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大蛇のアペプさん?





 「いいけど、ちょっと待っててね」


 一度洞窟の中に入り、瓶からスライムの体液を取り出してそれを焚き火で暖めてスライムのスープ、スライープを作る。できたてのそれを二つ持って洞窟の外に出る。この味噌汁みたいな味、なんとかして豚汁みたいな味に出来たりしないかな。


 「いるか?いらないなら僕が飲んでしまうけど」


 岩に腰掛けているスビアにスライープを渡す。


 「気が効くのね、ありがとう」


 スライープを飲む彼女、コップには少し口紅の跡が付いてきた。元々僕と話す予定だったのか?いや、これは思い上がりだな。別に就寝前に薄い化粧くらいするだろう、自分以外に二人と一匹がいるんだから。


 「薄々、貴方も気付いてるんだろうけどさ。あの凄く大きいマンゴーデスワーム、あれは多分食ってるわ。だってあんなに大きくなれる程に魔力を内包した物ってこの世界に二つしかない」


 この二つ、一つは神の道具あるいは武器である神器。そしてもう一つは、神の遺体である。つまりあのめちゃくちゃデカいマンゴーデスワームはアウシルさんの遺体の一部を食った可能性があるって事だ。だとしたらあのマンゴーデスワームを倒す必要があるけれど……どうするの?倒せる気しないぞ、あれ。


 「だろうな。後回しにするってのも考えものかもしれない」


 「ごめんね、こんな話しちゃって。まだするべきじゃなかったわ」


 残念って、顔に出てたかもしれない。あからさまだったから彼女を謝らせてしまって申し訳ないと思う。でも、なんだろう、一週間のちょっと彼女と過ごして分かったんだけど、この人はすぐに謝る。自分に非がある時は美徳かもだけど、自分に非がない時にすぐに謝るのは違うと思う。


 「今の、なんで謝るんだ?貴方は悪くないだろ。なんというか、その、ペガサスライム倒した後の時もそうだけど謝りすぎなんじゃないか」


 一度斜め左下を見るその顔。そう、その幸薄そうな顔だ。なんとも可愛いらしくて守ってやりたいと、そんな気分にさせる顔だけれど、その顔をされながらごめんと謝られるとなんだか僕が悪いんじゃないのかって気分にさせられる。


 「悪いのは私だよ」


 「貴方は何も悪くない。ペガサスライムの時だってあれはただの事故だし。だから、そうだなあまり謝らないんで欲しいんだ」


 彼女は少し、ふふっと笑った。


 「ごめんね、あ、謝っちゃた。あぁ、その、なんだろ。貴方は少しだけお父様に似てるなって」


 お父様?彼女の父親ってアウシルさんを殺したアウシルさんの弟のセトだよな。そんな人と僕が似ている?てか会ったことあるけどあいつ人間よりもレタスの方が大事みたいなおかしな人だったぞ。


 「お父様はさ、マキュベリストで本当に容赦ない野心家って感じの人なんだけど、その反面、どこか情けなくて可哀想で寂しくて、優しい人なの」


 優しいなら人殺しなんてするなよ。一番に抱いた感想だった。人には人の事情がある、それは分かっていたけれど、アウシルさんを殺した、人を殺したって事実は変わらないだろう。


 「貴方はあんな怖い人になっちゃ駄目よ」


 「人殺しになんてならないよ、絶対」


 何より僕に人を殺せる覚悟なんてないしね。いざ殺すとなったなって、包丁でも魔法でも持ったら、震えて逆に殺されるのがオチだろう。僕は、そういう人だ。


 「そろそろ寝るわ、身体も暖まったし」


 「僕もそうするよ」






 翌朝、日が出ると共に洞窟を出て街に帰る。報酬を受け取るためにギルド館へ直行すると、何か妙に館内が騒がしかった。超大型マンゴーデスワームの件だろうか。


 「あ、シュンごめん身体貸して」


 報酬を受け取る最中、アイシスは僕のローブを深く被って僕の身体を使って隠れた。何か不都合でもあるんだろうか。というか、可愛いなこの人。頬をむすっとさせながらフードの中で耳を折りたたんでるんだろう、焼けた肌で。こんなの、本当に猫みたいじないか、酒飲んでないのに。これは……ズルるいよ。


 「申し訳ありませんね、騒がしくて」


 後ろでは金髪の長身痩躯の男が酔っ払ってクランの勝利に乾杯って宴会やってる。別にうるさいとは思わないけれど、これとアイシスの態度に何か関係があるのかな、とは勘繰ってしまう。


 「気にしていませんよ、僕らは」


 受付のお姉さんは一度バックヤードに入って報酬を準備する。その間、暇だったので後ろの宴会を眺めていた。


 「ん、駄目だよシュン。ああいうのはね、どうしようもないから」


 やっぱりアイシスは何か変だ。めちゃくちゃ不機嫌な時の声色で喋ってる。


 「そこまで言うことは……」


 その時、金髪の長身痩躯の男の赤い瞳と目が合った。背中から冷たい汗が吹き出す。身体が固まって動けない。目が合っただけなのに、なんで蛇に睨まれた蛙みたいになってるんだ。


 「お!新人かぁ!」


 酒を持ったまま金髪の男は近づいてくる。敵意はない、でもさっきのはなんだったんだ。


 「よぉ!俺は冒険者クラン、シカモアのクランリーダー、最強の冒険者アペプ・アポピスだ。お前ら新人なんだろう?たらふく稼ぎが入ったから酒奢ってやるよ」


 金髪の赤目は僕らを一瞥した後、視線をスビアに向かわせる。


 「お前結構モテるんだな、新人。こんな可愛い嬢さんも連れてさぁ。羨ましいぜ。そっちも美人さんなんだろ?」


 アイシスは深く息を吸ってため息を吐く。そしてフードを開けた。アペプを睨んでる、絞り耳で。これは、めちゃくちゃ怒ってる時の顔だ。


 「辞めてね私の友達口説くの。不愉快だから、アペプ兄さん」


 アペプは腰を抜かして倒れた。そしてまるで幽霊を見たような顔をしてアイシスを指差していた。


 「お父様が死んだ矢先に最強を名乗って、本当にみみっちい穀潰しだよ、貴方は」


 兄がいたなんて、知らなかった。


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