油断していた僕が悪い、まさか目を見ただけでこんななるなんて思わなかったんだ。
「ご、ごめ……ぼ、ゆ」
呂律が回らない、アペプから貰った酒を飲んだ時よりも幾分も酷い。こんなんじゃ戦いになんてならない。
「キィィィィー!!」
コカトリスが叫んでいる。動けない、このままじゃ……
「スビア!飛んでくるよ!」
コカトリスは強靭な脚力を利用して甲板に飛び上がる。スビアとアイシスは僕の少し重い体を引っ張り、砲塔の裏まで引き摺った。
「シュン、ちくっとするからね」
袖が捲られ、注射の針が動脈に刺さる。全身の力が抜けていくけど動かせる訳ではない。これは、弛緩剤なのか?しかも結構強力な。
「どうするの?アイシス、あれ。ねぇ、ぴーちゃん」
スビアはピヨトリスを抱えたままだった。ペガサスライムの時に子鹿みたいにガクガク震えていた少女とは思えない。だって今の状況って結構まずいじゃないか。
「うっわぁ貴方……」
アイシスだってすごく引き攣った顔してる。耳を絞って首を傾げて口を開けて、これドン引きしてる時の顔だ。
ペガサスライムとコカトリスの時でどんな差がある?今もペガサスライムの時も同じように生命の危機だし……
まさか、自分に非がないから?彼女は死ぬよりも説教される事を恐れてるのか?いやまさか、そんな。
「よっと、ねぇスビアちゃん」
アイシスの髪の中から現れるカペラさん、彼女はスビアのバックを指さした。
「あぁ、これのこと?さっき拾ったオーパーツ」
彼女の取り出したもの、それは鏡だった。転生前の世界にありふれていた物というのもあるし、アウシルさんの家にあったというのもあるだろう、忘れていたけれどこの世界では鏡なんて作れず、オーパーツって形で出土した物を使うのだ。
「あと、これも」
彼女が取り出した物、包帯みたいな形をしている。これは……布テープ?船の中にあったの?太陽神ラーと300人のアヌンナキの船に?神の船に布テープ?
「こういう事ね、カペラさん」
彼女は鏡を右目に押し当て、布テープでそれを固定した。なんか、サイボーグみたいだ。
「うわださ……えっとねスビア、両眼視野26度で目が合うと肉体が硬直する。だから貴方は右側から出てってコカトリスの真正面に立って。それで私はこの馬鹿を砲台に使ってあいつを倒す、確認だけど喋れるよね?ちょっとは」
「う、うん。い、いけ、る」
呂律はあんま回ってないけれど、しゃあくらいは言えるはず。だってこの前シャーベットで発動したし。
「んじゃ作戦開始だ。頼んだよスビア」
正直これまた破れかぶれな戦い方だと思う。でも今回ばかりは僕のせいだから僕が何かを言う権利はない。
「行ってくるわ!」
砲塔の影から出ていくスビア、コカトリスが彼女を見ている内に僕はアイシスに引き摺られて奴の横に出る。
「キィィィィ!」
コカトリスの眼光、倒れるスビア。されどコカトリスの瞳もまたコカトリスの瞳を見ている。
「キィッ!!!」
倒れる巨大、尻尾の蛇はまだ動いている。蛇の目とアイシスが見つめ合う。しかし、何も起こらなかった。
「大丈夫、このコカトリスの尾の蛇はコブラ科。嗅覚は鶏頼りでピット器官を持ってないから動かなければ感知されない。だから今だよ、心臓を撃ち抜いて」
また早口を!でも、でもだよアイシス、僕は鶏の心臓の位置なんて知らない。あぁでもあんな巨大で、しかも尻尾に生き物だってついてんだ、なら心臓だってデカいはず、適当に二、三発撃つから当たってくれ!」
「しゃ、しゃあ!」
右目が3回発光し、光線が雄鶏の肉体を貫いた。蛇がのたうち回っていない事を見るに痛覚は共有していないのか?
「よし、なんとかなったけれど……大惨事だね」
その後、カペラさんとアイシスとで僕とスビアを船の中に運んだ。鶏には水属性に乾・冷の性質を加えて凍らせたらしい。
「んじゃ外でご飯作ってくるから。あ、カペラさん人間になって手伝って」
ハンモックで寝かされながらアイシスを見送る。隣では同じく、スビアも目だけで行ってらっしゃいと言っていた。
「申し訳ないな、ご飯まで作らせてしまって」
今回ばかりは僕の油断が招いた行為だ。僕がちゃんとコカトリスのことを調べる、というかアイシスに聞いておけばこんな事にはならなかった。スビアやアイシスを危険に晒して、本当に悪いことをしてしまったと思う。
「人に謝りすぎるのはダメって言っておいて、貴方は謝っちゃうの?さっきからそればっかりよ」
「そうだな、うん。ダブスタだよ、本当に。ごめん」
「ほらまた言ってる。似てるのかもね、私達」
スビアと僕が似ている?そりゃないだろう。僕は彼女みたいに簡単にコカトリスの前には立てないよ。そんな簡単に……あれ、簡単に?僕は簡単にアウシルさんの復活に手を貸しているよな、間違えれば死ぬかもと知りながら。簡単に死ぬか持ってことをできてしまう、その点は似ているのかも。
「ねぇ、貴方がダブスタしたんだから、私もダブスタしていい?貴方のご家族の事を教えてよ」
「僕の家族の事なんて聞いてもしょうもないよ」
「いいよしょうもなくても。私はアイシスちゃんだけが貴方の本名とか家族の事知ってるのは狡いなって思ってるだけなの」
彼女の微笑み、とても女性的な微笑みで、彼女に全部話してやりたくなった。でも一つ思うのが、コカトリスに睨まれて死にかけてこんな表情できるのはおかしいだろって話だ。
「僕のお父さんは、なんて言えばいいかな。演者だったたんだ。凄い人だったよ、僕も演者としてお父さんを尊敬してる。でも演者一筋だったから母に逃げられてしまって……」
俳優をやっていた父の事、色々芸を仕込まれた事、チャランポランな兄の事、大体は話した。恥ずかしながら、自分は父の足元にも及ばなかった事も話した。
「貴方って家族の事、凄い遠い他人みたいに話すのね。ねぇ、次はさ、名前教えてよ。貴方の本当の名前」
僕の名前、別に教えてもいい。かっこよくもないし恥ずかしくもなんともない、本当に無難な名前だしね。でも僕も少し意地悪したい気持ちになってしまった。
「それはフェアじゃないよ。僕の名前を、僕の事を知りたいんだったら君も僕に君の事を教えるべきだ」
「ごめん、それだけは無理なの」
即答だった。彼女はどうしても自分の過去とか家庭についての話をしたくないらしい。
「そうか、ならいいよ。そうだな、僕がなんかやらかした時に僕の名前を教えてやる、そしたら君は許してくれ、僕の事」
会話の終わり、ちょうどよく扉が開いた。でもご飯の匂いはしなかった。失敗したのか、それとも外で食べようってことなのか。生憎だが今は二人とも動けな……
「え?なんで貴方が……」
「よぉ、つまらん男。迎えに来てやったぜ」
そこに居たのはアイシスではなく、アペプ・アポピスだった。
「さて、と行くぞ」
アペプに無理やり俵のように持ち上げられ、外に連れ出される。そして外には巨大な影があった。
「あれは……戦艦?」




