僕の存在について
「だんだん貴方のことわかってきたの。貴方、この世界の人じゃないでしょ」
遂にバレたか。でもバレた所で問題はない……はず。
「安心して、それでどうこうって訳じゃない。昔の契約者がそうだったから気になっただけ」
昔の契約者……僕の知ってる限りだと、大昔のファラオか。あぁ、どうりで妙に天文学とか武具とかが発展してるなと思ったらそういう事か。
「で、私が言いたいのはこっち。貴方は私の昔の契約者とは違うやり方で来ている。貴方は一度死んでこの世界に来ている。だってその右目のビーム、そのエネルギーは冥府由来だもの」
そこまでわかっているのか。ならもう、全部話してしまおう。
「そうだ。僕は一度死んだんだ、それで僕は力と使命を打ち倒す者、メジェドに貰った。そして使命を授けられたんだ、君はアウシルさんの身体を探せって。でも勘違いしないで欲しい、僕はアウシルさんが好きだから身体を集めてるんだと思う」
カペラさんは一度地面に降りて、赤い球を転がす。そして転がして円を描いていると、赤い球が突然発光した。
「眩しっ」
あまりの眩さに目を瞑る。そしてその後目を開くと、そこにはあの壁画にあった、白いローブで涙ほくろの目立つ貴女が居た。そしてその貴女は僕に優しく抱きついて、その柔らかい胸の中に押し付けた。
「人間形態はあまり好きじゃないんだけれど、こっちの方が貴方の感情が深くわかる。そしてこの状態での触れ合いは、感情だけではなく、記憶も読み解ける」
記憶……それは嫌かもしれないな。僕は案外情けない人だ。まったくかっこよくもない、情けない人。だからあまり記憶読まれるなんてやって欲しくない。
「シュン、貴方、誰かにこうして知ってもらいたくてスピリタスって叫んだでしょ。純粋に寂しかったから」
「そうだよ。転生前の世界と比べて、内省する時間が増えた。静けさに釣られてナイーブになって、馬鹿みたいだと思うよ、僕も」
「それにさ、この肉体は僕の肉体じゃない。だから僕がこの肉体の魂を殺したんじゃないか、あるいは僕の魂がこの肉体に宿った魂と混じって、元の魂も僕の魂も殺してしまったんじゃないかって」
抱き締める力が強くなる、背中をゆすってくれる手が優しい。これが母親って事なのか?いや、お姉さんなのか?わからない、僕には母親が居ないから。でも一番わからない事がある、なんでこの人は出会って一ヶ月の僕に母親のように、姉のように振る舞っているんだ?
あぁくそ、なんで僕は疑ってる、彼女の行為が善意からのものだってわかってる、なのになんで最後の最後で疑うんだ。
「貴方はシュンだよ。有馬隼でもなく、奴隷42番でもない。貴方はシュンで、貴方の肉体は貴方のものでしかない」
そういう、事か。つまり転生前の僕がこの肉体の魂を殺した事は違いない。でも今の僕の魂は転生前の僕ではなく、シュンという魂である。故に僕のシュンという魂に罪はない。
「少し救われた気はする、でも寂しい、かな。転生によって僕が死んだことに違いはないから」
「魂の砕ける時は一瞬だよ。だからその瞬間を知覚することなんてできない」
死が存在する時、私は存在しない。そんな言葉を思い出した。実際、少し言葉とは違うけれど、僕は今告げられるまで転生前の僕と地続きの存在だと思っていた。ある部分では。それは明確に魂が砕けて混じる瞬間というのを知覚できなかったからなんだろう。
でも砕ける感覚というのは今わかった。魂ではなく、信頼が。
「え、何してんの、シュン。カペラさんも」
スビアの頬は赤く染まっていて、アイシスは僕を軽蔑の眼差しで見てる。あぁ、どうしようかな。なんか言い訳は……ないな。
「シュンがナイーブだったら慰めてやったんだよ。よっと!」
ぽん!っと白い煙と音を立てながらカペラさんはフンコロガシに戻った。
「別にえっちな事なんてしてないからね」
アイシスは座り込み、スビアの頬はさらに赤くなり手で顔を隠している。
「わかってるよカペラさん。だって私ら契約関係だからね」
カペラさんはアイシスの頭の上に止まる。すると突然、アイシスはため息を吐いた。
「こうやって触れてると、カペラさんと私とで記憶と感情の受け渡しがされる。だから今わかったよ貴方のこと」
カペラさんも人が、いやフンコロガシが悪いよ。隠してたのは僕だけれど、僕だって男で、アイシスの前ではやっぱりカッコつけたかったんだ。だから僕の人生を暴いてバラす事はないでしょう。
「わかった上で言うけどさ、カッコつけたいんだか職業柄だとか知らないけどさ、なんで私達にシュンで名前通してんの?」
「平凡な名前だからあんま好きじゃないんだよ、あれ」
有馬隼、おもいっきり偽名だ。別に元の名前が嫌いってわけじゃないけれど、有馬隼の方がカッコいいし、僕にとってこっちの方が馴染みある名前だしで、転生後のこの世界ではこっちの名前を真名にしてやろうかなと思ってた。けどこんな早くバレるとは思わなかった。
「そうなんだ。んじゃ怒った時にその名前で呼ぶことにするよ」
「それはちょっと嫌だな、親にフルネームで呼ばれる時の感覚を思い出しちゃう」
ふと横を見るとスビアが首を傾げていた。多分、何も分かってないんだろうな、この状況。可哀想だし、もう辞めにしとこうか。
「風呂入ってくるよ」
「そう、もう日が沈みかけてるから急いで入ってきてね。今日の夕飯はこれ食べるよ」
アイシスは脇に置かれていたペガサスライムの核入りの瓶を指さしていた。
「え、マジでそれ食べるの?」
その後、僕は風呂を済ませて夕飯をみんなで食べた。米と野菜を入れて温めたスライムの体液に放り込む料理、スラまんまは案外美味しかった。なんというか、スライムの体液が味噌汁みたいな味だったんだ。
「んじゃおやすみだね」
夕飯の後、焚き火を囲んで眠る。むろん厚い布団は嵩張るので薄い布団を持ってくるしかなく、焚き火があってもかなり寒かった。しかも地面は硬いし。こんなの眠れる訳がない。だから一時間程、何もせず目を瞑って過ごしてしまった。
「……寝れやしねぇよ」
目を擦って周りを見渡す。カペラさんは当然虫なので寝れるとして、なんでアイシスは大の字で爆睡してるんだ。
「起きてるのか?」
洞窟の出口で星を眺めてるスビア。どうやら彼女も寝付けなかったらしい。二人を起こさないようにそろりそろりと歩き、彼女の元に向かった。
「これは……」
満天の夜空。日本に居た時よりも何倍も美しい夜空。天の川がはっきりと見えて、星が瞬き、流れ星が流れてる。
「綺麗よね、本当に」
流れ星に合わせて願ってみる。でもなんか……多くないか、流れ星。こんなものなんだろうか、なんか疲れてきたな、願うの。
「ねぇシュン君。寝れないんでしょ、少しお話しでもしていかない?」
彼女の耳は少し垂れていた。




